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グルックの祭典。 [2006]

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何となく、グルックのリリースが増えてきているように感じる...
いや、増えるというほどではないか... けど、新譜の情報を追っていると、コンスタントにグルックの名前を見つけるようになってきた。昨年は、ガイッグ+オルフェオ・バロック管による交響曲集(cpo/777411)のリリースに驚かされ(オペラ作曲家、グルックの意外な一面にびっくり!)。それから、カーティス+イル・コンプレッソ・バロッコによるオペラ『エツィオ』(Virgin CLASICS/0709292)。今年に入ってからは、デ・リジオ+アルモニア・アテネアによるオペラ『クレリアの勝利』(MDG/60917332)と、『オルフェオとエウリディーチェ』ではないグルックの珍しいオペラ(『クレリアの勝利』は、世界初録音とのこと... )が、ポツりポツりとリリースされ、今、密やかにグルックがキテているのか?2014年、グルック生誕300年のメモリアルに向けた動きなのか?とても気になる。というより、来たれ!グルック・ルネサンス... そのあたり、かなり楽しみにしているのだけれど。
ということで、2006年にリリースされたグルック... クリストフ・ルセ率いる、レ・タラン・リリクの演奏で、4つのパートからなるオペラ『アポロの祭典』から、第2部、『アリステオ』と、第1部、『バウチとフィレモーネ』を取り上げる2枚組(ambroisie/AMB 9995)を聴き直す。

パルマ公、フェルディナント1世と、オーストリア大公女、マリア・アマーリアの婚礼(1769)のために作曲されたオペラが、グルックの『アポロの祭典』。それは、機会音楽ならではの特殊なオペラとのこと。まず、グルックの『テレマコ』(1765)からの序曲を転用したプロローグに始まり、ひとつ目のストーリーとして『バウチとフィレモーネ』が上演され、続いて『アリステオ』、最後に、グルックの代表作、『オルフェオとエウリディーチェ』(1762)の短縮版、『オルフェオ』を上演。ひとつのオペラとされてはいるが、実質、プロローグ付きのオペラ3部作。で、アポロというよりは、すでにウィーンの巨匠として名声を得ていた"グルックの祭典"といったところだろうか。そのグルックとしては、オムニバスでいくつかのエピソードを並べる、フレンチ・スタイルのオペラ・バレを意識したらしい。が、オペラ・バレのようなライトな感覚とは一線を画して、意外に凝った物語が展開する。第3部、『オルフェオ』の前日談として、第1部、第2部を描き、18世紀版"リング"(ワーグナーはグルックの2つの『イフィジェニ』をアレンジしているわけで、そこに共通項を見出す?)の印象も受ける。もちろん、ワーグナーのような深刻さは皆無だけれど... そんな『アポロの祭典』、ルセ+レ・タラン・リリクが取り上げるのは、旧作からの転用では無い、このオペラのために作曲された第1部、『バウチとフィレモーネ』(disc.2)と、第2部、『アリステオ』(disc.1)。
ちょうど、モーツァルト少年がイタリアを旅行し、その最初のオペラ・セリアとなる『ポントの王、ミトリダーテ』(1770)を作曲した頃... ということで、そのあたりのオペラとイメージは重なるのか。古典派の、オペラ・セリアの、まさに古典的な端正なあたりが、古代ギリシアを舞台とした物語のアルカイックさにしっくりときて。また、そのきちっとした佇まいが、宮廷の婚礼という、祝祭的な気分にも合い、優雅で、上品。宮廷作曲家、グルックによる上質な音楽を味わう。一方で、その後、パリへと進出(1773)し大活躍した"疾風怒涛"のオペラからすると、まだまだ同時代の枠組みからは抜け出し得ていない優等生的なオペラでもあって、改革者、グルックのドラマティックさ、スリリングさを知ってしまうと物足りなく感じてしまう。しかし、今、改めて聴き直してみると、その18世紀のオペラ・セリアの典型的な姿に、素直な美しさを見出す。華麗で聴かせ所たっぷりのアリアなどは、18世紀の音楽の結晶のよう。『バウチとフィレモーネ』にしろ、『アリステオ』にしろ、機会音楽として、劇場に詰めかけるうるさ型たちとは無縁の音楽という特殊性が、いい意味で衒いを排し、ローファットな輝きを放つ?もちろん、改革者としてのグルックならではの音楽のきらめきは、あちらこちらから響き出してもいて、ローファットな中にスパイスを効かせ、楽しませてくれる。『バウチとフィレモーネ』の、最後のジョーヴェのアリア(disc.2, track.19)から、嵐と雷光(disc.2, track.20)へと荒ぶりながらの展開はプレ"疾風怒涛"!グルックのスリリングさを垣間見せてくれる。
そして、その音楽を際立たせる、ルセ+レ・タラン・リリクの演奏!彼らの、モーツァルトの『ポントの王、ミトリダーテ』(DECCA/460 722-2)の、純度の高い演奏は、未だに大きなインパクトとしてあるのだけれど... まさに、オペラ・セリアのきちっとした性格をそのまま活かして、古典美から瑞々しいサウンドを生み出す、ちょっと、他では難しい魔法のような仕事ぶりは、このグルックでも活かされていて。改めて、ルセ+レ・タラン・リリクのすばらしさを再確認。そして、すばらしい歌手陣!ハレンベリの艶やかなメッゾ・ソプラノにすっかり魅了され、スターヴェランのナチュラルなテノールは、まさに古典派の時代を体現して凛とし... ビッグ・ネームこそないものの、ピリオド界で活躍する手堅い面々をキャスティングして、的確にグルックの上質さを捉える見事さ。多少、アナセンのソプラノの細かいヴィブラートが気になるものの、そのヴィブラートを活かしたコロラトゥーラは圧巻でもあり、18世紀の魅力をしっかりと伝えてくれる。それから、ナミュール室内合唱団の、いつもながらのクリアなハーモニー。『アリステオ』、『バウチとフィレモーネ』ともに、すばらしいアクセントとなり、コーラスのグルックが映える。
それにしても、スペイン・ブルボン家(新郎はスペイン王の弟)と、ハプスブルク家(新婦はマリア・テレジアの六女)の婚礼... ウィーンの巨匠を招いてのプロローグ付き3部作とは、さすが!そして、まったく贅沢... また、その婚礼のオペラを掘り起こしたルセの勇気も凄い... 機会音楽につきもののユルさなど微塵も無い充実した演奏を繰り広げ、18世紀のセレヴな世界の品の良さと華やぎを、瑞々しく蘇らせている。

Christoph Willibald Gluck Philémon & Baucis

グルック : オペラ 『アポロの祭典』 から 第2部 『アリステオ』

アリステオ : アン・ハレンベリ(メッゾ・ソプラノ)
アティ : マグヌス・スターヴェラン(テノール)
チレーネ : ディッテ・アナセン(ソプラノ)
チディッペ/シルヴィア : マリー・レノーマン(メッゾ・ソプラノ)

グルック : オペラ 『アポロの祭典』 から 第1部 『バウチとフィレモーネ』

バウチ : ディッテ・アナセン(ソプラノ)
フィレモーネ : マリー・レノーマン(メッゾ・ソプラノ)
ジョーヴェ : マグヌス・スターヴェラン(テノール)
羊飼いの娘 : アン・ハレンベリ(メッゾ・ソプラノ)

ナミュール室内合唱団
クリストフ・ルセ/レ・タラン・リリク

ambroisie/AMB 9995




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