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ラルペッジャータの、ミッション、インポシブレス。 [2006]

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"Los Pajaros Perdidos""Bolivian Baroque"と、ラテン・アメリカが続きます...
クラシックにとってもの凄く遠い場所のようでいて、意外と密に歩んで来たラテン・アメリカとヨーロッパ。ピアソラがパリでナディア・ブーランジェに学んだばかりでなく、もっともっと時代を遡って、バロックの頃、今からすると意外なほど盛んに交流していた史実。ヨーロッパの音楽がラテン・アメリカに持ち込まれ、ラテン・アメリカの土着の文化が融け込み、それがまたヨーロッパに持ち込まれ、一大ブームを呼んだり。クラシックのステレオタイプを、一枚、剥がすと、より刺激的な音楽史の姿が現れる。特に、バロック期のラテン・アメリカとヨーロッパの間には、ラテン・ミュージックの先祖とも言うべき、異文化が共鳴し合って生まれる魅惑的な音楽がすでに存在していた。
そうしたあたりを、よりイマジネーションを膨らませて綴ったアルバム。2006年にリリースされた、クリスティーナ・プルハル率いるラルペッジャータ、そしてキングズ・シンガーズらを招いての刺激的な1枚、"Los Impossibles"(naïve/V 5055)を聴き直す。

"Los Impossibles"、ありえないことばかり...
まさに、そんな驚きに充ちた1枚。バロック期のラテン・アメリカとヨーロッパの結び付きを、丁寧に紹介するプルハル。始まりは、ポルトガル、コインブラに残されている"Sã Qui Turo"。インディオ風?何とも言えず独特なトーンに彩られたその歌は、飄々としたリズムに乗り、不思議にトロピカル!そのエキゾティックさに、即、虜にされてしまう。が、その後で響く、ルーカス・ルイス・デ・リバヤス(17世紀のスペイン出身で、大西洋を渡り、ペルー副王の宮廷にも仕えたギタリストにして作曲家... )の"Jácaras"(track.2)の、フラメンコ・ギターによる陰影の濃いサウンドは、聴く者の耳を一挙にヨーロッパへと連れ戻して、また魅了してくる。続く、メキシコのフォルクローレ、"La Llorona"(track.3)の、うら悲しく、力強い歌には、スペインのフラメンコの影響を感じ、ラテン・ミュージックの源流にはイベリア半島の地の音楽があるのだなと、その連続性に改めて納得させられる。
大西洋を渡ったヨーロッパの作曲家と、ヨーロッパに伝えられたラテン・アメリカの音楽。イベリア半島の地の音楽が、ラテン・アメリカの感性と化学反応を起こして今に至るフォルクローレ。普段のクラシックを離れて、ラテン・アメリカとイベリア半島の音楽史における通交を見つめると、クラシックという枠組みを越えて展開される音楽の大きなうねりに圧倒される。もちろん、ヨーロッパによるラテン・アメリカの植民地化、文明の書き換えとも言えるキリスト教化を無視することはできないし、ラテン・ミュージックというもの自体が、悲劇の産物と言えなくもない。それでも、魅惑的な音楽... 海を越えて結ばれた音楽の、悲劇性も含んでの雄弁さ、圧倒的な個性は、すでにバロック期にして、確固たる存在感を見せている。また、ヨーロッパにして、一味違う個性を見せるスペインの音楽の力強さ!ディエゴ・オルティス、サンティアゴ・デ・ムルシアの、スペインの地の音楽を巧みに汲み上げて響かせる作品の数々。クラシックという枠組みに捉われないその魅力は、教科書的な音楽史を突き抜けて、現代人の耳にもフレッシュ!そんな、ラテン・ミュージックに負けない存在感があるからこそ、"Los Impossibles"は、possibleに成り得るのだなと... 改めてこのアルバムを聴き直してみて、スペインのバロックに興味深さを感じる。
何より、"Los Impossibles"をpossibleとしているのが、プルハル+ラルペッジャータ!前々回で取り上げた"Los Pajaros Perdidos"(Virgin CLASSICS/0709502)でも、彼らの古楽アンサンブルとしての力量は十二分に紹介させてもらったけれど、やっぱり、改めて、凄い!丁寧かつ雄弁で、異なるジャンルのプレイヤーたちと、すんなりとひとつの音楽を作り上げるフレキシブルさもあって。古楽云々ではなく、メンバーそれぞれが、ひとりの音楽家として、きちっとした音楽性を確立しているからこそ、何者にでも成り得る身軽さ... それらをナチュラルに束ねるプルハルの器量。さらには、単なるドキュメントに留まらない、プルハルのより創造的なイマジネーションをアルバムに籠めて、活き活きと大西洋の両岸の音楽の通交を魅惑的にまとめるセンス!特にすばらしい音楽性を持つプレイヤーの多い古楽の世界に在って、際立ったものを感じずにはいられない。
そこに加わる、古楽から現代までをカヴァーするイギリスのア・カペラ集団、キングズ・シンガーズ!ラルペッジャータとは、ちょっと意外な組み合わせに感じたけれど。いや、プルハルが招いたればこそ、その意外性が見事に効いていて... キングズ・シンガーズのヨーロピアンなふんわりとしたハーモニーが、古楽器のある種のエスニックさ、武骨さと、微妙なギャップを生み、この食感の違いを、ひとつの料理として味わう多層感の、刺激的な感覚!合わないのではないけれど、どこかで合わないことをおもしろみに変えてしまうプルハルの魔法?たっぷりと"ラテン"に浸りつつも、そればかりでない驚きに充ちた"Los Impossibles"。いや、"Los Impossibles"、ありえないことばかり... の、おもしろさ!

LOS IMPOSSIBLES L'Arpeggiata Christina Pluhar

作曲者不詳 : Sã Qui Turo 〔コインブラ、1643年〕
ルーカス・ルイス・デ・リバヤス : Jácaras
メキシコの伝統音楽 : La Llorona
ディエゴ・オルティス : レセルカーダ 1+2
作曲者不詳 : Falalán 〔ウプサラ歌集、ヴェネツィア、1556年〕
作曲者不詳 : Marizápalos 〔ペルー、1730年〕
作曲者不詳 : Bastião 〔コインブラ、1643年〕
即興 : Moresca
メキシコの伝統音楽 : La Petenera
ニコラ・マッティス : La dia spagnola
Olvídate De Mí
サンティアゴ・デ・ムルシア : ファンダンゴ
メキシコの伝統音楽 : La Lloroncita
ルーカス・ルイス・デ・リバヤス : Españoletas
カタルーニャのヴィリャンシーコ

クリスティーナ・プルハル/ラルペッジャータ
キングズ・シンガーズ
ベアトリス・マヨ・フェリペ(ヴォーカル)
パトリシオ・イダルゴ(ヴォーカル/ハラナ)
ペペ・アビチェラ(フラメンコ・ギター)

naïve/V 5055

10月、音楽で旅をする...
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