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"OPERA PROIBITA" [2005]

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さて、19世紀はヴィトゥオーゾの時代だった... と、前回、振り返ってみたのだけれど、18世紀はどんな時代だったろうと考えてみる。で、行き着いた答えが、18世紀は歌手の時代。
少し前まで、18世紀のオペラというと、ヘンデルのいくつかのオペラと、モーツァルトの定番のオペラで精一杯だったが、ピリオドがブレイクした90年代、マニアックに大展開したゼロ年代を経て、ますます再発見に彩られている18世紀のオペラ。こうした動きが、18世紀のリアルな音楽シーンを、21世紀の今に生々しく蘇らせて、興味深くもとても刺激的だったりする。そんな18世紀の姿を目の当たりにすると、18世紀は歌手の時代。なんて言ってみたくなるわけだ。カストラートを中心に、大スターたちが国境を越えて、各地の劇場を熱狂させた時代。のはずだが、オペラが禁止された街もあった... という時代と反目する街にスポットを当てる意欲作...
2005年にリリースされた、メッゾ・ソプラノ切ってのディーヴァにして、今や音楽学者、チェチーリア・バルトリが、マルク・ミンコフスキ率いるレ・ミュジシャン・デュ・ルーヴルとともに、オペラが禁止された18世紀初頭のローマに迫る"OPERA PROIBITA"(DECCA/475 7029)を聴き直す。

"OPERA PROIBITA"、オペラ禁止!という、凄いタイトルなのだけれど、実際、ローマでは、17世紀末から18世紀初頭に掛けて、オペラを上演することができなかった。そもそも、カトリックの総本山たる聖なる都、ローマと、華やかな総合芸術はそりが合わなかったか... 何より、当時のオペラハウスの風紀紊乱(カジノにラヴホテルまでも兼ね備えた、総合歓楽場と化していた... )が、度々、問題になっており、教会とオペラの対立は常にあった。そうした中で、特に厳しい姿勢を取ったローマ教皇、インノケンティウス12世(在位 : 1691-1700)により、1697年、当時、ローマにあった2つのオペラハウスのひとつ、トルディノーナ劇場が取り壊され、翌年には、残ったもうひとつ、カプラニーカ劇場も閉鎖に追い込まれ、ローマからオペラが消えた...
そうして、このアルバムが始まる。オペラが禁止されていた、18世紀初頭のローマの音楽シーンを振り返る異色作、"OPERA PROIBITA"。となれば、沈鬱な雰囲気に包まれる?とんでもない... 始まりの、アレッサンドロ・スカルラッティのカンタータからして、ただならず祝祭感に溢れ、その華やかさに圧倒される!バロック期、教会に忌み嫌われるながらも、オペラ支援に熱心だったローマ。ここには、ひとつの宮廷に集約されてしまうのではない、多彩かつ趣味のいいパトロンたちが競い合い、ヨーロッパ中の作曲家たちを惹きつけ、オペラばかりでない、極めて豊かな音楽環境を生み出していた。何より、このアルバムで取り上げられる3人の作曲家、アレッサンドロ・スカルラッティ、カルダーラ、ヘンデルという多彩さが、そのことを象徴している。ナポリ楽派の始祖にして巨匠、アレッサンドロ・スカルラッティ(1660-1725)に、ナポリに取って代わられるまでオペラを牽引したヴェネツィア出身のカルダーラ(1670-1736)。そして、ドイツ出身の若き逸材、ヘンデル(1685-1759)と、オペラ禁止下、新旧、南北のバロックの巨匠が一堂に会し、オペラという枠組みを巧みに外して、これでもかとオペラティックに、魅惑的な音楽を繰り広げていた音楽都市、ローマの贅沢さ... そのあたりを1枚に凝縮して、より華やかにローマを際立たせるバルトリ... "OPERA PROIBITA"に収録された音楽は、オペラではない。それらは、聖人の物語だったり、旧約聖書からの逸話だったり、イエスの受難だったり、復活だったり、一見、辛気臭いようではあるのだけれど、紡がれる音楽は、最もバロックな性格を帯びて、バロッキッシモ!(という言葉はあるのか?)なんて言いたくなる、熱いドラマに貫かれていて、クラクラしてしまいそう。とにかく、1曲、1曲の密度が違う... それは、禁じられたからこそのフラストレーションの炸裂?!改めて、ローマ時代のヘンデルをこのアルバムで聴けば、ロンドン時代よりも迫力があるのかも... 聖なる都、ローマ... ではあるものの、その聖性を高めようと、徹底して劇的に飾られたバロック都市の、劇場的効果が、作曲家たちにも何らかの作用をもたらしているのか?とても興味深い。
そして、華やかさを極めるオペラ禁止下のローマを見事に歌い上げるバルトリ!まず、その至芸とも言えるコロラトゥーラに圧倒され... それから、ゾクっとさせられる声の鮮烈さ!18世紀は歌手の時代... というのを思い知らされるような、声の魔力に酔い、ただならず聴き入り、やがて熱狂させられる。"OPERA PROIBITA"は、例の如くマニアックな内容で、音楽史という視点から極めて興味深いバロックの姿を聴かせてくれるわけだが、その肝たるオペラ禁止、云々、細かなこと、全てを吹き飛ばしてしまいそうなバルトリの存在感に驚かされる。たったひとりで歌いながら、ひとりには思えないような聴き応えというのか。普通のバロックのアリア集では味わえない濃い体験することに... また、バルトリと張り合うように堂々とした演奏を繰り広げる、ミンコフスキ+レ・ミュジシャン・デュ・ルーヴル!彼らならではの鋭さはそのままに、響きにしっかりとした厚みを持たせ、よりゴージャス!当時のローマのオーケストラは、バロック期にしてかなりの規模を誇ったものも存在したらしく、そうしたバロック、ローマの豪奢さを見事にサウンドにして、凄い。いや、久々に聴いて、さらに魅了されてしまったのかも。歌、演奏、そして、オペラ禁止下の聖なる都、ローマの、魔性すら感じる魅力!

CECILIA BARTOLI Opera Proibita
Les Musiciens du Louvre/Marc Minkowski


アレッサンドロ・スカルラッティ : 聖なる降誕日のためのカンタータ から アリア 「武器を手にかくも熱く燃え、戦士たちよ」
アレッサンドロ・スカルラッティ : オラトリオ 『薔薇の園』 から アリア 「わたしが甘い忘却のうちに心楽しむあいだ」
ヘンデル : オラトリオ 『時と悟りの勝利』 から アリア 「平和に敵対する思考は」
カルダーラ : オラトリオ 『純潔の勝利』 から アリア 「悔いて立ち去りお泣きなさい
カルダーラ : オラトリオ 『試練に遭遇した貞節』 から アリア 「淫らな肉欲は毒を振りまくがよい」
アレッサンドロ・スカルラッティ : オラトリオ 『エルサレムの王、セデチーア』 から アリア 「熱き血よ」
ヘンデル : オラトリオ 『時と悟りの勝利』 から アリア 「風に追われて逃げる雲のように」
アレッサンドロ・スカルラッティ : オラトリオ 『薔薇の園』 から
   レチタティーヴォとアリア 「さあ、こうしてそなたの菜園に... なんと甘い共感が」
アレッサンドロ・スカルラッティ : オラトリオ 『聖フィリッポ・ネーリ』 から レチタティーヴォとアリア 「ここにぞある... 気高きローマ」
ヘンデル : オラトリオ 『時と悟りの勝利』 から アリア 「棘はそっとしておき、薔薇をお取り」
アレッサンドロ・スカルラッティ : オラトリオ 『エルサレムの王、セデチーア』 から
   レチタティーヴォとアリア 「ああ!なんという悲嘆が... 二つの感情が」
カルダーラ : ローマの聖フランチェスカのためのオラトリオ から アリア 「そう、涙なさい、悲しむ瞳よ」
カルダーラ : オラトリオ 『聖カテリーナの殉教』 から
   レチタティーヴォとアリア 「悲しくもなんと盲目のうちに... 炎が自分の天空へ向かうように」
ヘンデル : オラトリオ 『復活』 から アリア 「開くことだ、地獄の扉よ」
ヘンデル : オラトリオ 『復活』 から レチタティーヴォとアリア 「不吉な夜... 翼をすぼめ」

チェチーリア・バルトリ(メッゾ・ソプラノ)
マルク・ミンコフスキ/レ・ミュジシャン・デュ・ルーヴル

DECCA/475 7029




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