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フリードリヒ大王。 [2012]

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フリードリヒ大王、生誕300年!
とはいえ、果たしてクラシックで祝うべきなのか?とも思う。ま、フリードリヒ大王というと、世界史の教科書でも、フルートを吹く有名な絵で紹介されることが多いし、何より、大バッハの『音楽の捧げもの』が捧げられた王様である。他の王様に比べると、クラシックとは縁の深い王様と言えるのかもしれない... が、18世紀の音楽を、バロックと、続くハイドン、モーツァルトで片付けずに、丁寧に聴いていくと、フリードリヒ大王の宮廷が、なかなかおもしろいポジションにあることが見えてくる。ドイツ中部のローカルな存在でしかなかった大バッハをリスペクトした審美眼と、より華麗に花開いた当時の音楽シーンとは距離を取るフリードリヒ大王の趣向... 大バッハをフリードリヒ大王に惹き合わせたバッハ家の次男、フリードリヒ大王の宮廷の主要なメンバーであったカール・フィリップ・エマヌエルが、より新しい自由な音楽を求めて、ハンブルクに転出したエピソードは、とても興味深い。
そんな、フリードリヒ大王の宮廷にスポットを当てる、フリードリヒ大王、生誕300年のメモリアルを祝うアルバム... まさにご当地、ベルリン古楽アカデミーによる、"FRIEDRICH DER GROSSE Music for the Berlin Court"(harmonia mundi/HMC 902132)を聴く。

宮廷楽長、カール・ハインリヒ・グラウン(1704-59)を筆頭に、その兄でヴァイオリンのヴィルトゥオーゾ、ヨハン・ゴットリープ・グラウン(1703-71)、もうひとりのヴァイオリンのヴィルトゥオーゾ、フランツ・ベンダ(1709-86)、フリードリヒ大王にフルートを教えたフルートのヴィルトゥオーゾ、クヴァンツ(1697-1773)、そしてフリードリヒ大王の伴奏者、カール・フィリップ・エマヌエル・バッハ(1714-88)... 手堅く確かな音楽家たちが居並ぶ、フリードリヒ大王の宮廷... そんな宮廷を再現する、ベルリン古楽アカデミーのアルバムは、ヨハン・ゴットリープ・グラウンの序曲とアレグロに始まり、このアルバムで初めて知ったニヒェルマンのチェンバロ協奏曲、フリードリヒ大王自身によるフルート・ソナタ、ヨハン・ゴットリープ・グラウンのヴィオラ・ダ・ガンバ協奏曲、最後はカール・フィリップ・エマヌエル・バッハの交響曲と、ヴァラエティに富み、聴き応え十分!
まずは、まさにバロック!水際立って劇的に始まるヨハン・ゴットリープ・グラウンの序曲とアレグロの、その序曲... おおっ!と思わせる、並々ならぬ意気込みに充ちたベルリン古楽アカデミーの演奏もあって、のっけからグイグイ惹き込まれてしまう。そんな序奏の後で、見事なフーガが繰り出されるのだけれど、これがちょっと不思議で... ハイドンやモーツァルトあたりが、交響曲の最後で繰り広げるような、多少、勿体ぶったアカデミズムを感じさせるのか?このあたりが、フリードリヒ大王の宮廷の真面目さだろうか?すでに古臭くなりつつあったバロックではあるけれど、モードに囚われず、より音楽そのものと向き合う感覚を見出すようであり... そういう点で、その後のクラシックに通じる感覚が、フリードリヒ大王の宮廷には漂っていたのかもしれない。
とはいえ、けして気難しいわけではない。2曲目のニヒェルマンのチェンバロのための協奏曲(track.3-5)は、思い掛けなく魅力的で... ノーマークだったニヒェルマン(1717-62)という存在に、遅ればせながら驚かされる。カール・フィリップ・エマヌエル・バッハのような多感主義的なドラマティックさもありつつ、フリードリヒ大王の宮廷のテーマともなるギャラントさで、得も言えずセンチメンタル... それでいて、古典派へと近付くような瞬間もあり、特に2楽章(track.4)は、モーツァルトのコンチェルトの緩叙楽章を思わせて、はっとさせられる。また、このアルバムではチェンバロではなくフォルテピアノを用いており、いち早くピアノを導入していたフリードリヒ大王の宮廷だけに、この選択が最高のエッセンスに。そんなフォルテピアノを弾く、アルパーマンのタッチがどこか儚げで、より雰囲気を生み出してもいて。その憂いを含んだやわらかな響きには、聴き入るばかり。
そして、このアルバムの核となるフリードリヒ大王が作曲したフルートと通奏低音のためのソナタ(track.6-8)。「大王」と呼ばれるイメージからは真逆の密やかな音楽... だけれど、フリードリヒ大王の作曲の妙味が詰まった音楽に惹き込まれる。当時の最新モード、多感主義を好まなかったというフリードリヒ大王の音楽は、シンプルでナチュラル... そこに、音楽への真摯な姿勢が感じられつつ、より先の時代を見据えてもいるようであり。1楽章のレチタティーヴォ(track.6)などは、その語りのような音楽に独特の深さがあり、どこか抽象的でもあり、不思議なポエジーを漂わせる。という作品を、フントゥゲボールトの楚々としたフルートが丁寧に捉えれば、より瑞々しく響くようで、充実のオーケストラ作品が居並ぶ中で、一味違う聴き応えが印象的。
しかし、ベルリン古楽アカデミーの演奏がいつになくすばらしい!そのキレ味の鋭さ、しっかりとしたアンサンブル... 彼らの演奏がすばらしいことは、今さらの話しではあるけれど、やはりフリードリヒ大王の宮廷があった街のピリオド・オーケストラとなれば、並々ならぬ意気込みがあって当然か。一曲入魂というくらいに、ひとつひとつの作品を見事に充実したものに仕上げていて、聴き入るばかり。そうして輝きを増すフリードリヒ大王の宮廷の音楽!華やぐパリ、派手なドレスデン、華麗なナポリ、先端を行ったマンハイムとも違う、真摯さとギャラントさが紡ぎ出す、落ち着きと格調に充ちた音楽に、魅了されずにいられない。
ところで、最後に取り上げられるカール・フィリップ・エマヌエル・バッハの交響曲(track.12-14)は、フリードリヒ大王の宮廷を離れた後、ハンブルクで作曲されたもの... となると鮮やかに多感主義!地に足の着いたフリードリヒ大王の宮廷とは打って変わって、ジェットコースターのような刺激的な音楽が展開される(また、カッコ良過ぎる!)。そして、その前に取り上げられるヨハン・ゴットリープ・グラウンのヴィオラ・ダ・ガンバための協奏曲(track.9-11)の、渋くも密度の濃い音楽と比べると、そのコントラストが凄い... バロックが終わろうとしていて、古典派がまだもう少し先の頃の、多様な音楽とその幅というのか、18世紀の音楽を、バロックと、続くハイドン、モーツァルトで片付けてしまっては、やっぱりつまらない。

MUSIC FOR THE BERLIN COURT AKADEMIE FÜR ALTE MUSIK BERLIN

ヨハン・ゴットリープ・グラウン : 序曲とアレグロ ニ短調
ニヒェルマン : チェンバロのための協奏曲 ハ短調 *
フリードリヒ2世 : フルートと通奏低音のためのソナタ ハ短調 「ポツダムのために」 **
ヨハン・ゴットリープ・グラウン : ヴィオラ・ダ・ガンバのための協奏曲 イ短調 *
カール・フィリップ・エマヌエル・バッハ : 交響曲 ニ長調 Wq.183-1

ラファエル・アルパーマン(フォルテピアノ) *
クリストフ・フントゥゲボールト(フルート) *
ヤン・フライハイト(ヴィオラ・ダ・ガンバ) *
ベルリン古楽アカデミー

harmonia mundi/HMC 902132




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