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ハンス・ロットのいとも短き人生。を詰め込んだ熱き交響曲。 [2012]

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8月、最後の更新は、去りゆく夏に... って、ちょっと感傷が過ぎるのだけれど...
カラっとした南仏、オーヴェルニュの歌に続き、熱い交響曲を聴く。それは、ひと夏の思い出のような、熱さの一方で、何とも言えないセンチメンタルな余韻を残す、ハンス・ロットの交響曲。マーラー(1860-1911)の学友として、ルーム・メイトとして知られるオーストリアの作曲家、ハンス・ロット(1858-84)。26年という短い人生を凝縮したかのような、独特の密度を持つその交響曲は、実は隠れた人気作。1989年、イギリスの音楽学者、バンクスにより再発見され、ザミュエルの指揮、シンシナティ・フィルによる世界初演に伴う、世界初録音 (hyperion/CDA 66366)以来、すでに5タイトルもリリースされていたり... そして、その6タイトル目に、パーヴォ+hr響!いやぁー、ハンス・ロットも、とうとう、メジャーどころが取り上げるまでになったかと、感慨も一入の1枚。
ということで、パーヴォ・ヤルヴィと、彼が率いるhr交響楽団による、ハンス・ロットの交響曲(RCA RED SEAL/88691963192)を聴く。

聴いていると、語り尽くせないほどに、いろいろなイマジネーションが湧き上がるような。それでいて、胸が苦しくなってくるような。不思議な作品、ハンス・ロットの交響曲、1番... ハンス・ロットが、まだウィーン音楽院の学生だった頃、学内のコンクール(1878)に提出するために書かれた1楽章。結果は落選するも、卒業した後も書き続け、死の4年前、22歳で完成したこの作品。とにかく、若さではち切れんばかりの交響曲。交響曲、数曲分くらいの素材を、この1曲に盛り込んでしまっているかのような濃密さに、若気の至りというか、若き作曲家の一生懸命さ、健気さゆえの不器用さ、「青さ」を感じずにはいられない。けれど、その後に2番を書けなかった短い人生を思えば、続くはずだったいくつかの交響曲を、全てこの1曲に盛り込んでしまったのだなとも... どこかで自身の短い人生を察知し、その焦りから、こういう交響曲を書いてしまったのでは?とも思う。
そうしたあたりを強く印象付けるのが、1楽章、冒頭... いきなりのフィナーレかという盛り上がり!トランペットが、静かに、耳に残る、やさしいメロディを歌い出し、それが次第にオーケストラ全体へと広がって、冒頭にして最初のピークを聴かせてしまうという大胆さ。学内コンクールでは、一部、審査員に、笑われてしまったようなのだが、わからなくもない。とにかく、それは「いきなり」であって、その後、終楽章まで息が続くのだろうかと心配になってしまうほど。とはいえ、「いきなり」の盛り上がりに、間違いなく圧倒されてしまうことも事実で... 何より、その壮大なる後期ロマン主義の圧倒的な盛り上がりに、一度、呑まれてしまうと、押し流されるように、あっという間の50分強... 気が付けば、1楽章、冒頭のメロディが戻ってきて、終楽章が感動的に閉じられる。その勢いたるや... 世の中をまだわかっていないだろう、20代の「若さ」が放つ、底抜けのパワーだろうか?その純粋にして無鉄砲な姿がたまらなく愛おしい!もちろん、勢いばかりではない、先にも書いた通り、交響曲、数曲分はあるのではないか?というくらいの、湧き上がるままに盛り込んだのだろう、次から次へと繰り出される楽想!驚くべきは、マーラーの交響曲で聴こえていたフレーズもいくつかあったり... もちろん、ハンス・ロットが先にくるのだが...
マーラーは、ハンス・ロットの死の年に、最初の交響曲を手掛け始める。となると、マーラーは、死んだ学友の、世に出なかった交響曲をネタ帳代わりに使っていた?ハンス・ロットの交響曲を初めて聴くと、かなり驚かされると思う。いくつかのハンス・ロットのメロディが、マーラーのメロディとして、今、知られていることに... 一方で、ハンス・ロットも、いろいろと他の作曲家から強くインスパイアされてもいて。ワーグナーや、ブラームスは、この交響曲において、大きな存在を締めている。特に、終楽章(track.4)では、ブラームスの1番の交響曲の終楽章、あの有名なメロディに思いっきり影響を受けて、同じように雄弁なメロディを、弦楽で滔々と歌い上げてしまう。これもまた「若さ」ゆえか... 好きな音楽を、そのまま持ってきてしまったのだろうなと... さらに、そうしたメロディを、ブラームス調に、くどくどとフーガに仕立てたりするのも、微笑ましかったり。で、そうした音楽を、ブラームスは徹底して批判したとのこと... わかる気がする。が、それが切っ掛けで、ハンス・ロットは精神のバランスを崩し、死へと向かってゆくことに。若さゆえの過大な自信と、あまりに脆いナイーヴさ... そのあたりを誰かが上手くフォローできていたならば、音楽史はまた違ったものになったかもしれない。ハンス・ロットはマーラーよりも前に、シンフォニストとして大成していたかもしれない。ハンス・ロットを前に、マーラーの名は霞んでいたかもしれない。そんな風に思うと、ハンス・ロットの交響曲、1番は、切ないものに聴こえてくる。そして、愛しく感じてしまう。

さて、パーヴォ+hr響の演奏だが... 若さゆえの粗を見事に整理して、若さなればこそのパワーをポジティヴに捉えて、濃密な交響曲を鮮やかに展開するパーヴォ。近頃はどこか巨匠然としてしまって、それこそ若かりし頃(そんな昔ではないけれど... )を思い返すと、ぼんやりとつまらなさを感じるような、感じないような... パーヴォだが、ハンス・ロットの交響曲では、巨匠然と構えていては活きてこない?パーヴォならではの希有な音楽性と、オーケストラをしっかりドライヴできる力量があってこそ、おもしろいものに... 改めてこのマエストロの巧さを再認識させられる。そして、パーヴォに応え、見事に鳴らし切るhr響!ウィーン世紀末を目前とした後期ロマン主義を、スケール大きく響かせつつ、この作品の濃密なあたりをきっちりと展開して、スムーズに音楽を運ぶ器用さも... いや、パーヴォ+hr響というクウォリティとクリエイティヴィティで聴くハンス・ロットは、本当に贅沢!何より、メジャーな面々によるハンス・ロットに、感慨...

HANS ROTT SINFONIE Nr. 1 Frankfurt Radio Symphony Orchestra Paavo Järvi

ロット : 交響曲 第1番 ホ長調
ロット : オーケストラのための組曲 変ロ長調

パーヴォ・ヤルヴィ/hr交響楽団

RCA RED SEAL/88691963192




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