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ナポリ楽派、スター、歌合戦。 [2012]

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クリスマスも終われば、もういくつも寝ていられずに、お正月。
の前に、紅白です!とはいえ、ここのところ、音楽へのテンションが低下傾向にあるせいで、それほど関心が持てていない事実もあるのだけれど、何だかんだで見てしまうのが紅白... 幸子が出なくても、ツッコミどころは満載のはず。というあたりはさておき、今回、取り上げるのはバロックの歌合戦。バロック期は、今にも勝るスターの時代。どれだけの歌手を揃えられるかで、ヘンデルなどは悪戦苦闘したわけだけれど。そんな時代を垣間見る、驚くべき録音が登場した!カストラート全盛期、女性の役もカストラートがカヴァーした舞台を再現する、豪華、カウンターテナー5人(+テノールひとり)を擁しての、男だけで歌い上げる、あまりに大胆な挑戦!
ディエゴ・ファゾリスの指揮による、コンチェルト・ケルンの演奏で、フィリップ・ジャルスキー、マックス・エマヌエル・ツェンチッチの、カウンターテナー、2大スター競演による、ナポリ楽派の異才、ヴィンチのオペラ『アルタセルセ』(Virgin CLASSICS/6028692)を聴く。

レオナルド・ヴィンチ(1690-1730)。
「ダ」のないレオナルド... ヴィンチ... ということで、紛らわしい。何しろ、レオナルド・ダ・ヴィンチも音楽家だったりするから、検索をかけるにしても、ちょっと一苦労。ルネサンスの巨人、レオナルド・ダ・ヴィンチにすっぽりと隠れてしまうレオナルド・ヴィンチ。とはいえ、バロックの異才も、音楽史に残した功績は、じわりじわりと再評価が進んでいる?という、レオナルド・ヴィンチ。イタリア半島の南端、カラブリア地方の小さな町、ストロンゴリで生まれ、ナポリで学び、やがてナポリ楽派の一角として、ローマや、ヴェネツィアで活躍。が、そのキャリアの絶頂で謎の死を遂げる... ローマの貴婦人との不適切な関係があだとなって、毒入りココアを飲む羽目になった?などと、その当時からスキャンダラスに語られたようだけれど、確かなことはよくわからないらしい... が、そのヴィンチの死の年に作曲された、ここで聴く、彼の最後のオペラ『アルタセルセ』が凄いのは、確か。
まず、始まりのシンフォニア(disc.1, track.1)から凄い!1730年といえば、ロンドンで、ヘンデルがポルポラとの熾烈な競争を繰り広げていた頃で、まさにバロック・オペラ全盛期!のはずだが、ヴィンチのシンフォニアには、すでにバロックを脱しようとする展開が見て取れて... 軽快なリズムに、ブラスが派手に色を添えて、前古典派の交響曲を思わせる華やかさに、おおっ!?となる。同時代のヴィヴァルディのオペラのシンフォニアを思い返せば、その先進性に驚かずにいられない。そこから、立て続けにすばらしいアリアが続き、1幕からグイグイと惹き込まれる!バロック・オペラのアリアが持つ、やや単調で硬質な感覚は薄れ、より趣向を凝らした動きを見せるヴィンチのアリアに、改めて認識させられるナポリ楽派の先進性... というより、ナポリ楽派こそが切り拓いたポスト・バロックの、よりメロディックで情感豊かなアリアは、スターの時代を象徴するアクロバティックなコロラトゥーラにも彩られて、圧巻!さらには、完全に次の時代を聴かせるレチタティーヴォ・アッコンパニャートの劇的なあたり... 1幕のアルタセルセのレチタティーヴォ(disc.1, track.17)など、アリアとアリアを台詞でつないで物語を補うそれまでのレチタティーヴォとは違う、シーンを描き出す巧みなオーケストラ捌きに、古典派そのものを見出すかのよう。バロック的なナンバー・オペラの枠組みは、最後まで守られてはいるものの、ひとつひとつのナンバーが発するドラマ性は、オペラ改革に乗り出したグルックのウィーン時代の作品より上回っているのかもしれない。
スターも輸出したナポリ楽派(作曲家のみならず歌手の育成にも力を入れた... )、スターとセットでオペラを輸出したといったイメージがよりしっくり来るだろうか。そのオペラはスター主義と捉えられ、当時から批判もあったわけだが。一方で、全ヨーロッパを席巻し、その影響下に置いたのもまた事実... グルックのオペラ改革も、さらにはモーツァルトのオペラも、ナポリ楽派が生み出したモードがあってこそのものなのかもしれない。そして、この『アルタセルセ』を聴いていると、その後の18世紀のオペラの予告編のように思えてきて、とても興味深い。例えば、フィナーレのコーラス(disc.3, track.22)... モーツァルトの初期のオペラ・セリアで聴くような感覚を見出し、モーツァルトがナポリ楽派の影響下から出発したことを再確認させられる。いや、それだけヴィンチの『アルタセルセ』には、新たな時代の息吹が籠められていたのだなと、新鮮な驚きをもって3枚組を一気に聴く...
で、その3枚組を飽きさせることなく、一気に聴かせてしまう21世紀のスターたち!ジャルスキー、ツェンチッチと、Virgin CLASSICSが誇るカウンターテナーの2大看板を揃えての、ファジョーリ、バルナ・サバドゥスら注目のカウンターテナーが並ぶ豪華版... いや、これだけのカウンターテナーが一堂に会してひとつの作品を歌い上げるとは、バロック・オペラ復興もここまで来たかと、感慨も一入。それでいて、見事に揺るぎなく歌い上げる。だからこそ、大いに眩惑させられるジェンダーの境界... ゼミーラを歌うバルナ・サバドゥスの清楚さ、マンダーネを歌うツェンチッチの堂に入った皇女様っぷりといい、上手いことキャラクターが立ち、オール男子の壁をあっさり越えて、たっぷりと聴かせてしまうから不思議。また、そうした高音集団の中で、唯一のテノール、ベーレの存在が際立ち、テノールにして独特の渋さを見せてしまうからおもしろい... そんな華々しい歌手たちを、粋な演奏で盛り上げるファゾリスが指揮するコンチェルト・ケルン。意外な組み合わせだったけれど、コンチェルト・ケルンの職人気質な器用なあたりを見事に活かし切り、いつもイ・バロッキスティで聴かせるファゾリスとはまた一味違い、活き活きと疾走し、スリリングさを聴かせるあたりが新鮮。だからこそ、3枚組が冗長にならず、濃密!
そうして輝き出す、ヴィンチの音楽!バロックと古典派をつなぐ作品でありながら、「過渡期」なんて言葉はまったく思い浮かばない充実ぶり... 過去も未来もひとつのオペラの中で花咲かせてしまう、ヴィンチの不思議な力量と、最後のオペラ(と、認識はしていなかったかもしれないが... )としての集大成なのだろうか、自信に充ちた音楽に、大いに魅了され、また感動を覚える。

VINCI - ARTASERSE
CONCERTO KÖLN DIEGO FASOLIS


ヴィンチ : オペラ 『アルタセルセ』

アルタセルセ : フィリップ・ジャルスキー(カウンターテナー)
マンダーネ : マックス・エマヌエル・ツェンチッチ(カウンターテナー)
アルタバーノ : ダニエル・ベーレ(テノール)
アルバーチェ : フランコ・ファジョーリ(カウンターテナー)
ゼミーラ : ヴァラー・バルナ・サバドゥス(カウンターテナー)
メガビーゼ : ユーリィ・ミネンコ(カウンターテナー)

ルガーノ・ラジオテレビジョーネ・スヴェツィッラ合唱団
ディエゴ・ファゾリス/コンチェルト・ケルン

Virgin CLASSICS/6028692




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