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ヴィヴィットにしてダーク、ポエティックにしてドラマティック。ケクランを歌う... [2005]

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フランスの音楽が続きます... って、またケクランなのだけれど...
何だかんだで、フランスの音楽が好き。というあたりを再確認する今日この頃。で、その魅力とは?近頃、思うのは、多様性かなと... ドイツの音楽は、丁寧にひとつのストリームを鍛え上げて行くのに対して、フランスの音楽は、それぞれの作曲家のクリエイティヴィティの飛躍が、思いもよらない展開をもたらすのか。作曲家、ひとりひとりの自由さが、ドイツにはないおもしろさを生み出すように感じる。その自由さが織り成すストリームは、どこかで、常に乱反射を起こしていて、ドイツの生真面目さが生む、ひとつの方向へと伸びる光とは違う、ヴァラエティに富んだキラキラとした輝きが、フランスの音楽の魅力のように感じる。それでいて、そのキラキラとした輝きには、そこはかとなくフランスならではのトーンもあって。自由にして浮かび上がるトーンというのが、また興味深い。
ということで、ケクラン。印象主義の作曲家ではあるけれど、この人もまた自由な感性を持つ作曲家であって、我が道を貫いて到達した境地は、なかなか他には探せない。そんなケクランの晩年のアンサンブル作品を聴いての、それ以前の声楽作品... 2005年にリリースされた、ハインツ・ホリガーの指揮、SWRシュトゥットガルト放送交響楽団の演奏で、ドイツのソプラノ、ユリアーネ・バンゼを中心に、SWRヴォーカル・アンサンブルも歌う、2枚組、ケクランの声楽作品集(hänssler/93.159)を聴き直す。

1枚目の始まり、エドモン・アロークールによる4つの詩(disc.1, track.1-4)、そのひとつ目、「月の光」の、あまりにオペラティックな展開に、驚きつつ、面喰う!晩年のアンサンブル作品で聴いたばかりの、削ぎ落された繊細なサウンドを思い返すと、独自の境地にはまったく遠い、若きケクランの音楽... 20世紀を迎える前、1890年の作曲(オーケストレーションは1894年... )となると、ケクランは20代前半、パリのコンセルヴァトワールでマスネらについて学んでいた頃であって、そうした影響は大きかったのだろう。が、こうもオペラティックな音楽が流れ出すとは... 「ケクラン」というイメージで聴き始めると、やっぱり面喰ってしまう。しかし!師、マスネにも負けないその華麗さ!ドラマティックさは、魅了されずにいられない。ケクランは、オペラを作曲しなかったようだけれど、この「月の光」を聴いてしまうと、オペラを聴いてみたかったと、つくづく思う。きっと、ブルーミンで魅惑的なオペラを書き上げたはず!それは、いわゆるケクラン・サウンドではなかったとしても、見事に、マスネが一世を風靡した時代の、グラマラスな音楽に成り得ていて、思い掛けなく聴き入ってしまう。
という歌曲を聴いた後で、オーケストラのみによる、2つの交響詩からの「遠い浜辺への道」(disc.1, track.5)... それは、期待を裏切らないケクラン・サウンド!夜想曲というサブ・タイトルの通り、静かに、また鮮やかに夜の情景が描かれて、印象主義の音楽の真骨頂!で、このアルバムは、声楽作品集とはなっているものの、この「遠い浜辺への道」のような管弦楽曲も含まれる。そして、歌が入ると、少し重く、濃いイメージとなるのか?ケクランの音楽。バンゼの声質もあるのかもしれないけれど、歌の入らない作品の、ケクランならではの瑞々しいサウンドは、歌曲に挟まれることで、また際立つようでもあり... そんな管弦楽曲で、さらに印象的なのが、2枚目、古風な練習曲(disc.2, track.3-5)。シンプルな音で綴られる「古風」さは、ミニマル・ミュージックのような表情を見せて、ちょっと驚かされる。が、そのミニマルさが、見事、アルカイックな美しさとなっていて、ケクランのセンスを感じずにはいられない。それにしても、ミニマル・ミュージックの源流はフランスの音楽?例えば、フィリップ・グラスがナディア・ブーランジェに師事していたりするわけで... ちょっと興味深く思う、つながり...
そんな発見もあった声楽作品集。ケクランのオーケストレーションによるフォーレの「メリザンドの歌」(disc.1, track.9)と、古風な練習曲(disc.2, track.3-5)以外は、どれも世界初録音だったというから驚かされる。となれば、本当にマニアック... そもそも、オーケストラの魔術師の、歌曲を聴こう、それも2枚組で、という事態が、何だか凄い... ホリガーのケクランへの熱の入れ様には、ただならないものを感じてしまう。のだけれど、ホリガーならではの少し冷えた感覚と、SWRシュトゥットガルト放送響のクリアな感覚が捉えるケクランは、やっぱり美しく。そこに、バンゼの落ち着いたソプラノの声が、リリカルに乗って、魅惑的なことこの上なし!バンゼの少し重く、仄暗いトーンが、ケクランの印象主義に、象徴主義の謎めく気分を纏わせて、グっと奥行きを広げるよう。そうして、ケクランの時代の匂いが漂い、そのあたりにも酔わせてくれる。大いにマニアックにして、巧みにひとつのワールドを創り上げてもいて、ホリガーの構成の上手さに、脱帽。で、そのケクラン・ワールドに、たっぷりと幻惑される... ヴィヴィットにしてダーク、ポエティックにしてドラマティック。8年前、この2枚組を初めて聴いた時、こんな感覚を持っただろうか?と、自身を振り返るのだけれど、ここまで、多くのアルバムを聴いて来て、某かの成長があったのだろうと、そういう感慨もあったりして、聴き直して良かった。

CHARLES KOECHLIN vocal works with orchestra

ケクラン : エドモン・アロークールによる4つの詩 Op.7 *
ケクラン : 2つの交響詩 Op.43 より 第2曲 「遠い浜辺への道」(夜想曲)
ケクラン : 秋の詩 Op.13 *
ケクラン : アンドレ・シェニエの2つの詩 Op.23 より 第1曲 「若いタラントの娘」 *
フォーレ : メリザンドの歌 〔オーケストレーション : ケクラン〕 *

ケクラン : 3つの歌曲 Op.17 より 第2曲 「死者の祈り」 *
ケクラン : 3つの歌曲 Op.17 より 第3曲 「公現祭」 *
ケクラン : 古風な練習曲 Op.46 より 第2曲 「湖畔の夕暮れ」
ケクラン : 古風な練習曲 Op.46 より 第3曲 「アンフィトリテの行列」
ケクラン : 古風な練習曲 Op.46 より 第4曲 「若い女の墓碑銘」
ケクラン : アルベール・サマンの詩にもとづく6つの歌曲 Op.31 より 第1曲 「カノープスの眠り」 *
ケクラン : 亡き若い娘たちの思い出のための葬送歌 Op.37 *

ユリアーネ・バンゼ(ソプラノ) *
SWRヴォーカル・アンサンブル・シュトゥットガルト *
ハインツ・ホリガー/SWRシュトゥットガルト放送交響楽団

hänssler/93.159




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