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"REQUIEM D'ANNE DE BRETAGNE" [2011]

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今日のために取っておいたわけではないのだけれど...
昨夏にリリースされていたアルバム、アントワーヌ・ドゥ・フェヴァンのレクイエム。フランスのルネサンスの葬送の音楽を、静かに聴いてみる。そんな1日。それにしても、あっという間の1年であり、とてつもなく遠くにも思えてくる1年前であり、振り返ると、いろいろな感情がよみがえって、一言では言い表せない複雑な心境になる。そして、言葉がうまく出てこない。型通りのお悔やみや、いたわり、ねぎらいは、もう十分な気がする。それよりも、あの日、帰れなかった人たち、今、帰れないでいる人たちの気持ちに、そっと寄り添えたなら... と、ふと思う。
そんなことを思わせてくれたアルバム... ドゥニ・レザン・ダドル率いる、フランスの古楽アンサンブル、ドゥルス・メモワールが、ワールド・ミュージックからヤン・フォンシュ・ケメネールを招き、綴る、"REQUIEM D'ANNE DE BRETAGNE"(Zig-Zag Territoires/ZZT 110501)を聴く。

ブルターニュ女公にして、フランス王妃、アンヌ・ドゥ・ブルターニュ(1488-1514)の、葬送の音楽を再現したというアルバムは、ドゥルス・メモワールならではのスパイスの効いた構成... フランスの宮廷に仕えていたフェヴァン(ca.1470-1512)のレクイエムを中心に、ルネサンスのポリフォニーと、ブルターニュのトラッドを織り交ぜ、独特の質感を響かせる。それは、けして平坦ではなかったアンヌ・ドゥ・ブルターニュの人生にそっと寄り添うような、やさしさを見出し、より印象深い音楽を聴かせてくれる。
それにしても、アンヌ・ドゥ・ブルターニュという人生は、ドラマ以上にドラマティックだ。幼くして両親を失い、わずか11歳にしてブルターニュ公国の女公となるものの、ブルターニュでの内紛、フランスからの干渉、神聖ローマ皇帝との婚約、が、2人のフランス王に嫁ぎ、故国、ブルターニュ存立のために奮闘し、ヨーロッパのバランス・オブ・パワーに翻弄されたその人生は、現代を生きる我々には想像が付かない。お姫さまは、お妃さまは、なぜお城に住み、綺麗に着飾って、多くの者たちがかしずくのか?それ以上に国を背負う責任があるからだ。21世紀の政治家たちにまったく欠けるものが、アンヌの人生には目一杯、詰まっている。そして、精一杯に努めたアンヌは、ブルターニユの民に慕われていたとのこと... そんな思いを汲み取るのか、"REQUIEM D'ANNE DE BRETAGNE"は、悲しげなブルターニュのトラッドと、やわらかなルネサンスのポリフォニーで、今、改めてアンヌの魂を送るよう。そして、今、それを聴くことは、その葬送に立ち会うような感覚があり、不思議な心地にさせられる。
派手に嘆くのでもなく、やたら荘重になるでもなく、そっと送り出す音楽。そうして死者を送り出すことで、送る側にも何らかの癒しをもたらす音楽でもあって。誰もがどこかで抱えているだろう喪失感に、そっと寄り添い... ただ寄り添うだけのやさしさを感じる不思議な音楽。歴史上のアンヌ、ルネサンス期のフランスの宮廷の葬送の音楽、ブルターニュが持つ独特な風合... どれも興味深いのだけれど、それらを巧みに1枚にまとめて聴こえてくるものは、そうした興味深さを越えた、音楽そのものが持つ癒しの力?アンヌのための葬送の音楽のはずが、今を生きる人々のための浄化の音楽にも思えてくる。それだけ、浄化を必要ともしているのだろうが...
そうした癒しを響かせるレザン・ダドル+ドゥルス・メモワール。まず、その歌声の見事さがある。美しくやわらかな高音部に対して、深く地の底から発せられるような低音部... その幅と多彩さは、どこか無機質にも思えるルネサンスのポリフォニーに血を通わせ、それぞれの声部を力強く描き出し、より訴え掛けてくるのか。そこに、ブルターニュのトラッドのスペシャリスト、ヤン・フォンシュ・ケメネールのヴォーカルが、強い個性を放ち... その寂しげな表情は、ルネサンスのポリフォニーとは交わり得ないようなプリミティヴさを見せるのだけれど、フェヴァンのレクイエムに大きく作用し、最後のスタバト・マーテル(track.22)など、このアルバムのトーンを決めさえするインパクトがある。NHKの"Amazing Voice"に登場したケメネールだが、そこで紹介された厳しいブルターニュの環境、自然を、そのまま歌い紡ぐ姿は、アンヌの望郷を浮かび上がらせるようでもあり、切なくすらなる。
そんな望郷と、死者に寄り添うやさしさと... レザン・ダドル+ドゥルス・メモワールは、前々作、"Laudes" (Zig-Zag Territoires/ZZT 090901)でも、ワールド・ミュージックとのコラヴォレーションを繰り広げ、実に個性的で興味深い音楽を聴かせてくれたわけだが、このアルバムでは、全てが相俟って、ひとつのところへと落ち着いてゆくのがおもしろい。何より、深く心に響く。

ANTOINE DE FÉVIN | REQUIEM D'ANNE DE BRETAGNE | DOULCE MÉMOIRE | DENIS RAISIN DADRE

ピエール・ムリュ : Fiere attropos mauldicte
作曲者不詳 : Skolader yaouank
ジョスカン・デ・プレ : Coeur Désolez / Plorans ploravit
コスタンツォ・フェスタ : Qui dabit oculis nostris
作曲者不詳 : Anaig ar Glaz
アントワーヌ・ドゥ・フェヴァン : レクイエム

ドゥニ・レザン・ダドル/ドゥルス・メモワール
ヤン・フォンシュ・ケメネール(ヴォーカル)

Zig-Zag Territoires/ZZT 110501




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