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交響曲と古典派。 [2007]

交響曲はどこからやって来たのか?
って、唐突なのだけれど、結構、気になるテーマ。「交響曲の父」は、ハイドン... ということになっているけれど、18世紀を丁寧に紐解けば、ハイドンは交響曲の育ての親であって、生みの親とはちょっと違う。となれば、交響曲の本当の両親はどこに?そうしたあたりに迫ることができそうなアルバムを、いつも気にしながら追っている。が、少ない。しかし、少ないながらも、常に追っていると、蓄積されてくるものもあって... 改めて振り返れば、興味深いアルバムがいくつか... そうした中から、2007年にリリースされた3つのアルバム...
交響曲の誕生にかなり迫りつつその後も追う、ファビオ・ビオンディ率いる、エウローパ・ガランテの"IMPROVISATA"(Virgin CLASSICS/3 63430 2)。古典派の黎明の時代、交響曲の成長期を窺う、アアポ・ハッキネン率いる、ヘルシンキ・バロック・オーケストラの、リヒターの6つの交響曲(NAXOS/8.557818)。そして、古典派の盛期を迎えて... フライブルク・バロック管弦楽団による「バッハの息子たち」シリーズ、第4弾、ヨハン・クリスティアン・バッハ、"Concerti"(Carus/83.307)。バロックから古典派へ、そのうつろいの中、確立されてゆく「交響曲」を活写した3タイトルを聴き直す。


イタリア、古典派の、交響曲の系譜... "IMPROVISATA"。

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ヴィヴァルディのシンフォニア(交響曲)?と、認識を新たにした1枚...
オペラの序曲としてのシンフォニアではなく、独立したシンフォニアもヴィヴァルディは書いていたわけだが。そんな1曲、シンフォニア「インプロヴィザータ」で始まるビオンディ+エウローパ・ガランテによる"IMPROVISATA"。で、ヴィヴァルディのシンフォニアが、まさに交響曲の誕生の頃か。が、産声をあげるまでには至ってないような... まだまだバロック全盛の時代、オペラの序曲を単独で取り上げました。というような、たどたどしさ(2楽章構成で、その2楽章は、これから本編が始まります... といった、どこか尻切れトンボな印象も... )を感じるのだけれど、実に興味深い1曲。何より、ヴィヴァルディのスペシャリスト、ビオンディ+エウローパ・ガランテならではのスパークリングな演奏があって。「交響曲」としてはまだまだ煮え切らなさを見せても、魅力的なヴィヴァルディ・サウンドが爆ぜる!
その後は、サンマルティーニ(ca.1698-1775)、モンツァ(1735-1801)、ボッケリーニ(1743-1805)、デマキ(1730-91)と続くのだけれど、これがまったく興味深い... というより、他ではなかなか聴くことのできない、イタリアの作曲家たちによる古典派の歩みを辿って、その再発見が刺激的。かつ魅力的!
まず、サンマルティーニ... 交響曲の誕生において大きな役割を果たしたひとりだが、そのシンフォニア(track.3-5)は、バロック風を残しながらも、「交響曲」としての形、手応えはすでに聴き取れる仕上がり。続くモンツァのシンフォニア「海の嵐」(track.6-8)では、しっかりと古典派としてのサウンドを楽しませてくれて。バロックを脱したその音楽のヴィヴィットさが、とても印象的。そして、ボッケリーニの定番、「悪魔の棲む家」(track.9-13)を挿み、デマキのシンフォニア(track.14-16)となるのだが... これがまたヴィヴィットで、キャッチーで、アルプスの北の交響曲とはまた一味違う人懐っこさが、イタリア流なのか。ハイドン、モーツァルトの活躍が目立つ一方で、イタリアにもこういう魅力的な交響曲があったのかと、古典派の時代の見方が変わりそう。
また、ビオンディ+エウローパ・ガランテの、イタリアの古典派への並々ならぬ愛情を感じて... 彼らのいつもながらのキレと、ヴィヴィットな演奏!腕利きたちの見事なパフォーマンスが、ひとつひとつの楽器の存在を際立たせ、よりカラフルに「イタリア」を繰り広げる。特に印象的なのが、ボッケリーニ。しっかりと彩色が施されて、安易なおどろおどろしさに走らない、「悪魔の棲む家」(track.9-13)は、ボッケリーニの定番の新たな一面を見るよう... 改めて聴き直す"IMPROVISATA"は、交響曲の本当の親捜しと、魅力的な演奏、この2つが相俟って、刺激的。いや、こんなにも魅力的だった?なんて、今頃、エキサイトしてしまう。

IMPROVISATA: SINFONIE CON TITOLI
EUROPA GALANTE . FABIO BIONDI


ヴィヴァルディ : シンフォニア ハ長調 「インプロヴィザータ」 RV.802
ジョヴァンニ・バッティスタ・サンマルティーニ : 序曲(シンフォニア) ト短調
モンツァ : シンフォニア ニ長調 「海の嵐」 〔ビオンディ編〕
ボッケリーニ : 交響曲 ニ短調 Op.12-4 G.506 「悪魔の家」
デマキ : シンフォニア ヘ長調 「ローマの鐘」

ファビオ・ビオンディ/エウローパ・ガランテ

Virgin CLASSICS/3 63430 2




バロックと古典派の狭間の淡い輝き... リヒターの6つの交響曲。

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1744年、パリで出版されたという、リヒターの6つの交響曲...
バッハは未だ健在で、ロ短調ミサなどをまとめていた頃。ヘンデルはオラトリオで返り咲き、再び巨匠として名声を博していた頃。ハイドンはシュテファン大聖堂の聖歌隊に参加する12歳の少年で、モーツァルトが生まれるのはその12年後... ヨーロッパの音楽シーンは、まだまだバロックの色を濃く残す中、フランツ・クサヴァー・リヒター(1709-89)は、南ドイツ、ケンプテンで副楽長を務めながら、18世紀の音楽の都、パリで、最新のスタイルである「交響曲」の楽譜を出版(第1セット、第2セットからなる全12曲で、ここで聴くのは第1セット... )ということに、驚いてしまう。マンハイム楽派の巨匠(マンハイムに移るのは1747年... )として名声を博してからならばともかく、アルプスの麓のドイツの片田舎から"パリ"だというから、凄い... いや、マンハイムより"パリ"が先にリヒターを見出したということか?そもそも「交響曲」なんてものを書く作曲家が、他にいなかったのか?そのあたり、とても興味深く感じるのだけれど。しかし、その音楽を聴けば、"パリ"というのも納得させられることに。
1曲目、1番の交響曲(track.1-3)の、美しく流麗な出だしからただならず魅了される。改めて聴き直して、こんなにも綺麗だった?なんても思ってしまうほどで... それはギャラントな時代の響きというのか、バロックの劇的なあたりは薄れ、シンプルでやさしげな音楽がとにかく新鮮!まさにバロックから古典派へ... 前古典派の萌芽そのものといった気分が、得も言えず瑞々しく。やがてマンハイム楽派へと繋がる古典派の最初の流れの、清らかに澄んだサウンドは、そのままアルプスから流れ出す美しい清流のよう。
そんなリヒターの6つの交響曲を演奏する、ハッキネン+ヘルシンキ・バロック管の演奏がまたクリアで瑞々しく、北欧ならではというのか... ノン・ヴィブラートではあるけれど、それをやたらストイックに追及して、ギスギスするのではない、わずかに幅を持たせた響きが心地良く、より麗しいハーモニーをもたらしている。一方で、透明感はますます増し、透明感の中に麗しさが広がる感覚は、他のピリオド・オーケストラにはないようで印象的... またそのサウンドがリヒターの交響曲に見事にはまって。このアルバムの続編、第2セット(NAXOS/8.570597)でも感じた、若きリヒターの素直な美しさをそのままに、バロックから古典派へとうつろう頃の淡い輝きを、丁寧に、繊細に、21世紀の今へと伝えてくれている。

RICHTER: Six Grandes Symphonies, Set One

リヒター : 交響曲 第1番 変ロ長調 (第63番)
リヒター : 交響曲 第2番 ヘ長調 (40番)
リヒター : 交響曲 第3番 ハ短調 (13番)
リヒター : 交響曲 第4番 ヘ長調 (34番)
リヒター : 交響曲 第5番 ヘ長調 (36番)
リヒター : 交響曲 第6番 変ロ長調 (64番)

アアポ・ハッキネン/ヘルシンキ・バロック・オーケストラ

NAXOS/8.557818




華麗なるロンドンの古典派!ヨハン・クリスティアン・バッハ。

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ヴィヴァルディのシンフォニアに始まって、イタリアの古典派の歩みを辿り、マンハイム楽派以前のリヒターを聴いての、ヨハン・クリスティアン・バッハ(1735-82)... 何だか、別世界へやって来たような感覚になる。って、ちょっと言い過ぎ?かもしれないが、古典派の形がすっかり定まったヨハン・クリスティアンの音楽は、力強い!その揺るぎなさが頼もしいくらい。となれば、大バッハとは隔世の感がある。そして、ハイドンやモーツァルトと遠くない音楽に、安心感を見出してしまったり... いや、交響曲も古典派も、着実に成長を遂げたわけだ。
という、古典派の盛期を彩ったロンドンの巨匠、ヨハン・クリスティアンを取り上げる、フライブルク・バロック管のアルバム、"Concerti"。オペラ『後見人と女学生』序曲に始まり、2挺のヴァイオリンとオーケストラのための協奏交響曲、フルート協奏曲、そして2つの交響曲と、その内容は盛りだくさん。18世紀、ヨーロッパの、インターナショナルな音楽シーンにおいて、父、大バッハ(1685-1750)よりもずっと大成功を遂げていたヨハン・クリスティアンの、華麗な音楽世界をしっかりと堪能できる。それにしても、華麗!多感主義を代表するバッハ家の次男、兄、カール・フィリップ・エマヌエル(1714-88)の下で音楽を学ぶことに息苦しさを感じて、モードの最先端をゆくイタリアへと飛び出し、ナポリ楽派の影響を大いに受けた末っ子、ヨハン・クリスティアンのサウンドというのは、華やかなナポリのオペラの匂いを漂わせて... アカデミックなウィーンの古典派とは一味違う、屈託の無い表情が耳に心地良く。18世紀、ヨーロッパ、最大の音楽マーケット、ロンドンのドンとしての充実した仕事ぶりを聴かせてくれる。
そして、いつもながら、卒なく魅力的に18世紀を響かせるフライブルク・バロック管の演奏... 奇を衒うことのないスマートさ、それでいて活き活きと... そのバランス感覚は絶妙で。指揮者の個性で引っ張るのではない、アンサンブルを感じさせる彼らのサウンドは、ヨハン・クリスティアンの素の魅力をナチュラルに引き出していて、素敵。また、協奏交響曲(track.4-6)での、ファン・デア・ゴルツ、シュライバーのヴィヴィットなヴァイオリン・ソロ、フルート協奏曲(track.10-12)での、カイザーのフラウト・トラヴェルソの伸びやかかつ落ち着いた佇まいがすばらしく。何より、オーケストラのメンバーによるソロだからこそ生まれる、オーケストラとの親密な距離感がいい味を醸していて... チーム・フライブルクならではのヨハン・クリスティアンは、思いの外、魅力的に響く。
それにしても、ヴィヴァルディから半世紀くらいだろうか... リヒターを経て、ヨハン・クリスティアンへ... 改めて聴いてみれば、18世紀、音楽は、恐ろしく成長したのだなと... そんな思いに駆られる3タイトル。聴き終えてみて、感慨深いものがある。が、交響曲の親捜しはまだまだ続きそう...

Johann Christian Bach ・ Concerti
Freiburger Barockorchester


J.C.バッハ : オペラ 『後見人と女学生』 序曲 Warb G.24
J.C.バッハ : 協奏交響曲 イ長調 Warb C.35 *
J.C.バッハ : 交響曲 ト長調 Op.6 No.1 Warb C.7
J.C.バッハ : フルート協奏曲 ニ長調 Warb C.79 *
J.C.バッハ : 交響曲 ヘ長調 Op.8 No.4 Warb C.14

ゴッドフリート・ファン・デア・ゴルツ(ヴァイオリン)、アンナ・カテリーナ・シュライバー(ヴァイオリン) *
カール・カイザー(フラウト・トラヴェルソ) *
ゴッドフリート・ファン・デア・ゴルツ/フライブルク・バロック管弦楽団

Carus/83.307




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