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フォークロワを彷徨うノマドになって、 [2005]

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私たちは、今、何処に生きているのだろう?
狭い日本を忙しなく生活していても、我々の日常は思い掛けなく深く重く世界とつながっている。インターネットから覗く、世界中の情報ばかりではない... そのPCを、スマートフォンを動かしているエネルギーは、どこか遠い国の地中深くからやって来ている。何より、我々自身を動かすエネルギー、多くの食べ物(特に穀物... )が、世界中のあらゆるところからやって来ている。だから、ニュースでは、中国の経済状況、アメリカの雇用統計、ユーロ圏の債務処理、緊張高まる中東情勢まで、連日、事細かに伝えられる。遠い海の向こうのことのようで、我々の日常と直結しているグローバル・ライフ... 日本にいながらにして、ただならず世界が我々の下にある不思議。裏を返せば、日本にいながら「日本」であることがますます希薄になっているのかもしれない。そして、それは、グローバル上を漂流するような感覚がある。一見、自由になったようで、どこか心許無いような感覚...
そんな21世紀に共鳴する音楽だろうか?世界中のフォークロワな音楽を集めて、現代音楽として編み直す、世界がひとつの作品の中で響き合う異色の作品。それは、世界を旅した記憶のアルバムのようでいて、世界を漂流するノマドの音楽のようで... 2005年にリリースされた、クラシックにしてアヴァンギャルドを厭わないソプラノ、ドーン・アップショウが、ジ・アンダルシアン・ドッグの刺激的な演奏で歌う、パワフルな1枚、"Ayre"(Deutsche Grammophon/477 5414)を聴き直す。

ベリオ(1925-2003)が、私生活のパートナーでもあった20世紀、現代音楽の伝説のミューズ、ヴォーカリストにして作曲家、キャシー・バーベリアン(1925-83)のために書いた『フォーク・ソングス』(track.12-22)。それは、その名の通り、アメリカ、フランス、地中海からアルメニア、アゼルバイジャンと、様々な文化的背景を持つフォークロワの音楽を集めて、仕立て直し、ひとつにまとめた作品。バーベリアンの恐るべき表現の幅と、人並み外れた語学力を活かし切った、まるで民俗音楽辞典のような異色作。だが、それを越えるゴリホフ(b.1960)... セファルディ、アラブ・キリスト教、トルコ、サルデーニャと、複雑な背景を持つフォークロワな音楽を中心にまとめつつ、それらをエレクトロニックに加工することも厭わない大胆さを見せる"Ayre"(track.1-11)。現代の現代音楽のミューズ、ドーン・アップショウのために編まれたこの作品は、21世紀版のフォーク・ソングスか... そうして響き合う2作品。その絶妙なる組合せが、より刺激的なものとして互いを際立たせるのか。
まず、ゴリホフの"Ayre"(track.1-11)が歌われるのだれど... とにかく、現代音楽の作法なんてものは度外視してくるゴリホフ流のテンションとカラフルさに、中てられるというか、呑み込まれるというか... ハイパー・ワールド・ミュージック?とか言ってみたくなる、電飾(?)で飾られたロック調(?)の民謡の数々に、衝撃を受けつつ圧倒される。とはいえ、そのヤリ過ぎ感に、入り組んだ文化の苦悩や、彷徨える民族の悲しみが滲み、底知れず訴え掛けてくるから凄い。一見、軽薄そうなようでヘヴィーなゴリホフ芸術の凄味にして魔法は、聴く者の心にヒリヒリとした感覚を与えながら、魅惑的。そんなインパクトのあるフォークロワから一転、シンプルなフォークロワを綴るベリオの『フォーク・ソングス』(track.12-22)。この"Ayre"から『フォーク・ソングス』という進行が、どこか根源的な音楽へと近付く道程のようで、不思議な展開を見せる。何か、人類共通の遠い記憶の奥底へと下りてゆくような感覚?それは、フォークロワな音楽の素朴でシンプルなあたりにこそ広がるラビリンス... 交響楽では到達し得ない境地に、深い感動を覚えてしまう。それでいて、"Ayre"から『フォーク・ソングス』と、地球上の様々な地域の歌をいっぺんに聴いてもたらされる独特の浮遊感... まるで、ノマドにでもなった気分を味わう。
しかし、アップショウのパフォーマンスが凄い!ベルカントから、歌うという段階を越えたヴォイス・パフォーマンスまで、バーベリアンに負けていないのかも。それでいて、まったく捉われることなく、次から次へと異文化を渡ってゆく変わり身の早さ... 本当にひとりの歌手が歌っているのか?というくらいに器用に、それぞれの歌の持つ個性や癖を見事に歌い切る。その腹の括り方と、腹が括れるだけのただならぬ力量に改めて感心させられるばかり。そんなアップショウを、見事に盛り立て、魅惑的なサウンドを聴かせてくれるジ・アンダルシアン・ドッグスの面々... 悪ノリするようなところがありながら、2作品をひとつのアルバムにまとめ上げる技量は、並々ならぬもの。一体、彼らはどういう集団なのだ?!クラシックにカテゴライズされない人々?鮮やかにはっちゃけったその演奏は、現代音楽なんて堅苦しい気分とは無縁... フォークロワ独特のパワフルさを借りて、現代音楽にして、いわゆる"ゲンダイオンガク"を逸脱する個性を放つ2作品、その圧倒的な音楽を、マキシマムに盛り上げながら、そこに音楽の本質的な欲求を満たしてくれる。

GOLIJOV: AYRE ・ BERIO: FOLK SONGS
UPSHAW ・ THE ANDALUCIAN DOGS


オスバルト・ゴリホフ : Ayre
ルチアーノ・ベリオ : Folk Songs

ドーン・アップショウ(ヴォーカル)
ジ・アンダルシアン・ドッグス

Deutsche Grammophon/477 5414

さて、2006年のアルバムを振り返っているのだけれど、そして、それももう間もなく終わろうとしていたのだけれど、勢い、2005年も振り返ってしまうことに... まさか7年も前のことを振り返ろうとは思っていなかったはずが、一歩を踏み出してしまう。で、その1枚目が、この"Ayre"。7年という月日は、それほどでもないようで、改めて振り返ると、随分と遠い。あの頃、ゴリホフは、名門、DGからデビューするという注目の存在だったが、今はどうだろう?現代音楽をコンスタントにやれるほどDGに余力は無く、ゴリホフの名前も薄れがち。そんな今を見つめると、7年前が恐ろしく遠くに感じて、「時」は何とも無常である。一方で、その作品は、7年前と変わらず魅力的だ。いや、改めて聴き直して、今こそ深く聴き込むことができる内容なのかもしれない。世界がひとつにつながり、各地の民俗性は薄まりつつある一方で、民族意識は発熱し始めている現在。グローバリゼーションを漂流する世界に、フォークロワな音楽は、強いメッセージを発するかのよう。

10月、音楽で旅をする...
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