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ボヘミアの暴徒、神々しきボヘミア人... [2006]

スメタナ、ドヴォルザーク、ヤナーチェク、
ま、基本を押さえるならそんなところ。だろうけれど、クラシックの世界を丁寧に紐解くと、チェコ出身の作曲家はとても多い。wikiの「チェコの作曲家」というカテゴリーなどを見ると、ちょっと驚かされる。この人も... この人も... チェコ出身なんだと... というのが、国民楽派の登場以前のチェコ。特に18世紀のチェコ出身の作曲家たちのヨーロッパ各地での活躍は、凄い。ドレスデンの宮廷の教会音楽部門のトップを務めたゼレンカに始まり、兄はフリードリヒ大王に仕え、弟はザクセン・ゴータ・アルテンブルク公の宮廷楽長となったベンダ兄弟、マンハイム楽派の中心を担ったスタミツ家、ウィーンで人気を博したヴァンハル、ハプスブルク家の宮廷楽長に上り詰めたコジェルフ、マリー・アントワネットのお気に入り、ドゥシークなど... よく名前の知られた何人かの作曲家で片付けられてしまう18世紀だけれど、当時のリアルな音楽シーンは、ナポリ楽派が旋風を巻き起こし、国際的な名声を得るためにヨーロッパ中の作曲家がパリを目指した時代... 「チェコ」も重要な鍵を握っていた?チェコ=19世紀の国民楽派というイメージは強い。が、実は18世紀こそチェコの時代なのかもしれない。
ということで、18世紀、チェコ発、インターナショナルに活躍した作曲家を2人、ロゼッティとミスリヴェチェク... 2006年にリリースされた、プラトゥム・インテグルム・オーケストラによる、ロゼッティの交響曲、協奏曲集、"BOHEMIAN MUTINEER"(CARO MITIS/CM 0012005)と、コンチェルト・ケルンによる、ミスリヴェチェクの交響曲集、"il divino boemo"(ARCHIV/477 6418)の2タイトルを聴き直す。しかし、そのタイトルが、それぞれに、凄いのだけれど...


古典派のその先を見据えた?ロゼッティ... "BOHEMIAN MUTINEER"。

CM0012005.jpg
ロシアのピリオド・オーケストラ、プラトゥム・インテグルム・オーケストラによるロゼッティ... そのタイトルが凄い... "BOHEMIAN MUTINEER"、ボヘミアの暴徒!けど、暴徒というには少し大人しく、正直に言うと物足りなく感じてしまったアルバム。が、今、改めて聴いてみると、その丁寧な演奏に大いに感じ入る。そして、ロゼッティの音楽!丁寧な演奏だからこそ映えて... 2つの交響曲と、ホルンのコンチェルトで有名なロゼッティの、そのホルン協奏曲に、ヴァイオリン協奏曲。ロゼッティを知るには良くヴァランスの取れた1枚であり、古典派を彩ったもうひとりの作曲家の魅力をきっちりと描き出す。というロゼッティとは?
フランチシェク・アントニーン・レスレル(1750-92)。モーツァルトが生まれる6年前、チェコのリトムニェジチェに生まれ、そこで音楽教育を受けた後、南ドイツのエッティンゲン・ヴァラーシュタイン侯の宮廷楽団にコントラバス奏者として加わる(1773)。そして、名前をイタリア風に"アントニオ・ロゼッティ"に。イタリアの音楽がヨーロッパ中を席巻する中で、ちょっと詐欺師っぽい気もしなくもないが... ロゼッティの音楽もまた、ヨーロッパ中で人気を集める。候に付き従っての、パリでの成功(1781)が、ヨーロッパでブレイクする切っ掛けとなり、ロゼッティの作品は、ロンドンのザロモン主催のコンサートでも取り上げられるほどに。やがて、メクレンブルク・シュヴェリーン公国の宮廷楽長に就任(1789)、古典派の巨匠として名声を博し、多くの交響曲、協奏曲を残す。
そんな、ロゼッティによる交響曲と協奏曲、プラトゥム・インテグルム・オーケストラのアルバムを聴けば、18世紀、ヨーロッパ中で人気を集めたことに納得。特に、最後のニ短調の交響曲(track.11-14)... 古典派の短調の魅力を存分に聴かせてくれる、美しく悲しげに疾走する1楽章(track.11)... その魅力は、モーツァルトに負けていないし。続く2楽章のメヌエット・フレスコ(track.12)は、わずかにフォークロワな雰囲気も漂い、国民楽派の萌芽?なんて言ってしまうのは先走り過ぎだろうか?何より、終楽章(track.14)のキャッチーさ!耳に残るどこかとぼけたようなメロディが、飄々と織り成され、何だか癖になりそう... いや、素敵だ...
そして、忘れ難いのが、ソリストの妙技が光る2つのコンチェルト!まず、ナチュラルホルンを自在に操るマクドゥーガルによるホルン協奏曲(track.5-7)。舌を巻く揺るぎないその演奏に、とにかく魅了されてしまう。そんなマクドゥーガルの演奏があるからこそ輝くロゼッティのホルン協奏曲。その華やかさ、鮮やかさは、古典派の魅力を存分に味合わせてくれる。それから、よく歌うシンコフスキーのヴァイオリンによるヴァイオリン協奏曲(track.8-10)。ピリオドとはいえ、変にストイックになることの無いシンコフスキーの豊かな音色がまず印象に... そうして紡がれるより深みのある音楽というのは、古典派の先を見据えているようにも感じ... どこかパガニーニのコンチェルトのような感覚を見出すようで、その聴き応えは、古典派の枠組みを越えている?そして、1曲、1曲を丁寧に、着実に取り組むプラトゥム・インテグルム・オーケストラの演奏がすばらしい!こうもしっかりとしたサウンドを響かせていたかと、今頃になって、感心させられる。そうした演奏で綴るロゼッティは、思いの外、魅力的で、ハイドンやモーツァルトとは違う温度感を持った古典派サウンドに酔う。

ROSETTI ・ BOHEMIAN MUTINEER ・ PRATUM INTEGRUM ORCHESTRA

ロゼッティ : 交響曲 ニ長調 Murray A21
ロゼッティ : ホルン協奏曲 ニ短調 Murray C38 *
ロゼッティ : ヴァイオリン協奏曲 ニ短調 Murray C-9 *
ロゼッティ : 交響曲 ト短調 Murray A-42

ヘレン・マクドゥーガル(ナチュラルホルン) *
ドミトリー・シンコフスキー(ヴァイオリン) *
プラトゥム・インテグルム・オーケストラ

CARO MITIS/CM 0012005




18世紀を遊び慣れた感覚?ミスリヴェチェク... "il divino boemo"。

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ミスリヴェチェク... 名前は聞く(?)のだけれど、実際にその作品を聴く機会は少ない... そんな作曲家を取り上げることに余念の無いコンチェルト・ケルン... ということで、彼らが取り上げるのだからおもしろいのだろうな... と、漠然とした思いで手に取ったミスリヴェチェクの交響曲集、"il divino boemo"。神々しきボヘミア人、というタイトルとは裏腹に、そのジャケットの怪しさにギョっとさせられたことが印象に残るのだけれど、その音楽は?演奏はどうだったろう?と、あまり印象に残っていなかったり。そうしたところから、今、改めて聴いてみると、思い掛けなく楽しめてしまう。のは、いつものことか... さて、そのミスリヴェチェクなのだが...
ヨゼフ・ミスリヴェチェク(1737-81)。ハイドンが生まれた5年後、プラハで生まれ、プラハ大学で哲学を学ぶものの、途中でヴェネツィアへと出て、音楽を学び始め、ボローニャのマルティーニ神父にも師事。同門ということになる、モーツァルトと親交を結ぶ。一方、ナポリでオペラ『ベレロフォンテ』が大成功(1767)。ミスリヴェチェクのオペラはイタリア中を席巻し、その名はヨーロッパ中で知られることに。そして、「神々しきボヘミア人」と呼ばれたとのこと。が、とんだ遊び人だったらしく、そんなこんなで、あの怪しげなジャケットになったのか?で、その最期は梅毒で悲惨なものだった... と、モーツァルトが父、レオポルトへの手紙に書いているとか... ミスリヴェチェクという人物もさることながら、同時代の作曲家たちのインターナショナルなつながりも、興味深いなと。
さて、ミスリヴェチェクを知るには、オペラこそ... なのかもしれない。けれど、その交響曲もなかなか魅力的。コンチェルト・ケルンによるアルバムは、交響曲というスタイルが大成する少し前の頃、1760年代の末から1780年までの作品を取り上げる。そして、どの作品も10分に満たない「シンフォニア」という扱いではあるのだけれど、古典派ならではのスマートさを響かせて、イタリア仕込みの明るさと朗らかさが、アルプスの北側の古典派とは一味違う交響曲を聴かせてくれる。さり気ないウィットで楽しませてくれるかと思えば、時折、覗かせるオペラティックな歌心と、情景を思わせる雰囲気あるサウンドは、交響曲の生真面目さをやわらかくして、盛り上がってくればキャッチーに弾ける!そんなミスリヴェチェクを聴いていると、例えばハイドンの交響曲が少し気難しく感じられるような... 良くも悪くも遊び慣れた感覚が、ミスリヴェチェク的交響曲なのかも?
そんな作品の数々を、絶妙の軽さと活きの良さで仕上げるコンチェルト・ケルン。現在はラルテ・デル・モンドを率いて大活躍のエールハルトが、まだコンチェルト・ケルンのリーダを務めていた頃の録音ということで、エールハルト的景気の良さというか、ケレンが、いい具合にミスリヴェチェクの音楽にフィットし、楽しませてくれる。もちろん、今のコンチェルト・ケルンもすばらしいけれど、エールハルト時代のスパークリングな演奏が少し懐かしくもなる。クリアで、エッジーで、この感じ、好きだった。

MYSLIVEČEK: SYMPHONIES
CONCERTO KÖLN


ミスリヴェチェク : 序曲 イ長調 〔6つの序曲 から 第2番〕
ミスリヴェチェク : シンフォニア ヘ長調
ミスリヴェチェク : シンフォニア ハ長調
ミスリヴェチェク : シンフォニア ト長調
ミスリヴェチェク : シンフォニア 変ホ長調
ミスリヴェチェク : シンフォニア ハ長調 〔6つの協奏交響曲 から 第6番〕
ミスリヴェチェク : コンチェルティーノ 第1番 変ホ長調

コンチェルト・ケルン

ARCHIV/477 6418




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