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ピリオドで挑む「ピアノ付き交響曲」。 [2011]

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ピアノ付き交響曲... とも言われるブラームスの1番のピアノ協奏曲。
となると、巨大で厳ついイメージがあるわけだが、そんな作品を、ピリオドで取り上げるとどうなるだろう?ブラームスの交響曲ならば、ピリオドでの演奏はある。けれど、ピアノ協奏曲となると無かったような... やっぱり、ピアノと、巨大で厳ついオーケストラのバランスをクリアするのは、なかなか難しいのか... しかし、不器用なピリオドの楽器たちが紡ぎ出す個性的で繊細なニュアンスが、あの巨大で厳つい響きを、どう変化させるだろう?
そんな冒険を試みたのが、ピリオドのピアノでブラームスのピアノ作品全集に挑んでいる、ドイツの気鋭のピアニスト、ハーディ・リットナー。1854年製、エラールのピアノで、ヴェルナー・エールハルト率いる、ピリオド・オーケストラ、ラルテ・デル・モンドの演奏に乗って、巨大で厳つい、ブラームスの1番のピアノ協奏曲(MDG/904 1699-6)を弾き上げる!という、白熱のライヴ盤を聴く。

やっぱり、ブラームスの1番のピアノ協奏曲は、巨大で厳つい... 久々に聴くその始まり、1楽章の冒頭の仰々しくシンフォニックに鳴らされるオーケストラを聴いていると、ピアノ協奏曲であることを、本当に忘れてしまいそう。まったく以って「ピアノ付き交響曲」だなと... ヴィルトゥオーゾたちが大活躍した時代に、ヴィルトゥオージティよりも、シンフォニックなオーケストラで、まず圧倒してくるブラームスに、ちょっと中てられもするのだけれど、エールハルト+ラルテ・デル・モンドの演奏がなかなか見事で、聴き入ってしまう。
かつてコンチェルト・ケルンのリーダーを務め、アグレッシヴで刺激的な演奏を聴かせてくれたエールハルトだが、自身が創設したピリオド・オーケストラ、ラルテ・デル・モンドを指揮して生み出すサウンドというのは、そんなコンチェルト・ケルン時代を彷彿とさせる。少数精鋭による引き締まったアンサンブルは、クリアかつアグレッシヴ。鳴らすべきところでガツンと鳴らしてくるシャカリキ感が胸すくようで、思いの外、雄弁。そのスケール感は、モダンのオーケストラに引けを取らない。そこに、1854年製のエラールのピアノが響き出すわけだが...
明瞭に、豪快に鳴り響くのではない、独特の温もりを感じさせるアンティークなその音色。モダンのピアノによる演奏に慣れてしまっていると、この巨大で厳ついブラームスを最後まで弾き切れるのか?多少、心許無くもなる。が、リットナーは、そのアンティークさから、目一杯、「ピアノ付き交響曲」に挑んで、ラルテ・デル・モンドに喰らいついてゆく。そうして生まれるスリリングさは、長大な1楽章をよりアグレッシヴなものとして、飽きさせない。続く、2楽章(track.2)では、アンティークのピアノの薫り立つようなトーンがより活きて、リットナーの瑞々しいタッチも相俟って、ブラームスのロマンティックが、思い掛けなくアンビエントに広がってゆく... それは、ちょっとクラシック離れした美しさか。巨大で厳つい... からは一転、甘く、夢見るようなブラームスが、印象的。そして、再びエネルギーが充填され、力強く始められる終楽章(track.3)。まず、リットナーによる華麗なヴィルトゥオージティに魅了されることになる。また、それに応えるエールハルト+ラルテ・デル・モンドの歯切れの良い演奏も素敵で、「ピアノ付き交響曲」ではなく、ピアノ協奏曲としての魅力もきっちりと描き出す。そして、次第にピアノとオーケストラのやり取りは白熱し、フィナーレへ向けての盛り上がりはホット!「ピアノ付き交響曲」をピリオドでどう響かせるか?いろいろ計算もあっただろうが、頭ばかりで考えるのではない、勢いのようなものもこの演奏にはあって(このあたり、ライヴ盤ならではか?)、その熱さが魅力でもあり、じわりじわりと感動を誘う。そんな大作を聴いた後での、静かな間奏曲(track.4)が、また絶妙!巨大で厳めしい... からの、この淡さは、たまらなく魅惑的。それはアンコールだったのか?この1曲を最後に持ってくるというセンス、最高!1枚のアルバムとして、より際立たせる。
それにしても、見事にやり切っている。シェーンベルクすらピリオドのピアノで取り上げてしまったリットナーだが、「ピアノ付き交響曲」というのも、まったく大胆だったわけで。そうした作品に、思い切りよく挑む姿が清々しい。ピリオドのピアノのアンティークさに頼るのではない、ピリオドのピアノの弱点を見つめ、作品としっかり向き合い、より確固とした音楽を構築しようという強い意志を感じさせるリットナー。これから彼がどんな音楽を取り上げ、どんな風に響かせてゆくのか、期待せずにはいられない1枚だった。

Brahms: Piano Concerto No. 1 D minor

ブラームス : ピアノ協奏曲 第1番 ニ短調 Op.15 *
ブラームス : 間奏曲 Op.119‐1

ハーディ・リットナー(ピアノ : エラール、1854年製)
ヴェルナー・エールハルト/ラルテ・デル・モンド *

MDG/904 1699-6




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