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オペラ・バレ、トラジェディ・リリク、 [2011]

12月に入り、今年一年をどう締め括ろうか、思案中。
で、あれを聴きそびれている... これを書きそびれている... と、頭がグルグルしてくる。1年を区切ることで、その1年に詰め込まなくてはならない衝動がどこからともなく沸いてきて、毎年、年末が見え始めると、当blogは慌ただしくなる。と言っても、慌ただしく更新するのではないのだけれど、何をどう更新しようかと、ここに表示されるテキストの裏で、独り、慌ただしくなっていたり。で、今年もやっぱりそんな状態に... ま、近くにあるものから片づけていくしかないのだけれど... ということで、今回はフランス・オペラを片づける。
エルヴェ・ニケ率いるル・コンセール・スピリチュエルらによる、カンプラのオペラ・バレ『ヴェニスの謝肉祭』(GLOSSA/GCD 921622)と、ヴェロニク・ジャンス(ソプラノ)とクリストフ・ルセ率いるレ・タラン・リリクによるフランス・オペラ史を辿る、"TRAGÉDIENNES 3"(Virgin CLASSICS/070927 2)を聴く。


リュリの後、ラモーの前で、カンプラのオペラ・バレ『ヴェニスの謝肉祭』。

GCD921622.jpg11op.gif
夏にカンプラの代表作、レクイエムを聴いて、そして、今、カンプラのオペラ・バレ『ヴェニスの謝肉祭』を聴くわけだけれど... この、リュリ(1632-87)とラモー(1683-1764)をつなぐ、もうひとりのフランス・バロックの巨匠を、1年に2タイトルも聴くことになるとは思いもよらなかった。そこには、昨年のカンプラ(1660-1744)、生誕350年のメモリアルがあって、そんなメモリアルの成果が、今年、ディスクとなってリリース... まさに、メモリアルなればこそのカンプラ・ルネサンス!そうして、リュリのストイックなトラジェディ・リリク(抒情悲劇)と、ラモーのロココの気分に彩られたオペラ・バレエの間の、抜け落ちていたピースがやっと見つかったようで、フランス・バロックの流れが掴めた思いも。何より、カンプラそのものが魅力的!
リュリの荘重なドラマとは一線を画す軽やかさで、歌って、踊っての、楽しい舞台を繰り広げるオペラ・バレ。それは、ラモーの十八番となっているわけだが、このスタイルを切り拓いたのがカンプラ。リュリの時代が去ったことを陽気に告げるかのような『ヴェニスの謝肉祭』(1699)は、華やかで楽しい音楽に充ち溢れている。もちろん、バロックの時代の音楽であって、リュリの音楽から大きな飛躍があるわけではないのだけれど、その軽やかさに、次の時代のロココの気分をすでに漂わせていて... リュリ以来のフランス・バロックの端正さに、ロココのポップ感が乗っかり、清々しい華やぎがとても心地いい!それと、コーラスの活躍!バロック・オペラにおいてコーラスなどは、申し訳程度なものが多いわけだが、やはり、フランスのバロック・オペラは違う... ヴェルサイユの宮廷の威光なのか、贅沢にコーラスが盛り込まれて、その規模からオペラを盛り上げる!ふと、カンプラと同い年のアレッサンドロ・スカルラッティ(1660-1725)のオペラなどを思い起こすと、余計にそんなことを思ってしまう。そして、コーラスばかりでない、フランスのもうひとつの伝統たるバレ(エ)... 普段に盛り込まれたダンス用の管弦楽曲の充実ぶりも魅力で。ま、オペラ・バレのレヴュー・ショウ的な性格から、ドラマティックな展開はあまり望めないのだけれど、だからこそ、かえって音楽としての充実感は味わえるのか?そのあたり、とてもおもしろく感じる。
そして、ニケ+ル・コンセール・スピリチュエルの演奏がすばらしく。めくるめく楽しい音楽を、ナチュラルに、かつ活き活きと鳴らして... フランス・バロックとひと括りにされるわけだが、リュリ後、ラモー前という時代の微妙な変遷の一端を、丁寧に響かせ、カンプラの存在をさり気なく際立たせる。そうした演奏に乗って、歌手も、コーラスもまたすばらしく、まさにカンプラ・ルネサンスに相応しい貴重なリリースとなった。

Le Concert Spirituel ~ Hervé Niquet Le Carnaval de Venise CAMPRA

カンプラ : オペラ・バレ 『ヴェニスの謝肉祭』

イザベル : サロメ・アレール(ドゥシュ)
レオノール : マリーナ・デ・リソ(バス・ドゥシュ)
ロドルフ : アンドリュー・フォスター・ウィリアムズ(バス・ターユ)
レアンドル : アラン・ブエ(バス・ターユ)
オルフェオ、他... : マティアス・ヴィダル(オート・コントル)
エウリディーチェ : サラ・ティナン(ドゥシュ)
ミネルヴ、他... : ブランディーヌ・スタスキェヴィチ(バス・ドゥシュ)
プルトーネ、他... : ルイージ・デ・ドナート(バス)

レ・シャントレ・ドゥ・サントル・ドゥ・ムジーク・バロック・ドゥ・ヴェルサイユ(コーラス)
エルヴェ・ニケ/ル・コンセール・スピリチュエル

GLOSSA/GCD 921622




グルックから、マスネへ... 受け継がれるトラジェディ・リリクの精神。

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ヴェロニク・ジャンス、クリストフ・ルセ、レ・タラン・リリクという、チーム・フランスで挑む、意欲的なコラヴォレーション... フランス・オペラの真髄とも言える、リュリ以来のトラジェディ・リリクの変遷を辿る、ジャンスが歌うアリア集のシリーズ、その3作目、"TRAGÉDIENNES 3"。いや、"1"(Virgin CLASSICS/346762 2)、"2"(Virgin CLASSICS/216574 2)と来れば、"3"も期待しないではなかったけれど、すでにトラジェディ・リリクの全盛期、18世紀は網羅しているわけで、どこまでその後を追うのか?追えるのか?ジャンスはともかく、ルセ+レ・タラン・リリクは、どこまで時代を下れるのだろう?
バロックに軸足を置くピリオド・オーケストラは、ロマン派ですらかなりチャレンジングだとは思うのだが、前作、"2"では、ベルリオーズ(1803-69)を取り上げ、それを見事にやり切って、驚かせてくれたルセ+レ・タラン・リリク。今作、"3"では、ヴェルディ(1803-1901)に、マスネ(1842-1912)までを取り上げてしまうから、さらに驚かされる。そして、本当に驚かされるのは、このシリーズではお約束となっているグルックの"疾風怒濤"から、グランド・オペラの時代を経て、ロマン派の後半まで、どう「ピリオド」を打とうか困るような幅の広さを、器用に渡り切ってしまうこと... そして、ピリオドだからこその実直さで、なかなかピリオドでは聴き得ないレパートリーを、当たり前のように繰り広げてしまうところ。で、そのレパートリーが凄い!メユール、ゴセックと、フランス革命を彩った作曲家に、メルメ?初めて聞く存在... さらには、かのクロイツェル・ソナタを献呈されたクレゼール(クロイツェル)と、このシリーズでなければ聴けないだろう、マニアックなラインナップ... だからこそフランス・オペラ史の連綿たる流れを捉えることができ、興味深く... 今、現在、上演される定番のフランス・オペラの背景にあった、その当時のリアルなオペラ・シーンを垣間見るようで新鮮!また、ジャンスが、実に魅力的に歌い上げてくれて...
ますますTRAGÉDIENNES(悲劇女優)ぶりを発揮するジャンス。この人ならではのクラッシーな雰囲気はそのままに、時代を下り、より濃い音楽に踏み込むことで、より感情が解き放たれ。そこに、いつものジャンスとは一味違う艶やかさが滲み。そんなジャンスの姿がまた新鮮。しかし、ありがちなオペラティックさとは一線を画す、ジャンスだからこその表現であって、だからこそ、よりトラジェディ・リリクのドラマティックさが際立つ... アリア集とはいえ、ワンシーンを丁寧に描き込み、ひとつのアリアから濃縮されたドラマを引き出してしまう見事さ。すると、アルバム全体が息衝き、グルックとマスネ、100年の開きがありながら、距離感をあまり感じなくなるからおもしろい。そこに、ドラジェディ・リリクの受け継がれる確かな精神があるのだろう。
すばらしい歌、演奏、このシリーズだからこそ知り得るフランス・オペラ史の繊細な表情... "1"、"2"と、すばらしかったからこその"3"だろうが、"3"こそ最高傑作かも。

LES HÉROÏNES ROMANTIQUES – TRAGÉDIENNES 3
Véronique Gens / Christophe Rousset / Les Talens Lyriques


メユール : オペラ 『アリオダン』 から
   メロドラマ "Quelle fureur barbare!"
   レシタティフ と エール "Mais, que dis-je?... Ô des amants le plus fidèle"
クレゼール : オペラ 『アステュアナクス』 から レシタティフ と エール "Ah, ces perfides grecs... Dieux, à qui recourir"
サリエリ : オペラ 『ダナオスの娘たち』 序曲
グルック : オペラ 『トーリードのイフィジェニ』 から
   レシタティフ と エール "Non, cet affreux devoir... Je t'implore et je tremble"
ゴセック : オペラ 『テゼー』 から レシタティフ と エール "Ah! faut-il me venger... Ma rivale triomphe"
マイアベーア : オペラ 『預言者』 から エール "Ah, mon fils"
メルメ : オペラ 『ロンスヴォーのロラン』 から レシタティフ と エール "Prête à te fuir... Le soir pensive"
ベルリオーズ : オペラ 『トロイアの人々』 から 大工たちの入場、水兵たちの入場、農夫たちの入場
ベルリオーズ : オペラ 『トロイアの人々』 から モノローグ と エール "Ah! Ah! Je vais mourir... Adieu, fière cité"
サン・サーンス : オペラ 『ヘンリー8世』 から レシタティフ と エール "Ô cruel souvenir!... Je ne te reverrai jamais"
マスネ : オペラ 『エロディアード』 から レシタティフ と エール "C'est Jean!... Ne me refuse pas"
ヴェルディ : オペラ 『ドン・カルロス』 から エール "Toi qui sus le néant des grandeurs de ce monde"

ヴェロニク・ジャンス(ソプラノ)
クリストフ・ルセ/レ・タラン・リリク

Virgin CLASSICS/070927 2




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