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スペインへ、スペインから、 [2006]

ペルシアへと行ったから、今度はスペインへ...
連休、遠出しなかった分、音楽で遠くに行ってみる?エキゾティックな音楽(ケクランの『ペルシアの時』は、エキゾティシズムとはまた違うのだけれど... )で、多少、旅行気分を味わう。そもそも、日本という場所からクラシックを聴くということ自体が旅のようにも感じるのだけれど。そんなクラシックにおいての「スペイン」というのは、またさらに遠くへと連れてってくれるのか... ま、思い付きなのだけれど、スペインで活躍したボッケリーニと、スペイン出身のアリアーガ、2006年のリリースから、2タイトルを引っ張り出す。
ジョルディ・サヴァールと、彼が率いるスペインのピリオド・オーケストラ、ル・コンセール・ナシオンによる、ボッケリーニの名作、ギター五重奏曲「ファンダンゴ」、弦楽五重奏曲「マドリッドの通りの夜の音楽」を、大胆にオーケストラでも鳴らしてしまうチャレンジングなアルバム(Alia Vox/AV 9845)と、パウル・ドンブレヒトと、彼が率いるベルギーのピリオド・オーケストラ、イル・フォンダメントによる、夭折の天才、アリアーガの、貴重な声楽作品集(FUGA LIBERA/FUG 515)を聴き直す。


スペイン情緒を鮮やかに抽出する、サヴァールのボッケリーニ。

AV9845.jpg
ちょうど2005年がボッケリーニの没後200年で、日本でのリリースは年を越して2006年にズレこんでしまったものの、18世紀、スペインで活躍したボッケリーニを、スペインを代表するピリオド界の巨匠、サヴァールで聴くというのが、まさにメモリアルならでは... そして、取り上げられるのが、ボッケリーニの2つの交響曲に、代表作、スペイン情緒に溢れた「ファンダンゴ」、「マドリッドの通りの夜の音楽」と、ボッケリーニのいいとこ取り... となると、あまりに「メモリアル」なアルバムのように思えてくるのだけれど、サヴァールが聴かせるボッケリーニは、一筋縄ではいかない。というより、それは非常に風変わりなボッケリーニ...
2つの交響曲はともかく、ギター五重奏曲「フンダンゴ」も、弦楽五重奏曲「マドリッドの通りの夜の音楽」も、大胆にオーケストラで演奏してしまうというサプライズ!ピリオド≒オリジナル主義的な考え方をするならば、ありなの?とも思うけれど、それは思いの外おもしろい音楽に仕上がっていて。ソリストたちのアンサンブルとオーケストラという編成が、古典派の時代、人気を集めた「協奏交響曲」というスタイルのようであり、また室内楽とオーケストラを自在に行き来し、そうした規模の伸縮が繊細さと同時に音の厚みをもたらし、不思議な効果を生む。そして、スペイン情緒はより強調されるのか?カスタネットが掻き鳴らされる「ファンダンゴ」の終楽章(track.3)は、フォークロワなトーンがより強くなり、「マドリッドの通りの夜の音楽」(track.11-17)に至っては、まさにサウンド・スケープ!サヴァールらによって描かれるヴィヴィットな情景は、古典派という時代、ボッケリーニという名前すら忘れて、匂い立つスペイン情緒で酔わしてくれる。そして、夜のマドリッドの通りをそぞろ歩いているような気分に... 音楽の魔法を感じさせるサヴァールの大胆な試み、聴き直して、改めて魅了されてしまう。
そんな魔法を実現させる、ソリスト陣とル・コンセール・デ・ナシオン。コクセ(チェロ)、クレーマー(ヴァイオリン)、リスレヴァン(ギター)ら、ピリオド/古楽界で活躍するソリストにして、ル・コンセール・デ・ナシオンはもちろん、エスペリオンXXIのメンバーとしてサヴァールを支えてきた面々だけに、アンサンブルとオーケストラの親密さが深く、このあたりがサヴァールの大胆な試みをよりおもしろいものとして響かせ、一体感が印象に残る。そして、サヴァールならではの落ち着いたトーン... その渋さの中に思わぬ鮮やかさも秘めて、ボッケリーニの音楽をより味わい深いものに。その音楽がより活きてくる。

LUIGI BOCCHERINI ・ Fandango, Sinfonie & La Musica Notturna di Madrid
LE CONCERT DES NATIONS ・ R. Lislevand, M. Kraemer, B. Cocset, Jordi Savall


ボッケリーニ : ギター五重奏曲 第4番 ニ長調 G.448 「ファンダンゴ」 **
ボッケリーニ : 交響曲 ニ短調 Op.37-3, G.517 「グランデ」
ボッケリーニ : 交響曲 イ長調 Op.35-3, G.511
ボッケリーニ : 弦楽五重奏曲 ハ長調 Op.30-6, G.324 「マドリードの通りの夜の音楽」

ロルフ・リスレヴァン(ギター) *
ホセ・デ・ウダエタ(カスタネット) *
ジョルディ・サヴァール/ル・コンセール・ナシオン

Alia Vox/AV 9845




スペインからフランスへ、アリアーガの声楽作品集。

FUG515
とにかくモーツァルトの生誕250年に沸いた2006年... その裏で、ひっそりと、もうひとりのモーツァルトのメモリアルが祝われていた。というのが、「スペインのモーツァルト」こと、ホアン・クリソストモ・アリアーガ(1806-26)。スペインのビルバオに生まれ、モーツァルト同様に幼くして音楽の才能を発揮し、父親らによって神童として売り出され... やがてパリへと出て、15歳にしてパリのコンセルヴァトワールへ入学。当時、最先端の音楽に触れ、学生にして魅力的な交響曲や弦楽四重奏曲を残しながらも、20歳を前にして亡くなった夭折の天才。そんなアリアーガの声楽作品、アリアやカンタータを取り上げたのが、ドンブレヒト+イル・フォンダメント。後に、比較的、録音の機会に恵まれている交響曲(FUGA LIBERA/FUG 522)も録音することになるのだけれど、この声楽作品集は今となってもまったく貴重なアリアーガ体験をもたらしてくれる。そして、改めて聴き直して感じるのは、交響曲よりもアリアやカンタータに、アリアーガの音楽にきらめきを感じてしまう。
フランスで学び、フランスの伝統をしっかりと吸収したアリアーガの音楽は、スペインであるより、フランス音楽を体現するのか。ジャンスがフランス・オペラの系譜を丁寧に追った"TRAGÉDIENNES"のシリーズ、その"2"(Virgin CLASSICS/216574 2)で、アリアーガを取り上げていたことを思い出す。ボッケリーニの死の翌年に生まれたアリアーガ、ポスト古典派の時代、ロマン派の黎明の頃、フランス・オペラの伝統、トラジェディ・リリク、革命前のパリを席巻したグルックの"疾風怒濤"のオペラの系譜を受け継ぎつつ、破天荒なフランス流ロマン主義を繰り出したベルリオーズ(1803-69)の活躍を予兆するようなところもあって。古典派的、端正な佇まいを残しつつも、じわりじわりと温度を上げてゆく展開が印象的。そんな聴き応え十分な2つのカンタータ、『エルミニ』(track.4)と、『砂漠のハガル』(track.7)は、とにかく圧巻!こういう作品を聴いてしまうと、もう10年長生きしたならば、ベルリオーズの存在を霞ませることができたのかも?ふとそんなことを考えてしまう。
というアリアーガの声楽作品を見事に歌い上げる歌手たち... けしてビッグ・ネームというわけではないけれど、それぞれに瑞々しい歌声で、アリアーガの音楽を的確に捉え、その魅力を十二分に際立たせ。特に印象にのこるのが、2つのカンタータを歌ったノールドゥイン。そのストイックに響くソプラノから生み出される力強いドラマは、ただならずインパクトがある。そして、バロックものをメイン・レパートリーとするドンブレヒト+イル・フォンダメント... 彼らがぐっと時代を下っても見事に雄弁な音楽を奏で、歌手たちに負けずと存在感を示し、魅了されてしまう。で、こういう演奏を聴いてしまうと、ベルリオーズあたりも聴いてみたくなってしまう。『砂漠のハガル』のフィナーレの鳴り様は、惚れ惚れするばかり...

Arriaga Obras vocales ― Vocal Works

アリアーガ : おお、救いのいけにえよ ***
アリアーガ : スターバト・マーテル ***
アリアーガ : オイディプス王のアリア *
アリアーガ : カンタータ 「エルミニ」 *
アリアーガ : メディアのアリア *
アリアーガ : 『オロールおばさん』 の 二重唱 **
アリアーガ : カンタータ 「砂漠のハガル」 *

ビオレト・セレナ・ノールドゥイン(ソプラノ) *
ロベルト・ゲッチェル(テノール) *
ミカエル・ステンベーク(テノール) *
フベルト・クレッセンズ(バス・バリトン) *
ブリユク・ヴァテレ(ボーイ・ソプラノ) *

パウル・ドンブレヒト/イル・フォンダメント

FUGA LIBERA/FUG 515




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