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コッツウォルズから、日本まで... ホルストの『惑星』への道程。 [2012]

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少しクラシックを離れて旅し過ぎたか?クラシックへ還ってみる...
けど、旅は続きます。英国から、インド、さらには日本まで!ホルストのオーケストラ作品でいろいろと巡るのだけれど。『惑星』でないホルストというのが、「旅」というレベルを越えて冒険的?ふと振り返ると、『惑星』と、あといくつかしか聴いたことのないホルスト。そうした中で、ホルストが、日本についての作品を書いていたことを、初めて知る。ずばり、日本組曲。第2次大戦前、欧米で活躍したダンサー、伊藤道郎(1893-1961)の委嘱による作品とのこと... いや、こういう先人がいたことに、今さらながらに驚き、興味を覚える。というより、こういう日本人がいたことに関して、もっと紹介されてしかるべきのように感じるのだけれど。ナショナリズム云々以前に、日本人は「日本」について、実はよく知らないのでは?自身の反省も含め、近頃、特に感じるのだけれど。
音楽に話しを戻しまして、NAXOSのもうひとりのマエストラ、ジョアン・ファレッタの指揮、アルスター管弦楽団による、ホルストの、その日本組曲など、様々なフォーロワな音楽に関心を示したホルストらしい、多彩な管弦楽作品を集めた1枚(NAXOS/8.572914)を聴く。

学生時代の作品、「冬の牧歌」を含む、代表作、『惑星』(1914-16)、完成以前の作品... ウォルト・ホイットマン序曲、交響曲「コッツウォルズ」、日本組曲、交響詩「インドラ」と、若きホルストの管弦楽作品が集められ、貴重な機会をもたらしてくれる1枚。とにかく『惑星』に目が行ってしまうホルスト(あとは、2つの吹奏楽のための組曲と、セントポール組曲といったあたりで、精一杯... )だけれど、こういう作品も書いていたのだなと、興味津々。で、その作品、興味深いのは、フォークロワな音楽、あるいは異文化へのホルストの関心。
古き良きイングランドの風景を留めるコッツウォルズ... 今ではイギリス観光のハイライトのひとつとして人気の地方だが、それはホルストの故郷でもあり、そんなホルストがこどもの頃から耳馴染んだ民謡を素材に、この地方を描き出した交響曲「コッツウォルズ」(track.2-5)。『惑星』のイメージからすると、ブルックナーやブラームスを思わせる重厚な交響曲?かと思うのだけれど、そうはならない1楽章(track.2)。思い掛けなくメロディックに展開されて、イギリスの田園風景の、のどやかで朗らかな雰囲気をライトに描き出す。このライトさこそ、まさにイギリスの音楽!が、2楽章(track.3)では一転、アーツ・アンド・クラフツで知られる、フォークロワにこそイギリス文化を見出そうとしたウィリアム・モリス(1834-96)の死に捧げられ。そのレクイエム的な重々しさが、ここに来てやっと交響曲らしさを膨らませる。が、3楽章(track.4)、終楽章(track.5)と、再び、陽気な田園風景が広がり、「交響曲」という堅苦しさを忘れて楽しませてくれる。例えば、スコットランドを交響曲で描き出したメンデルスゾーンの音楽は、ターナーの描く壮大な風景を思わせるのだけれど、ホルストのコッツウォルズは、旅先のスナップといったところだろうか?その気の置け無さこそ魅力で。ホルストの故郷での思い出がキラキラと輝くよう。
そんな、牧歌的なイギリスから一転、日本組曲(track.7-12)では、グっとエキゾティックなメロディに彩られるのだけれど... 丁寧に日本の民謡を取り込んで、ここでもイギリス流のライトさが最大限に活かされ(「コッツウォルズ」以上に!)、絶妙なバランス感覚を見せる。変にプリミティヴになるでもなく、エキゾティシズムを前面に押し出すのでもなく、徹底して日本のメロディを利用(おもいっきり、定番な子守歌!)しながらも、何か映画音楽のようなトーンで、古臭さを感じさせない不思議な感触をもたらす。それは、ちょうど『惑星』に挑んでいた1915年の作品というだけあって、ホルストの音楽も十分に熟成され、まさに、今、ブレイクしようとしている作曲家の、湧き上がる創意のようなものを感じ、聴き応えは十分。終曲、狼の踊り(track.12)では、ダンスのための作品を意識させるリズミックさが印象的。同時代のバレエ・リュスを思わせるアヴァンギャルディックさも魅力。
続く、交響詩「インドラ」(track.13)は、インドラというインドの神様(それがまた、日本では帝釈天になるというから、寅さんもびっくり?)を捉えた交響詩で... 20世紀前半、インドの哲学、神秘主義は、ヨーロッパの文化を大いに刺激したわけだが、若きホルストもまたそのひとりのよう。そして、安易なインド風に流されるのではなく、インドの宇宙観を展開してゆくような、神秘的なスペイシーさを響かせて、それは、占星術に裏打ちされた『惑星』へと至る予兆のようであり、実に興味深い。そして、この「インドラ」のみならず、このアルバムに収められた作品、ひとつひとつを聴いてゆくと、『惑星』へと至るホルストの道程が浮かび上がるのか。『惑星』でしか知らなかったホルストという作曲家を、より深く捉えることができたような、そんな充実感が広がる。
それを可能としてくれた、ファレッタ、アルスター管!ファレッタならではか、マニアックなあたりはお手の物... といった余裕の一方で、ところどころ、わずかに粗さを感じなくもなく。が、活き活きと、若きホルストの作品を捉えていて。若さゆえの甘さなども素直に押し出し、大陸のクラシックには無いイギリスのライトさを屈託なく響かせれば、シンプルな楽しさへと昇華させる。一方で、イギリスの音楽ならではのヴィヴィットな感覚を大切にし、クラシック離れした現代性をホルストの音楽にも見出す。そこに、U.K.のポップなDNAを再確認しつつ、また改めてイギリスの音楽に魅了されてしまう。

HOLST: Cotswolds Symphony

ホルスト : ウォルト・ホイットマン序曲 Op.7, H 42
ホルスト : 交響曲 ヘ長調 「コッツウォルズ」 Op.8, H 47
ホルスト : 冬の牧歌 H 31
ホルスト : 日本組曲 Op.33, H 126
ホルスト : 交響詩 「インドラ」 Op.13, H 66

ジョアン・ファレッタ/アルスター管弦楽団

NAXOS/8.572914

10月、音楽で旅をする...
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