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"two souls" [2012]

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ヴァイオリンの新たな逸材、ミハイル・シモニアン(b.1986)。そのDGデビューが、ハチャトゥリアンとバーバーのヴァイオリン協奏曲と聞いて、ちょっと気になる。名門レーベルからのデビューを、こうもマニアックに飾るとは!?一方で、そのアルバムのタイトル、"two souls"が、さらに気になる。何でも、シモニアンの、アルメニア人として、アメリカに移住しての音楽的背景を、アルメニア人作曲家、ハチャトゥリアンと、アメリカの作曲家、バーバーのコンチェルトに込めたのだとか... デビュー盤は名刺代わり。かもしれない。けれど、随分とパーソナルなあたりを盛り込むのだなと、その思い入れ具合に、微妙(?)なものを感じてしまうのだったが...
ミハイル・シモニアンのヴァイオリン、クリスチャン・ヤルヴィの指揮(何気に、クリスチャンもDGデビューだったり... )、ロンドン交響楽団の演奏による、ハチャトゥリアンとバーバーのヴァイオリン協奏曲(Deutsche Grammophon/477 9827)を聴く。

見事です!まず、その思い切りの良さに、感服させられる。そして、骨太でありながら、華麗な音色!魅了されずにいられない。もちろん、技巧的なあたりもあっさりとクリアされ、その鮮やかなテクニックにも驚かされる。未だ20代半ば、まだまだ若手だというのに、どこか巨匠然としていて、その態度があっぱれ!確固たる自信がそのまま音になって表れている... そして、伊達に"two souls"なのではないなと... まさにアルメニア人としての魂と、アメリカに生きる魂をぶつけて、マニアックだろうが、何だろうが、これが「シモニアン」だ。ということを、徹底して響かせてくる。デビューにしてこの押しの強さに、タジタジでもあるのだけれど、有無も言わさず自身のペースに聴く者を巻き込んでしまう、強力なオーラを纏った演奏は、もの凄いインパクトがある。
で、取り上げる2つのコンチェルトなのだが... まずは、ハチャトゥリアン(track.1-3)。ふと振り返ると、しっかりと聴くのは初めてかもしれない... で、こんなにもおもしろい曲だったの?!と、作品でも驚かされてしまう。それはソヴィエト的というのか、妙にキャッチーな劇画調の出だしから、独特の音楽世界が繰り広げられ。そこに、力強くも鋭くリズムを刻んでくるヴァイオリンが乗っかって... 1楽章にして、すでに終楽章のテンション。惜しみなくパワーを漲らせ、エンジン全開なあたりに、そうか、「剣の舞」の作曲家だった... なんて、再確認。そして、その終楽章(track.3)なのだが... とにかく、たまらなくノリが良過ぎる!軽やかなヴァイオリン・ソロに導かれて繰り広げられる音楽は、ちょっとクラシック離れしたセンスすらあって、何だろう?往年の派手な映画音楽だろうか?また、アルメニアンにエキゾティックなあたりも随所に現れ、魅惑的。もちろんソヴィエトならではの「社会主義リアリズム」という検閲下に置かれた大衆的チープさも盛り込まれていて、一度、聴いたらヤミツキになるおもしろさ!だからこそ、その後で響く、バーバーのコンチェルト(track.4-6)の、しっとりと瑞々しく流麗な響きがより際立ち、印象的で...
ハチャトゥリアン、再発見に喜んでいるばかりではない、この2つのコンチェルトのコントラストがおもしろい。それでいて、ともに1940年の作品であり、左と右の際で生み出されていることの興味深さがある。ソヴィエト保守の豪快さと、アメリカ保守の洗練... 20世紀の奔流からすれば、どちらもその周辺に位置する作曲家なわけだが、両極にあってそれぞれに保守傾向の強い作曲家を並べれば、また違った20世紀の音楽像を目の当たりにするよう。何より、こういった視点、これまでにあっただろうか?アルメニア人として、アメリカに移住して... というところからの、ハチャトゥリアンとバーバーでは、少し安直にも感じたが。もうひとつ踏み込んで、ハチャトゥリアンとバーバーを見つめれば、ソヴィエトとアメリカを並べた大胆さ、斬新さを見出すことに。"two souls"は、けして思い付きなどではない。シモニアンの鋭い視点、強いこだわりがあっての、特別なデビュー・アルバムなのだろう。
そのシモニアンを支えるのが、ヤルヴィ家の次男、クリスチャンの指揮、ロンドン響の演奏。で、これがシモニアンにまったく負けていない!ロンドン響ならではの精緻さ、そしてダイナミズムを巧みに引き出し、シモニアンの思い切りの良さに見事に呼応したサウンドを創り出すクリスチャン。これまでも、十分に魅力的であり、またこだわりのレパートリーでも目の離せない存在だったが、"two souls"での演奏は、さらに一皮剥けた姿を見せていて、エンターテイメント性すら感じさせるクリスチャン+ロンドン響も聴きどころ。一方で、アルバムの最後、バーバーの弦楽のためのアダージョ(track.7)では、ただならない厚みを聴かせ、ジューシー。それでいて、変にくどくなることなく、丁寧に音楽を展開し、より深いものを描き出す。それは、父、兄を凌駕しかねないのかも...
さて、最後に。やっぱり、"Deutsche Grammophon"である。名門レーベルとして、リリースするアルバムは、けして中途半端なものにはしない!という意気込みを感じさせるクウォリティ... 奔流から外れるハチャトゥリアンにバーバーであっても、その深みは並々ならぬものがある。さすが、DG。久々に聴いて、改めてその伝統の重みを知るのか。本物の仕事は、けして侮れない。

TWO SOULS | MIKHAIL SIMONYAN
LONDON SYMPHONY ORCHESTRA | KRISTJAN JÄRVI


ハチャトゥリアン : ヴァイオリン協奏曲 ニ短調 *
バーバー : ヴァイオリン協奏曲 Op.14 *
バーバー : 弦楽のためのアダージョ Op.11

ミハイル・シモニアン(ヴァイオリン) *
クリスチャン・ヤルヴィ/ロンドン交響楽団

Deutsche Grammophon/477 9827




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