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ピュア・トーンが浮かび上がらせる、"ピュア"なマーラーの愛らしさ。 [2005]

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クラシックのコテコテ... "19世紀"に耽溺し、溺れ始めている、11月。
それら、最も「お馴染み」のクラシックではあっても、オリジナル主義、ピリオド・アプローチで聴いてきたからか、何か違う感覚で、溺れてゆくような、少し奇妙な境地に至りつつある?そうして、ぼんやりと見えてくる"19世紀"の人間臭い姿。見慣れた、アカデミックなクラシックの、一張羅を着て厳めしくポーズを取ったポートレートとしてではない、そのリアルな日常を覗き見るような、変に近い距離感に、少し眩暈を覚えつつ、いつの間にか、これまで以上に惹かれてしまうのか。そんな"19世紀"の帰結点として、マーラーを聴いてみようかなと。
2005年にリリースされた、ロジャー・ノリントンと、彼が率いたシュトゥットガルト放送交響楽団による、マーラーの「巨人」(hänssler CLASSIC/93.137)を聴き直す。

ピリオド界の巨匠が、モダン・オーケストラにピリオド・アプローチを持ち込んで、ハイブリット編成で、ノン・ヴィブラートによるピュア・トーンで、マーラーを取り上げる?!と、大いに刺激を受けた演奏も、7年が過ぎてみれば、何となく当たり前の演奏になってしまう?それくらい、演奏スタイルは進化したのだ。と、言い切れるかどうかは、何とも言い難いのだけれど、ゼロ年代以降、演奏スタイルは間違いなく多様化され、聴く側としては、多少のことでは驚かない素地ができてしまったように感じる。それは良いことなのか?悪いことなのか?複雑な思いもあるのだけれど、驚きに捉われない7年目の「巨人」は、思いの外、素直に聴けたような気がする。
例えば、「花の章」(track.2)。マーラーが、決定稿を出すにあたって、カットした楽章だが、それだけに、他の楽章と並べてしまうと、浮いて聴こえ... たのだが、改めて聴いてみると、それほどでもない?ノリントンによるピュア・トーンは、いい具合に「巨人」のスケール感を抑えて聴かせていて、そこに挿し戻された「花の章」を違和感なく取り込んでしまうのか。「花の章」も遜色なく魅惑的で、まさにブルーミン。ピュア・トーン効果は、細部でも、全体でも活きている。そうして、喚起されるのは、作品のまさに"ピュア"なあたり。ノリントンの無邪気さが、マーラーの"ピュア"をサルヴェージして、晩年の重さなどまったく予見することのできない軽やかさで彩る。そもそもマーラー(1860-1911)の音楽というのは、フロイト(1856-39)の時代を象徴するようなところがあって、いろいろ捏ね繰り回されて当たり前のようにも思ってきたが、こうしてノリントンによって、捏ねられることなく、素のままで無邪気に展開されてしまうと、マーラーのあらゆるイメージがバラバラと落ちて、こどものマーラーがぽつんと現れるかのよう。その愛らしさたるや!が、終楽章(track.5)の始まり、シンバルの一撃が風雲急を告げて。どうなってしまうのかとハラハラさせられるのだけれど、それも見事に乗り越えて、これ以上ないほどに輝かしいフィナーレが待っている!となれば、もう絵本の世界だろうか。交響曲、「巨人」、という厳めしさは吹き飛び、奇妙なほどにこどもっぽい。しかし、そのこどもっぽさが不思議な魅力を放ち、心地良さすらもたらしてくれるからおもしろい。
そんな「巨人」に触れて、ふと思う。そもそも、ロマン主義というもの自体が、こどもっぽいのかもしれない。クラシックにおける、最もコテコテなクラシック、19世紀、ロマン主義だが、その音楽を冷静に見渡すと、何か向こう見ずで、自惚れが強く、自己顕示欲も強く... イメージとしては、成熟しているように思われるわけだが、古典派や近代音楽と比べると、どこかこどもっぽい。ような。しかし、そのこどもっぽさが生む、パワフルさ、存在感は、広大なクラシックにあって際立っていることは間違いない。そのこどもっぽさ、無邪気さが、クラシックに大いなる魅力を与えているようにも思う。が、そのあたりを素直に表現できてこなかったこれまで... ノリントン+シュトゥットガルト放送響による「巨人」は、"ピュア"であることで、19世紀、ロマン主義の素の姿に迫る。フランス革命後の混沌とした社会情勢、産業革命の本格化、地球を浸食するかのごとく広がる植民地と、19世紀は新たな時代の始まりであり、なおかつ未成熟な時代でもあった。そんな時代が育んだ音楽というのは、スタイルこそ成熟の度合いを増していても、スピリットはまた違っていたのでは... そうした19世紀を、こどもっぽさで語った、ノリントン。ピュア・トーンによるマーラーを、今、改めて聴き直して、その突き抜けた感覚が、ただならず興味深い。また新たな時代を始めようとしている21世紀に、おもしろいインパクトを与えてくれている。

R. Norrington GUSTAV MAHLER: Symphony No. 1

マーラー : 交響曲 第1番 ニ長調 「巨人」 〔「花の章」 付き〕

ロジャー・ノリントン/シュトゥットガルト放送交響楽団

hänssler CLASSIC/93.137

11月、コテコテをピリオドで...
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