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ビザンティウムから、アンダルシアへ... 時代と国境を越える旅。 [2006]

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大西洋を旅して来たので、少し気分を変えて地中海へ...
ところで、近頃、この地中海が騒がしい。北岸では経済が、南岸では宗教が、火を吹いている。そうしたニュースばかりを見せられると、地中海は随分と物騒な海に思えてくる。が、様々な文明が行き交い、豊かな文化を生み出したのもまた地中海。衝突すら新たな潮流につなげてしまう、懐の深さを示してきたその歴史を振り返ると、他の海にはない密度があって、圧倒されてしまう。何より、地中海を取り囲む文化の多様性!そうした数々の文化が< 荒波に揉まれて織り成した地中海文化圏に、底知れぬものを感じてしまう。
という地中海の中世に遡り、ビザンティウムからアンダルシアへと旅する、圧巻のライヴ!2006年にリリースされた、気鋭の古楽アンサンブル、オーニ・ヴィータルスによる、"FROM BYZANTIUM TO ANDALUSIA"(NAXOS/8.557637)を聴き直す。

キリエで始まる、"FROM BYZANTIUM TO ANDALUSIA"。まず、このキリエがただならない。レバノンのアラブ・キリスト教に伝わるキリエで、いつものラテン語による「キリエ・エレイソン... 」の後は、アラビア語。何より、濃密にオリエンタルな歌いっぷり。こういうキリエもあるのだなと、キリスト教=ヨーロッパのイメージを大きく覆し... 続く、『ラウダリオ・ディ・コルトナ』は、13世紀のイタリアの民衆の間で歌われた讃美歌集(ということでいいのか?)で、そこから3曲(track.2-4)がまず取り上げられるのだけれど。例えば、グレゴリオ聖歌の、アルプス以北の清冽なア・カペラとはまったく異なる、よりフォークロワなテイストを放つ素朴さには、オリエント世界とそう遠くないトーンを漂わせ、ヨーロッパという枠組みではなく、地中海文化圏というものを意識させる。そこに、飄々とムハンマドを讃えるトルコの「ムハメット万歳」(track.5)の、耳に付いて離れないようなメロディは、ちょっとツボ。「サッラッラッーウアラームハッメ... 」は、すぐに覚えてしまって、一緒に歌いたくなる!「ダルヴィーシュ、兄弟たちよ」(track.7)の、「イッラッラー、フーヤーフッ!」の掛け声はちょっとカッコよくすらあって。ぼんやりと日本の民謡の合いの手を思わせて、地中海ばかりでなく、汎アジアすらイメージさせる?
グレゴリオ聖歌に始まって、ルネサンス・ポリフォニー至る、教科書的な音楽史の流れというのは、どこか淡白なイメージがある。もちろん、それは独自の洗練を見せ、すばらしい音楽であることは間違いないのだけれど、どこかでアカデミック?一方、地中海を巡る音楽というのは、実に人懐っこい。それがまた、ヨーロッパとなく、イスラムとなく、みんなそれぞれにキャッチーで... またどれもシンプルで、聴く者をドンドン巻き込んでくるような不思議なパワーを持っていて、何だかとても楽しい!いや、音楽とは元来そういうものか...
そうした音楽の本質を、いとも簡単にスルスルっと引っ張り出すオーニ・ヴィータルス!ビザンティウムからアンダルシアまで、地中海を担ったありとあらゆる文化の音楽に、あっさりと対応してしまうフレキシブルさに驚かされる。けして簡単なことではないはずだが、ひとつひとつ堂に入った歌、演奏を繰り広げてしまうのだから、恐れ入る。そうした中で、最も印象に残るのが、古楽界切ってのヴォーカリスト、ベリンダ・サイクス!イタリア語にはイタリア語の、アラビア語にはアラビア語の独特な雰囲気を以って、歌い尽くす圧巻の歌声!特にアラビア語の、何とも言えない艶やかさ、ミステリアスさは、得も言えない魅惑を放ち、惹き込まれてしまう。
そして、その選曲の妙!『ラウダリオ・ディ・コルトナ』を軸に、トルコ、アラブ・キリスト教、アラブ・アンダルシア、セファルディと、それ自体が多層的な背景を持つ音楽を並べることで、それぞれの文化の境がぼやけてしまうおもしろさ... 多様かつ複雑に入り組んだ地中海文化圏を丁寧に紐解きつつ、またひとつに織り成して、ナチュラルにつないでしまう魔法。今、地中海を取り囲む文化に、共通するものを探ろうとしても難しい。が、このアルバムに納められたサウンドには、文明の壁としての海ではなく、文明をつないだ海が浮かび上がる。文明をつなぐ地中海、それは古代のもうひとつの壮大なる遺跡かもしれない。フェニキアの商船が航行し、各地にギリシアの植民都市が建設され、やがてパクス・ロマーナの下、ひとつとなった海...
最後、ライヴのアンコールにあたる?盛り上がるコンサートホールの拍手の中から印象的に立ち現れる「泉であり、花であるマリアよ... 」(track.15)の、地の底から湧き上がるようなハーモニーに感動!それは、時代や国境を軽々と飛び越え、圧倒的なパワーで、スピーカーからも、聴く者の心に迫ってくる。洗練されてしまったサウンドでは得られない、魂そのものが生み出すバイブレーションだろうか。そんな歌、演奏に触れていると、心の澱の全てを流し去ってくれるよう。

FROM BYZANTIUM TO ANDALUSIA

アラブ・キリスト教伝承曲 : "Kyrie eleison" 〔レバノン〕
『ラウダリオ・ディ・コルトナ』 より 〔13世紀、イタリア〕
   "Fa mi cantar l'amor di la beata"/"De la crudel morte de Cristo"/"Laude novella"
ユヌス・エムレの詩によるイラーヒー : "Sâllâlâhu alâ Muhammed"/"Peşrev"/"Ey Derviccşler" 〔13世紀、トルコ〕
『ラウダリオ・ディ・コルトナ』 より "Plangiamo quel crudel basciare"/"Venite a laudare" 〔13世紀、イタリア〕
ユダヤの伝承歌 : "Keh Moshe" 〔12世紀〕
セファルディ伝承歌 : "Adon Haselihot"/"Galeas, mis galeas" 〔1492年以前〕
アンダルシア楽派伝承歌 : "Jâlla man"
『モンセラートの朱い写本』 より "Stella splendens in monte" 〔14世紀、カタルーニャ〕
『ラウダリオ・ディ・コルトナ』 より "Maria, d'omelia" 〔13世紀、イタリア〕

オーニ・ヴィータルス

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10月、音楽で旅をする...
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