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知られざるスペイン... [2007]

フランスが続いたので、少し気分を変えて、スペインへ...
とはいえ、スペイン情緒で酔わせてくれる、定番のサラサーテや、アルベニス、ファリャ、ロドリーゴではなくて。18世紀、マドリッドの宮廷に仕える一方で、スペイン、伝統の歌芝居、サルスエラでも活躍したホセ・デ・ネブラ(1702-68)。19世紀初頭、彗星の如く出現した、スペインのモーツァルトとも呼ばれるホアン・クリソストモ・アリアーガ(1806-26)を聴く。のだけれど、ふと、思う。モラーレス、ビクトリアといった見事なポリフォニーを編んだスペイン出身のルネサンスの大家たちから、エキゾティックなサウンドで魅了する定番、スペインにおける国民楽派の面々の活躍まで、スペインの音楽はどうなっていたのだろうか?改めて音楽史を振り返ると、「スペイン」はやっぱり盲点なのかも。メイン・ストリームから外れるとはいえ、あまりに知らないことが多いなと、今さらながらに気付き。そんな盲点を、少しばかり意識的に聴き直してみる、ネブラにして、アリアーガ。
ということで、2007年にリリースされた、エドゥアルド・ロペス・バンソ率いる、スペインのピリオド・アンサンブル、アル・アイレ・エスパニョールの演奏で、マリア・バーヨ(ソプラノ)が歌う、ネブラのサルスエラ・アリア集(harmonia mundi FRANCE/HMI 987069)。パウル・ドンブレヒト率いる、ベルギーのピリオド・オーケストラ、イル・フォンダメントによる、アリアーガの管弦楽曲集(FUGA LIBERA/FUG 522)の、2タイトルを聴き直す。もちろん、これだけで、盲点が埋まるわけではないのだけれど。


キャッチーで、ふんわりと... ネブラのサルスエラ・アリア集。

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この人がいたから、知り得た、ネブラという存在...
知られざるスペイン・バロックの伝道者、エドゥアルド・ロペス・バンソ。deutsche harmonia mundiからの録音を、何気なく耳にして、何これ?!となって以来、バンソ+アル・アイレ・エスパニョールによるスペイン・バロックは、常に気になるものに。その後、deutsche harmonia mundiからは離れ、様々なピリオド系のレーベルからスペイン・バロックを紹介し続けているわけだが。harmonia mundi FRANCEからリリースされた、バーヨ(ソプラノ)をフィーチャーしての、ネブラのサルスエラ・アリア集は、この作曲家の雰囲気をさっくりとまとめて、18世紀、スペインの華やぎを、軽やかに楽しませてくれる。
というアルバムを改めて聴くわけだが... ネブラの独特のセンスというのか、18世紀、スペインの音楽の、音楽の中心地域とのズレが生み出す不思議なテイストが、何とも魅力的。バロックだけれど、思いっきりバロックではない... "疾風怒濤"のようなアグレッシヴさがあるかと思えば、ナポリ楽派のような流麗さがあって... そこに、さらりとフラメンコ調も入り。カスタネットがリズミカルに掻き鳴らされる2つのセギーディリャス(track.5, 17)は、サルスエラならではであり、しっかりスペイン情緒も楽しませてくれる。何より、キャッチーで、ふんわりと仕上げられるネブラの音楽は、音楽の中心地域にはないポップ感のようなものが弾ける!
そして、その魅力をたっぷりと聴かせてくれるのが、スペインのベテラン、バーヨ。いつもながらのクリーミーでやわらかな歌声が、ネブラの愛らしいメロディを捉えて、キュート(なんて言うには、ベテラン過ぎることは知っているのだけれど... )。かと思うと、鋭さも見せて、コロラトゥーラが鮮やかに決まれば、圧巻!その自在さに、改めてバーヨの凄さを再確認。声のトーンと、巧さのギャップが、たまらなかったり。そのバーヨを絶妙にサポートして、盛り上げて来るバンソ+アル・アイレ・エスパニョール!
このアルバムのもうひとつの魅力が、ボッケリーニ(ちょうどネブラの後の時代、マドリッドの宮廷に仕え、活躍した... )の交響曲、「悪魔の棲む家」(track.9-13)。そして、アル・アイレ・エスパニョールの見事な演奏!ピリオドならではのキレで、鮮烈なサウンドを紡ぎ出し、この交響曲のデモーニッシュさを余すことなく繰り広げ、バーヨのクリーミーでやわらかな歌声に対し、ゾッとするようなコントラストを描き出す。軽やかなサルスエラ・アリア集に、この鋭いアクセントは、刺激的...

Nebra ・ Arias de Zarzuelas ・ Maria Bayo・Al Ayre Español・Eduardo López Banzo

ネブラ : サルスエラ 『恋は目隠し、盲目にあらず』 から レシタード 'Hados crueles' *
ネブラ : サルスエラ 『恋は目隠し、盲目にあらず』 から アリア 'El bajel que no recela' *
ネブラ : サルスエラ 『恋は目隠し、盲目にあらず』 から 序曲
ネブラ : サルスエラ 『恋は目隠し、盲目にあらず』 から ミヌエ I & II
ネブラ : サルスエラ 『恋は目隠し、盲目にあらず』 から セギディーリャス 'En amor patorcillos' *
ネブラ : サルスエラ 『トラシアのイフィヘニア』 から レシタード 'Este, ricos incultos' *
ネブラ : サルスエラ 『トラシアのイフィヘニア』 から アリア 'Gozaba el pacho mio' *
ネブラ : サルスエラ 『恋は目隠し、盲目にあらず』 から アリア・デ・グラシオーサ 'De un ojo era falta' *
ボッケリーニ : 交響曲 ニ短調 Op.12-4 G.506 「悪魔の家」
ネブラ : サルスエラ 『恋は目隠し、盲目にあらず』 から レシタード 'Ciegue, clame y suspire' *
ネブラ : サルスエラ 『恋は目隠し、盲目にあらず』 から アリア '¿Quién fió de un mar sereno?' *
ネブラ : サルスエラ 『恋は目隠し、盲目にあらず』 から アリア '¿Quién cielos?' *
ネブラ : サルスエラ "Donde hay violencia no hay culpa" から セギディーリャス 'Los halagos se mezclan' *
ネブラ : オペラ "Amor aumenta el valor" から アリア 'Como el zéfiro' *
ネブラ : サルスエラ 『トラシアのイフィヘニア』 から アリア 'Vacilante pensamiento' *

マリア・バーヨ(ソプラノ) *
エドゥアルド・ロペス・バンソ/アル・アイレ・エスパニョール

harmonia mundi FRANCE/HMI 987069




若さが生み出す瑞々しさで... アリアーガの管弦楽曲集。

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彼らがいたから、興味を持った、アリアーガ...
2006年、アリアーガの生誕200年のメモリアルに、アリアーガの声楽作品集(FUGA LIBERA/FUG 515)をリリースした、ドンブレヒト+イル・フォンダメント。それまで、ちらちらと見掛ける名前ではあったものの、どういう作曲家なのか?まったく無知なところから聴いたその音楽は、驚くほどフレッシュで... 19世紀初頭、ドイツ―オーストリアのイメージが強い、古典派からロマン派へとうつろう頃、スペインにもまた魅力的な音楽を紡ぎ出す作曲家がいたのかと驚く... そして、その人生がわずか20年(1806-26)であったということに、さらに驚かされて... その続編(という位置付けでいいのだよね?)、アリアーガの管弦楽作品集。交響曲をメインに、3つの序曲を取り上げたこのアルバムを、改めて聴くわけだが... やっぱり、アリアーガはフレッシュ!
少し調べてみると、アリアーガは20歳の誕生日を迎える10日前に亡くなっている。となると、彼の作品は全て10代の作品... ま、誕生日で線引きすることに、あまり意味は無いように感じるのだけれど... アリアーガの作品は、10代とは思えない充実感と、10代なればこその若さが生み出す溌剌とした感性が活きて、まさにフレッシュ。それを最も感じるのが、交響曲(track.2-5)。
「スペインのモーツァルト」と呼ばれたとしても、その音楽はすでにポスト・モーツァルト。モーツァルトの没後15年目に誕生したアリアーガ(1806-26)は、メンデルスゾーン(1809-47)らと同世代。となれば、その交響曲にはロマン派的な性格がしっかりと聴き取れる。何より、若い作曲家(アリアーガ、18歳の作品!)と、若い音楽スタイル(まだまだ清らかだった頃のロマン派!)が共鳴し、メロディックで、キャッチーで、老成したクラシックのイメージとは一味違う、瑞々しい音楽を繰り広げる。それは、ドイツ―オーストリアの交響曲にまったく引けを取らず、インターナショナルで、高いクウォリティを示している。かと思えば、オペラ『幸福な奴隷』の序曲(track.6)では、軽やかに、ロッシーニ風の音楽も紡ぎ出す...
19世紀初頭の最新モードにきっちりと合わせて来る、アリアーガ青年の器用さにも驚かされる。となれば、あと10年、この作曲家が生きていたなら、どんな音楽を聴かせてくれていただろう?ハイ・クウォリティでインターナショナルな音楽から、スペイン人としての個性も滲むような作品が生まれていたなら?
そんな、アリアーガ作品を紹介するドンブレヒト+イル・フォンダメント。声楽作品集と合わせて、まったく貴重な2タイトル(比較的、交響曲は録音されているが... )をリリースしてくれた。そして、その見事な演奏!バッハのオリジナル復元版、管弦楽組曲(FUGA LIBERA/FUG 580)は、本当にすばらしかったが、19世紀のレパートリーでも堂々としたサウンドで魅了してくる。いや、彼らも器用... 18世紀のレパートリーで聴かせる、彼らならではの確実さ、快活さをそのままに、きっちりと19世紀仕様にギア・チェンジして、たっぷりと重厚感も響かせる。となれば、ロマン派の中心的なレパートリーを取り上げたならば?シューベルト、メンデルスゾーン、シューマン... いろいろ聴いてみたくなってしまう。

Arriaga Musica para Orquesta - Œuvres pour orchestre

アリアーガ : 序曲 Op.20
アリアーガ : 交響曲 〔大オーケストラによる〕
アリアーガ : オペラ 『幸福な奴隷』 序曲
アリアーガ : 序曲 Op.1

パウル・ドンブレヒト/イル・フォンダメント

FUGA LIBERA/FUG 522




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