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春にして、モーツァルトを想う... [2006]

モーツァルト生誕250年のメモリアルです!
嘘です... って、もうちょっと、気の利いた嘘をついてみたかったのだけれど... えー、っと、2006年を振り返っている最中ということで、2006年を改めて聴き直してみると、やっぱりモーツァルトが多いなとつくづく感じることに。最も人気のある作曲家のメモリアルとなれば、当然ではあるのだけれど、すっかりそういう気分に呑まれてしまった自身も再発見し、こんなにもモーツァルトを聴いていたか... と、少し驚いてしまう。けど、やっぱりモーツァルトが好き!モーツァルトが活躍していた時代が好き!と、再確認。そして、今、新年度がスタートし、陽気も俄然、春っぽくなり、こんな時は、やっぱりモーツァルト!ということで、2006年にリリースされた、まさにモーツァルトのメモリアルの華やかさをそのまま詰め込んだアルバムを2タイトル、久々に引っ張り出して...
チェコが生んだメッゾ・ソプラノのスター、マグダレーナ・コジェナーが、後に夫となるサイモン・ラトルの指揮、エイジ・オブ・インライトゥンメント管弦楽団の演奏で歌うアリア集(ARCHIV/477 5799)と、キャロリン・サンプソンのソプラノを中心に、ロバート・キング率いる、キングス・コンソートの演奏と合唱、チーム・イギリスによる教会音楽集(hyperion/CDA 67560)を聴き直す。


コジェナーのスウィートなモーツァルト。

4775799.jpg
オーケストラは英国切ってのピリオド・オーケストラ、エイジ・オブ・インライトゥンメント管(以後、OAE)。指揮にはベルリン・フィルの首席指揮者、ラトル。さらにはフォルテ・ピアノでインマゼールまでもが参加。ピリオドの領域で、これほどまでにゴージャスな面々が揃えられるとは驚きだった、コジェナーのモーツァルト・アリア集。まさにモーツァルトのメモリアルなればこその1枚。が、アルバムとしての仕上がりは、どこかぼやけた印象で、少しガッカリしたことを覚えているのだけれど、今、改めて聴き直してみると、どうだろう?少し違うのかも...
それが、18世紀の流儀だったとしても、ちょっとヤリ過ぎなくらいに装飾音で飾られて(全てのアリアというわけではないのだけれど... )、素のモーツァルトの美しさまでも覆いかねないようなコジェナーの解釈。マニエリスティックになり過ぎていない?2曲目、定番のケルビーノのアリエッタ(track.2)など、よく聴き知った曲などは特にそんな風に感じてしまうのだけれど、コジェナーならではのやわらかな声で飾られたモーツァルトというのも、また雰囲気があるのかもしれない。天才性のきらめきそのものと言えるモーツァルトの音楽が、コジェナーによって装飾されて生まれる感覚は、モーツァルトにしてモーツァルトのイメージから離れるような、おもしろい感覚がある。離れてみて、18世紀後半のウィーンの気分のようなものが浮かび上がり。ウィーンという街のスウィートさが、ひとつひとつのアリアから溢れてくるよう。そして、そのスウィートさに、ウィーン世紀末の爛熟したロマンティシズムが放つ匂い立つような甘さがすでに見て取れるようで、仄かにデカダン... モーツァルトにこういう感覚を見出すとは、ちょっと驚きであり、刺激的。そして、こういう感覚を引き出したコジェナーに、改めて感心させられてしまう。
けして、その場の勢いで飾り立てているのではない、ひとつひとつのアリアとしっかりと向き合い、最慎重に丁寧に歌い上げ、夢見るようなあまやかさを生み出す。そのひとつひとつのアリアは、まるでボンボン・ショコラのよう。一粒、口に運んで、ちょっと噛んでみると、中から、ウイスキーが溢れ出し、香りと甘さが口一杯に広がり、聴く者を酔わせる... そして、そのチョコレートをしっかりと練り上げ、極上のものに仕上げるのが、ラトル。OAEをよく鳴らし、モーツァルトの音楽に厚みを持たせ、ピリオド・オーケストラをより豊潤に響かせる。すると、味わいはより多層的となり、モーツァルトに深みが加わる。その深みがコジェナーのスウィートさを際立たせ、また絶妙。やはりと言うべきか、ラトルの指揮は、コジェナーへの愛情に溢れている。そして、忘れてならないのが、3曲目、ピアノ伴奏付きのコンサート・アリア(track.3)、インマゼールのフォルテ・ピアノ!コジェナーのスウィートさに、OAEの深み、そこにインマゼールのフォルテ・ピアノが、さらに美しい縁取りとなって、輝きを増す。
しかし、贅沢な1枚だ。インマゼールがこういう形で参加するなんて... メモリアルなればこその1枚。それでいて、じわりと魅力が広がる1枚。

MOZART: ARIAS
MAGDALENA KOŽENÁ ・ SIR SIMON RATTLE


モーツァルト : オペラ 『フィガロの結婚』 K.492 から
   レチタティーヴォとアリア 「ついにその時が来たわ... さあ、おいで、遅くならず、素敵な喜びよ」
モーツァルト : オペラ 『フィガロの結婚』 K.492 から アリエッタ 「恋とはどんなものかしら」
モーツァルト : コンサート・アリア 「どうしてあなたを忘れられよう」 K.505
モーツァルト : オペラ 『コシ・ファン・トゥッテ』 K.588 から アリア 「男に、兵隊に、誠実を期待するんですの?」
モーツァルト : オペラ 『コシ・ファン・トゥッテ』 K.588 から
   レチタティーヴォとロンド 「あの方、行ってしまう... お願いです、いとしいあなた、許して下さい」
モーツァルト : オペラ 『コジ・ファン・トゥッテ』 K.588 から アリア 「恋はくせもの」
モーツァルト : オペラ 『ティトの慈悲』 K.621 から ロンド 「夢に見し花嫁姿」
モーツァルト : オペラ 『イドメネオ』 K.366 から
   レチタティーヴォとアリア 「いつ果てるのでしょう... 父上、兄弟たち、さようなら」
モーツァルト : コンサート・アリア 「私は行きます、でもどこへ?」 K.583
モーツァルト : オペラ 『フィガロの結婚』 K.492 から アリア 「自分で自分がわからない」
モーツァルト : コンサート・アリア 「大いなる魂と高貴な心」 K.578
モーツァルト : オペラ 『フィガロの結婚』 のための
   レチタティーヴォとアリア 「ついにその時が来たわ... あなたを愛している人の望みどおりに」 K.577
   〔アリア 「さあ、おいで、遅くならず、素敵な喜びよ」 の差し替えとして〕

マグダレーナ・コジェナー(ソプラノ)
サイモン・ラトル/エイジ・オブ・インライトゥンメント管弦楽団
ジョス・ファン・インマゼール(フォルテ・ピアノ)

ARCHIV/477 5799




サンプソンの生命感に溢れるモーツァルト。

CDA67560.jpg
2006年のモーツァルトのメモリアル... まさに、そうした祝祭感に溢れた1枚は、ソプラノの定番レパートリー、エクスルターテ・ユビラーテ(track.8-11)をメインに、有名な作品、そうでない作品を取り交ぜて、モーツァルトによる教会音楽のいいとこ取りの構成。で、コジェナーのアリア集の後だと、オペラとはまた違う表情を見せるモーツァルトが、より新鮮に感じられるところもあって。何より、今、改めて聴き直してみて、サンプソンはもちろん、ロバート・キング+キングス・コンソートのサウンドに力強さを感じ。そうだ、彼らはこういうすばらしいパフォーマンスを繰り広げていたのだ... と、改めて思い返さずにはいられない。
創設者、ロバート・キングのスキャンダルで、どうなってしまうのかと思われたキングス・コンソート。その後、新たな指揮者を立てて、演奏を継続。そして、今、ロバート・キングは指揮者に復帰して、再び活動しているようだけれど... 本当にすばらしいアンサンブルだったからこそ、何をやっているんだ!と、心底、ガッカリさせられた。罪は贖われて然るべき... が、それによって才能は封ぜられ、多くの功績がフっ飛んでしまう。その虚しさたるや。ヘンデル、ヴィヴァルディ、モンテヴェルディ... hyperionからの意欲的なシリーズを誇る彼らだけに、ロバート・キングの収監以後(2007)、リリースはがくんと減り、今となっては新たな録音はなされていない様子。ミヒャエル・ハイドンのミサ(hyperion/CDA 67510)、そして、このモーツァルトの教会音楽集を聴けば、古典派でもすばらしい演奏を聴かせてくれたはず。いや、古典派こそ、彼らの感覚に合っている。
オーケストラも、コーラスも、しっかりと身の詰まったサウンドを紡ぎ出し、モーツァルトの音楽をよりスケールの大きなものとして響かせる。それは、いつものモーツァルトとは少し趣きを変えるのか。浮世離れした天才性が生み出す音楽というよりは、より生命感に溢れ、ヴィヴィット。しっかりと地に足の着いた、確固たる音楽を響かせ、そこから立ち上がるモーツァルト像は、そこはかとなしに壮麗でもあり、古典派を越えたインパクトすら感じるところも。そして、そういうモーツァルト像を生み出したキングス・コンソートの、オーケストラ、コーラスの一体感が凄い... いくつもの大きなプロジェクトを長年掛けて完成させ、熟成されてきたアンサンブルがもたらす充実感は、他にはないものかもしれない。そこに、キングス・コンソートのレギャラー・メンバー、サンプソンの凛とした歌声がフィーチャーされるわけだが。伸びやかで、やわらかで、それでいて突き抜けてゆくような力強さも感じさせるサンプソンのソプラノ。軽やかに宙を舞うようなモーツァルトのメロディ・ラインの美しさを、やさしく捉えつつ、揺るぎ無さを与え、印象的。収録された作品は、どれも20代のモーツァルトによるものとあって、どれも若々しさに溢れているのだけれど、そうしたあたりを活かし切るサンプソンであり、ロバート・キング+キングス・コンソートであり。そうして一丸となって織り成すモーツァルトは、晴れ晴れとしたポジティヴ感が漲っている。それは、春、生命が息吹を取り戻す力強さに似て、美しくも元気付けられるモーツァルト!

MOZART EXSULTATE JUBILATE!
CAROLYN SAMPSON soprano ・ THE KING'S CONSORT / ROBERT KING


モーツァルト : 喜ばしき天の女王 K.108
モーツァルト : ヴェスペレ 『証聖者の盛儀晩課』 ハ長調 K.339 より ラウダーテ・ドミヌム
モーツァルト : 主の保護のもとに K.198
モーツァルト : グラドゥアーレ 『神の母、聖なるマリア』 ヘ長調 K.273
モーツァルト : モテット 『踊れ、喜べ、幸いなる魂よ』 K.165 〔ザルツブルク版〕
モーツァルト : 戴冠ミサ ハ長調 K.317 より アニュス・デイ
モーツァルト : 『主日のための晩課』 ハ長調 K.321 より ラウダーテ・ドミヌム
モーツァルト : 喜ばしき天の女王 K.127

キャロリン・サンプソン(ソプラノ)
ロバート・キング/キングズ・コンソート

hyperion/CDA 67560




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