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オーケストレーションの魔法使いの恋... [2012]

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「オーケストレーション」というと、リムスキー・コルサコフ(1844-1908)や、その影響を受けたラヴェル(1875-1937)の名前がすぐに思い出される。とても教科書的な思い出し方だろうか?それから、この人を忘れるわけにはいかない、リヒャルト・シュトラウス(1864-1949)。オーケストラというパレットを、ヤリ過ぎというくらいに使い尽くしたオーケストレーションの権化!それは、凄いと思う一方で、正直、疲れる。
さて、これらオーケストレーションの大家が活躍した頃、もうひとりの大家がいた。というのが、前回、聴いた、『ペルシアの時』(hänssler/93.125)のケクラン(1867-1950)。『ペルシアの時』のオーケストレーションに触れると、他の大家たちとは一味違うセンスに魅了されてしまうのだけれど、なかなか他の大家たちのようには知られるには至らない。いや、何かもどかしい。ならば、このblogで!というのは、ちょっと無謀過ぎるのだけれど、またケクランを聴く。『ペルシアの時』と同じ、hänsslerからのケクランのシリーズ、最新盤、ハインツ・ホリガーの指揮、SWRシュトゥットガルト放送交響楽団の演奏で、ケクランのオーケストレーション集、"Magicien orchestrateur"(hänssler/93.286)を聴く。

ドビュッシーのバレエ『カンマ』に始まって、フォーレの劇音楽『ペレアスとメリザンド』からの組曲(track.3-9)、シューベルトのさすらい人幻想曲(track.10-13)、シャブリエのブーレ・ファンタスク(track.14)と、ヴァラエティに富むなかなかおもしろい組合せなのだけれど... それらがみなケクランの手によってオーケストレーションされているとなると、それぞれの作品の作曲家の存在よりも、アレンジャーであるケクランの存在が浮かび上がってくる。1曲目の『カンマ』などは、ケクランの作品のような印象で聴いてしまう... ま、面倒くさがりなところのあるドビュッシー、ピアノ譜までは書いたものの、その後はケクランが完成させ作品なわけで、ケクランがオーケストレーションしたものがオリジナルと言えるのかもしれないけれど... 改めて、ケクランとして聴く『カンマ』には、ケクランという存在をいろいろ感じることができて、何やら新鮮。そして、ドビュッシーが最後まで仕事を完遂させていたら、こんな風に響いただろうか?などと、いろいろ思いを巡らせる。印象主義の大家のセンスを大切にしながらも、ドビュッシーよりも透明感を感じさせる、瑞々しいケクランによるサウンド。濃くならずに、軽さすら感じさせ、美しい"印象主義"を描き出す繊細な仕事ぶりに彩られて、『カンマ』の魅力を再確認する。
続く2曲目が、かなり興味深い... ケクランのお気に入りの教え子で、師弟の一線を越えてしまったという、アメリカの作曲家、キャサリン・アーナー(1891-1942)による歌をオーケストラ作品とした「遠き波濤に」(track.2)。許されざる愛のコラヴォレーション?短い作品ではあるのだけれど、不安げで、切なげな、美しい音楽は、何だかマーラー風... 結局、2人の関係は、ケクラン夫人に見つかり、この作品が生み出された1933年に破局したらしいが、こういう一筋縄ではいかない"愛"だからこその美しさを見出す。ような。で、その後で、フォーレの『ペレアス... 』が演奏されるのだけれど、この構成が巧い!やはり悲恋を描く『ペレアス... 』であって。ペレアスはケクランか?そして、メリザンドの死で終わる音楽... それは、とても象徴的で。さらに、そこからシューベルトのさすらい人幻想曲(track.10-13)と続くのだけれど。愛、破れて、「さすらい人」とは、巧いというか凄い... この作品もまた1933年の作品なのだけれど、この作品でのオーケストレーションには、正気を失ったかのようなケクランの姿があり、それまでの洗練されたオーケストレーションとは異なるキッチュですらあるテイストに、ケクランの自棄っぷりを見るよう。まるで魔法使いのような髭を蓄えた風貌からは、若い教え子との道ならざる恋なんて想像もつかないのだけれど、ままならないのが恋心か。けど、最後は、楽しく!シャブリエの気まぐれなブーレ(track.14)では、そんな恋心を吹き飛ばすような、キャッチーでダンサブルな魅力が弾ける。それまでになく、カラリとしたオーケストレーションで、シャブリエの粋なあたりを音にして、すっかり楽しませてくれる。
そして、その演奏だが... ホリガーの指揮、SWRシュトゥットガルト放送響の演奏は、これまでよりブルーミンなサウンドを聴かせていて、やはりこのアルバムの裏テーマというのか、ケクランの秘めた恋が作用しているのか?そういう狙いがあるのか?いや、狙いはあるのだろう... とにかく、構成が巧い!ある意味、このアルバムが、ケクランの私小説的組曲にも思えてくるほど。そうした中で、わずかな登場ながら、鮮やかな印象を残すソプラノ、ヴェゲナー。彼女が歌う、『ペレアス... 』でのメリザンドの歌(track.8)の瑞々しさは忘れ難い。しっとりとした歌声が、フォーレならではの静かなメロディをなぞり、英語で歌われるあたり(メーテルランクの戯曲『ペレアス... 』の、ロンドンでの公演のための劇音楽だからだけれど... )が、アメリカからやって来たアーナーの存在と重なるのか... 象徴的で、特別な空気感を放っている。

KOECHLIN | Magicien orchestrateur

ドビュッシー : バレエ 『カンマ』 〔オーケストレーション : ケクラン〕
ケクラン : 遠き波濤に Op.130 〔キャサリン・アーナーの歌に基づく〕
フォーレ : 『ペレアスとメリザンド』 7つの楽章からなるコンサート用組曲 〔オーケストレーション : ケクラン〕 *
シューベルト : さすらい人幻想曲 D.760 〔オーケストレーション : ケクラン〕
シャブリエ : 気まぐれなブーレ 〔オーケストレーション : ケクラン〕

ハインツ・ホリガー/SWRシュトゥットガルト放送交響楽団
サラ・ヴェゲナー(ソプラノ) *

hänssler/93.286




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