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2011年を語る上で、象徴的なアルバムは何だったろうか? [2011]

とうとう、2011年、最後の更新となりました。
そんな、2011年の最後はどうしよう?と、ふと考える。そんなに考えるつもりはなかったのだけれど、いろいろあり過ぎた2011年を振り返ると、やっぱり考えてしまう。2011年を語る上で、象徴的なアルバムは何だったろうか?そこで思い付くのが、9.11から10年目にして、9.11と向き合ったスティーブ・ライヒの"WTC 9/11"。今、世界は、どうしようもなくグラついてるわけだが、その契機となったのは9.11だったのでは?という思いがある。ワールド・トレード・センターの崩壊とともに、世界のタガは外されて、戦争、政治、経済、やりたい放題に突っ走って来た顛末として、今があるのでは、と... また、3.11を目の当たりにしての9.11は、どこかでオーバーラップされるようでもあり、"WTC 9/11"という作品に、より強く2011年を象徴するものを感じ...
クロノス・クァルテットによるライヒの最新作、"WTC 9/11"(NONESUCH/7559-79645-7)と、その起点となったライヒの代表作、「ディファレント・トレインズ」を取り上げる、ディオティマ四重奏団によるアメリカの弦楽四重奏作品集(naïve/V 5272)を聴く。


ライヒの、9.11。

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9.11の実際の無線のやり取りがサンプリングされ、否が応でも緊張感の高まる"WTC 9/11"。だが、それらは、「ディファレント・トレインズ」と同じ手法が取られ、作品そのものには、真新しさは感じない。緊急事態を知らせる信号音で始まるあたり、サイレンが鳴り響く中、収容所へと送られるユダヤの人々を乗せた列車が疾走してゆく、第2次世界大戦下を描いた「ディファレント・トレインズ」の2部によく似てさえいる。が、そこにこそ、"WTC 9/11"の意義を見出すような気がする。
ユダヤ系アメリカ人として、常に、イスラエル、アメリカ、イスラム世界という、一筋縄ではいかない"関係"に向き合ってきたライヒだが。あの日、ハドソン川の対岸にあったのがパレスチナ問題であり、第2次世界大戦下、ホロコーストを生き抜いたユダヤ人が辿り着いたのがパレスチナであり、全てはつながる。つなげて考えねばならないはずだ。なれば、「ディファレント・トレインズ」のアンサーとして"WTC 9/11"は存在しているのでは?ふと、そんな思いが過る。そして、「ディファレント・トレインズ」のアンサーとしての"WTC 9/11"は、あまりに救いが無い... それが、ユダヤの人々と、パレスチナとマンハッタンと、癒し難い傷を抱える現実なのだろう。
3部(track.3)で、ユダヤの弔いの歌が引用され、ミニマルな音楽に、メローな感覚が立ち現れ、緊張が解けるような瞬間が訪れる。このメローさが、ストイックなミニマリズムを指向するライヒにしては珍しく、新鮮であり、何より印象深いのだが、すぐに、緊急事態を知らせる信号音が再び聞えて、斬り裂くような弦の響きによって作品は断ち切られる。10年を経てもまだ、突き刺さるように迫ってくる9.11。"WTC 9/11"は、ドキュメンタリーのようで、音楽を聴く... という感覚からは一線を画すのか、何とも言えない心地にさせられる。
一転して、パーカッションによる小気味よいミニマル・ミュージックを繰り広げる"Mallet Quartet"(track.4-6)と、"Dance Patterns"(track.7)。"WTC 9/11"の少し前の作曲となる2作品なのだが、明るく、色彩的で、キャッチーなサウンドは、ポップ!それは、ライヒのかつての代表作が持つストイックなイメージからすると、ちょっと意外なくらい?現代っ子なあたりを屈託なく響かせてしまうポスト・ミニマル世代(フィトキンや、コネソンあたり... )の作品を聴くような感覚すらあって。いや、ライヒも、21世紀に入って、砕けてきたのか?そんなサウンドに触れていると、2012年に向けて、いよいよ煮詰まってきた世界の、日本のどうしようもないしがらみの、諸々を、一瞬ではあっても忘れさせてくれるよう。

STEVE REICH WTC 9/11 | MALLET QUARTET | DANCE PATTERNS

ライヒ : WTC 9/11

クロノス・クァルテット
デヴィッド・ハリントン(ヴァイオリン)
ジョン・シェルバ(ヴァイオリン)
ハンク・ダット(ヴィオラ)
ジェフェリー・ツァイクラー(チェロ)

ライヒ : Mallet Quartet

ソー・パーカッション
エリック・ビーチ(ヴィブラフォン)
ジェイソン・トルーティング(ヴィブラフォン)
ジョシュ・キレン(マリンバ)
アダム・スリウィンスキー(マリンバ)

ライヒ : Dance Patterns

ジェイムズ・プレイス(ヴィブラフォン)、タッド・ウィーラー(ヴィブラフォン)
フランク・カサーラ(シロフォン)、ガリー・ヴィスタッド(シロフォン)
エドムンド・ニーマン(ピアノ)、ヌリット・ティルス(ピアノ)

NONESUCH/7559-79645-7




ディオティマ四重奏団の、アメリカ。

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フランスを拠点とする弦楽四重奏団、ディオティマ四重奏団... なかなか他のクァルテットでは聴けないこだわりと、近現代に滅法強い鋭さが、「弦楽四重奏」という古典的な編成にまとわりつく古臭さのようなもの払拭してくれて、胸すくようなところも... そして、彼らのアメリカの弦楽四重奏曲集を聴けば、よりそうしたイメージは強くなるのか... で、その選曲が、おもしろい!というより、アメリカの弦楽四重奏という括り自体が、あまり聴いたことが無く、実に興味深いものであって... ライヒの「ディファレント・トレインズ」に始まり、バーバーの1番の弦楽四重奏曲、最後は、クラムの『ブラック・エンジェルズ』とくれば、刺激的!
その1曲目、「ディファレント・トレインズ」(track.1-3)... この作品の肝とも言えるテープを、ライヒの監修の下、新調されての録音となったとのこと。それにより、作品としての解像度は、俄然、上がって、思いもよらず鮮烈な印象を与えてくれることに。また、そんな新たなテープに導かれてのディオティマ四重奏団の演奏が目を見張る!初演者、クロノス・クァルテットの演奏もすばらしかった... が、ライヒ作品というのは、一定のレベルに達しさえすれば、その仕上がりに大きな差は生まれない... それが、ミニマル・ミュージックの宿命... と、どこかで思ってきた。が、ディオティマ四重奏団の演奏は、「ディファレント・トレインズ」のイメージを更新してしまう。そういうことが可能なのかと、驚かせてくれる。思いの外、鉄道による旅が活き活きと描き上げられ、テープが新調されただけではない、作品そのもののイマジネーションの広がりに、魅了されてしまう。
続く、バーバーの1番の弦楽四重奏曲は、2楽章(track.5)が、バーバーの代名詞たる弦楽のためのアダージョの原曲とのことで、また驚かされる!知らなかった... そして、難曲、クラムの『ブラック・エンジェルズ』(track.7-19)。まさにお化けが出る作品とでも言おうか、特殊奏法に、エレクトリックに、パーカッションに、声に、弦楽四重奏団の範疇を越えて、何でもありな奇妙奇天烈を要求してくるわけだが。その癖のあるスタイル、強烈な存在感をものともせず、きっちり音楽を紡ぎ出すディオティマ四重奏団の技量に驚かされた。
彼らならではの高機能性を如何なく発揮して生み出される、新たなイメージの喚起。さらに、アメリカの弦楽四重奏曲集だからこそ、ディオティマ四重奏団のヨーロピアンさが引き立つようでもあって。そのヨーロピアンさがまた、アメリカの弦楽四重奏曲に重厚感を与え、よりしっかりとした聴き応えをもたらすのか、絶妙な相乗効果が興味深い。
それにしても、ミニマリズムに、ロマンティシズムに、クラミズム?この振れ幅の大きさは尋常でなく、それを1枚のアルバムにやってのけるのだから感服するしかない。そして、マキシマムに楽しませてくれる!

REICH BARBER CRUMB Quatuor Diotima

ライヒ : ディファレント・トレインズ
バーバー : 弦楽四重奏曲 第1番 ロ短調 Op.11
クラム : ブラック・エンジェルズ

ディオティマ四重奏団
ユン・ペン・ツァオ(ヴァイオリン)
ナーマン・スルチン(ヴァイオリン)
フランク・シュヴァリエ(ヴィオラ)
ピエール・モルレ(チェロ)

naïve/V 5272

さて、何はともあれ、今年も、のたくってクラシックを追ってきた当blogにお付き合いくださいまして、本当にありがとうございました。そして、来年もまた、どうぞ、よろしくお願いします。
それでは、よいお年を!




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