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19世紀、ヴィルトゥオーゾ & エンターテイメント。 [selection]

普段は嫌煙しがちのコテコテなクラシック、19世紀の音楽に、改めてガッツリ向き合った11月。何だかとても新鮮に感じた(単に、これまでがあまりにマニアックだったことの裏返しとも言えなくもないのだが... )。と、同時に、もの凄く興味深くも感じた。クラシックの大看板を担う19世紀の名曲というのは、意外と、その時代背景というか、作品の周辺がよく見えてこない印象を受ける。もちろん、解説書を読めばとことん書かれてはいるのだけれど、作品そのものは、どこかで19世紀のリアルと切り離されて扱われている?そうすることで、19世紀の音楽は、アカデミックなクラシックの名曲へと磨かれて行ったのだろう。が、磨かれていない状況の方に興味を覚える。剥き出しの19世紀?良くも悪くも素のままの19世紀... あれだけのカリスマたちが割拠し、途切れることのない人気を集める名曲を生み出した時代の熱さを、アカデミズム越しにではなくダイレクトに味わってみたい...
オリジナル主義、ピリオド・アプローチによるコテコテを聴いて来たからだろうか?そんなことを思っての、「コテコテ」の締めに、19世紀のリアルを象徴する、「ヴィルトゥオーゾ」の存在に注目するセレクション。今、改めて聴きたい、ヴィルトゥオージティ溢れる6タイトル。

とかくアカデミックに語られるクラシック、その中心を担う19世紀の作品、ではあるのだけれど、19世紀とは、それほどにも教科書的に折り目正しい時代だったのだろうか?いや、かなり破天荒な時代だったように思う。例えば、『モンテ・クリスト伯』や『レ・ミゼラブル』に描かれるように... 旧時代と新時代が入り混じる、明日がどうなるかわからないドラマティックでアグレッシヴな過渡期... 革命が日常茶飯事の一方で、フランス革命以前の旧時代の権威は生き残り、産業革命を糧に新時代を担う勢力が権力を握り、何でもありの様相を呈する。そんな時代が求めた音楽もまた、ドラマティックでアグレッシヴ。アカデミズムより、エンターテイメントに彩られていたのが19世紀のリアル。今、クラシックとして触れる19世紀の音楽よりも、もっとスリリングで熱狂的な音楽シーンが展開されていたわけだ。そして、その中心にいたのが、伝説のヴィルトゥオーゾたち... 彼らの活躍に、ヴィルトゥオーゾ・コンチェルトを聴きながら思いを馳せ、今、改めて熱狂してみる?そんなセレクションの試み。

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最初に取り上げるのは、現代のヴァイオリンのヴィルトゥオーゾ、ベンヤミン・シュミットが弾く、メンデルスゾーン、シューマン、ブルッフのコンチェルト... それはまさにコテコテのクラシックで、"19世紀"の濃縮還元のような1枚なのだけれど、注目したいのは、メンデルスゾーンとブルッフの名曲に挿まれた、シューマンのヴァイオリンとオーケストラのための幻想曲。伝説のヴィルトゥオーゾ、ヨアヒムのために書かれた15分弱の小品ではあるのだけれど、まさにヴィルトゥオーゾ時代のヴィルトゥオーゾのために書いた音楽!ヴァイオリニストの技量を前面に出してのデコラティヴな華麗さは、メンデルスゾーン、ブルッフの名曲とは一味違うライヴ感のようなものを漂わせて、スリリング。作曲家の芸術ではなく、演奏家のショウを意識した仕立てが、何か清々しくもあり。メンデルスゾーンもブルッフもすばらしいのだけれど、よりヴィルトゥオーゾの時代の感覚に近付けるよう。
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そのヨアヒムをフィーチャーしたアルバム... ヨアヒムの助言により完成されたブラームスのヴァイオリン協奏曲と、ヨアヒム自身の2番のヴァイオリン協奏曲を取り上げる、現代ヴァイオリン界の異才、テツラフによる1枚は、とにかく興味深い。何と言っても、ヨアヒムのコンチェルトが聴ける!これぞ正真正銘のヴィルトゥオーゾ・コンチェルトだ。で、これがまた19世紀エンターテインが炸裂して、圧巻!もちろん、ブラームスのコンチェルトもすばらしい。ベートーヴェン、メンデルスゾーンと並んで、3大ヴァイオリン協奏曲の一角ではあるけれど、伝説のヴィルトゥオーゾが、自身のステージでひと暴れするために書いたコンチェルトに比べると、どうも鯱張って聴こえてしまうからおもしろい。で、21世紀の聴衆にとってはどうだろう?音楽を楽しむことにシンプルであるならば、やっぱりヨアヒムか... 終楽章のジプシー調の熱狂の、ヤリ過ぎくらいなあたりが、もう最高!
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ところで、オッフェンバックがチェロのヴィルトゥオーゾだったということは、あまり知られていない。そんなオッフェンバックによる、チェロとオーケストラのための大協奏曲「軍隊協奏曲」。これもまたヴィルトゥオーゾ・コンチェルトの典型で、19世紀エンターテインが炸裂し、実は、かなりおもしろい。そして、この作品を発掘したのが、ゼロ年代、オッフェンバックの紹介者として、第一線を突っ走っていたミンコフスキ。当然、活き活きとおもしろい音楽を繰り広げる!のだが、さらに凄いのが、ソリスト、ペルノー!40分を越える大作にして、ある意味、やりたい放題(「軍隊協奏曲」というネーミングからして... )で、随所で超絶技巧が炸裂するのだけれど、これをまた見事にやってのけるペルノーの妙技に舌を巻く!そうして展開される、キャッチーで、チープな例の如くのオッフェンバック・ワールド。だけど凄い!このユル凄い感が、ヴィルトゥオーゾの時代に肉薄するようで刺激的...
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ここで、ピアノに目を向けてみましょう。となると、この人を挙げないわけにはいかない!19世紀、ヴィルトゥオーゾのアイコン、ショパン。で、取り上げるのは、ショパンのヴィルトゥオーゾ性がより際立つ?2つのピアノ協奏曲以外の協奏的作品の数々... 普段はほとんど取り上げられない作品の数々... そりゃそうだろう、音楽作品を聴くのではなく、ショパンのピアノ演奏を聴くための作品なのだから... 民謡やモーツァルトを主題に、捏ね繰り回すかのように変奏されて、如何にもヴィルトゥオーゾの時代を思わせる。けど、ショパンに並び得る才能が弾いたなら?これほどピアノの美しさに耽溺できる音楽が他にあるだろうか?で、耽溺させてくれるゲルネルのピアノ!1849年製、エラールのピアノの、少し控え目なサウンドから、魅惑的なヴァリエイションを見事に繰り広げて、それは、まるで万華鏡... 何だかもの凄く贅沢な気分にしてくれる。
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それから、この人も忘れるわけにはいかない。19世紀のカリスマ・ヴィルトゥオーゾ、リスト!で、取り上げるのは、鬼才、ピアニスト、ハフの弾く、リストの代表作、2つのピアノ協奏曲... とにかく、ヴィルトゥオージティに素直なその音楽の、胸すくような展開は、まさに19世紀のエンターテイメント!多くの19世紀の聴衆を熱狂させたに違いない。それにしても、コテコテのクラシックでありながら、これほどにカッコいい曲、他にあるだろうか?そんな作品をまた飄々とエンターテイメントに仕上げてしまう現代のヴィルトゥオーゾ、ハフ。この人なればこその独特な作品との向き合い方、クラシック=アカデミズムから解き放たれて、気ままかつ闊達に鍵盤の上を走りまわるような感覚が、リストのエンターテイメント性を、現代的なエンターテイメント性にヴァージョン・アップさせてしまう?劇画調でグイグイと聴く者を惹き込みながら、常にスタイリッシュでもあるこのバランス、絶妙!
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最後は、ヴィルトゥオーゾ・コンチェルトの紹介に余念の無い、hyperionの名物シリーズ、ロマンティック・ピアノ・コンチェルト・シリーズから、21世紀切ってのヴィルトゥオーゾ・ピアニスト、アムランの弾く、シャルヴェンカの1番のピアノ協奏曲と、ルビンシテインの4番のピアノ協奏曲。何かの関連で、その名前を聞くことはあっても、なかなかその作品までは聴けない... そんなヴィルトゥオーゾの2人だろうか?しかし、一世を風靡したヴィルトゥオーゾが紡ぎ出すコンチェルトというのは、なかなか凄い。超絶技巧がドロドロと渦巻いて、ロマン主義がのたくって、アップアップとなりそう?なのだが、それらをあっさりと、朝飯前といった風情で弾き切ってしまうアムラン!この人を前にすれば、どんな作品だって簡単に聴こえてしまうのか?19世紀と21世紀の、時空を越えた、ヴィルトゥオーゾ対決にも思えてくる1枚は、何だか名勝負を見ているようで、おもしろい!

という6タイトル。改めて聴けば、19世紀はヴィルトゥオーゾの時代だったなと、強く感じる。そして、その刺激的な音楽の数々... 超絶技巧であっと言わせつつ、豊か過ぎるほどの詩情で幻惑して、カッコ良いんだか、カッコ悪いんだか、よくわからない?いや、その一筋縄ではいかないあたりこそ、魅力。ゴージャスで、チープで... そうしたあたりをポジティヴに受け止められるようになると、クラシックは俄然、おもしろいものとなるように感じるのだけれど。なかなか難しいか...




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