SSブログ

現代音楽、今昔物語。 [2007]

下手なことは言えないけれど... 近頃、現代音楽は、ちょっと落ち着き出していない?
落ち着くことで、聴き易くなるようであり、落ち着いてしまって、物足りなくも感じるようであり... 良くも悪くも、実験の頃はすでに過ぎ、現代音楽は、「現代音楽」として、形が定まってしまったのか?難解!と、嫌煙していた「前衛」の頃の作品を、今、改めて振り返ってみると、そのラディカルな姿勢、新たな形を模索した頃の元気の良さ、危なっかしさ、みたいなものが、妙にまぶしく感じたり(しているのは、自分だけかもしれないけれど... )。ということで、20世紀後半、現代音楽を、それぞれに作り上げて来た巨匠たちの作品を聴いてみようかなと...
まずは、トロンボーンの第一人者、クリスティアン・リンドベルイによる、尖がってクールな現代のトロンボーン協奏曲集、"DEDICATED TO CHRISTIAN LINDBERG"(BIS/BIS-SACD-1638)。懐古から生まれるやわらかなサウンドで現代人を癒す、現代音楽界の異才、シルヴェストロフの作品集、"Bagatellen und Serenaden"(ECM NEW SERIES/476 6178)。近現代音楽のスペシャリスト、シュテッファン・シュライエルーマッハーによるミニマル・ミュージックの巨匠、グラスの鍵盤楽器のための作品集、"Dance & Sonata"(MDG/MDG 613 1428-2)。2007年にリリースされた3タイトルを聴き直す。


リンドベルイのスーパー・パフォーマンスが、「難解」を飛び越える!

BISSACD1638.jpg07con.gif
1010.gif
ベリオ(1925-2003)、クセナキス(1922-2001)という、尖がって「前衛」の時代を牽引した巨匠から、風変わりな巨匠として歩みを進めるターネイジ(b.1960)まで、現代音楽の新旧のクセモノたちによるトロンボーンの協奏曲集、"DEDICATED TO CHRISTIAN LINDBERG"。その名の通り、スウェーデンのスーパー・トロンボニスト、クリスティアン・リンドベルイに献呈された3つのトロンボーン協奏曲を集めた1枚... いや、こういう面々に献呈されていることに、リンドベルイの存在を改めて思い知らされるのだけれど... 3曲とも、見事にリンドベルイなればこその難曲に仕上がっていて... 何より、リンドベルイのトロンボーンが凄い!今、聴き直して驚かされるのは、そのスーパー・パフォーマンスが、「難解」なんていう言葉を、軽く飛び越えていること。
ベリオも、クセナキスも、それぞれの「らしさ」で、骨太の"ゲンダイオンガク"を展開する。のだが、それらをリンドベルイがあまりに揺るぎなく音楽にしてしまうと、「難解」とも言い切れない?1曲目、ベリオのソロは、思いの外、ポエティックでスタイリッシュで、クール!続く、クセナキスのトロールク(track.2)は、メシアンのような色彩感で、華やかなサウンド(けど、どこかユーモラス?)を繰り広げる。そして、ベリオにしても、クセナキスにしても、イメージが少し変わる?リンドベルイのスーパー・パフォーマンスが、「難解」なものを洗練させてしまうような、不思議な魅力が"DEDICATED TO CHRISTIAN LINDBERG"の前半を貫く。そして、後半は...
今年、ロンドンのロイヤル・オペラで初演された、オペラ『アンナ・ニコル』(63歳年上の富豪と結婚した元プレイメイトの、死と莫大な遺産を巡る、ワイドショーを賑わしたあの騒動をオペラ化?!)で、度肝を抜かれた、ターネイジによる、"Yet Another Set To"(track.3-5)。ノリは、ほとんどジャズか、フュージョンか... ターネイジならではの、現代音楽ですが、それが何か... というぐらい飄々と、やりたいことをやり切ってしまう音楽の気持ちの良さ!そこに程好いチープ感を漂わせながら、ダイナミックに展開する音楽は、トロンボーンという楽器をこれ以上なく引き立てて、魅了されるばかり。そして、ベリオ、クセナキスとは隔世のセンスを見せて、「現代音楽」を過去のものとし、その次の音楽を響かせている感覚が、刺激的!

Berio/Xenakis/Turnage: Trombone Concertos ・ Lindberg

ベリオ : ソロ 〔トロンボーンと管弦楽のための〕
クセナキス : トロールク 〔トロンボーンと管弦楽のための〕
ターネイジ : Yet Another Set To

クリスティアン・リンドベルイ(トロンボーン)
ペーター・ルンデル/オスロ・フィルハーモニー管弦楽団

BIS/BIS-SACD-1638




現代音楽の彼岸、シルヴェストロフに癒される...

4766178.jpg07cm.gif
1010.gif
あー、なんか、つかれたー、という時... そんな時に聴きたいのが、シルヴェストロフの音楽。
20世紀も4分の3が過ぎて、そろそろ世紀末が見え始めた頃、現代音楽が行き詰まり始める。そうした頃に、まったく違うベクトルで静かに現代の音楽を紡ぎ出したのが、ウクライナの巨匠、ヴァレンティン・シルヴェストロフ(b.1937)。行き詰ったならば引き返せ!というのともちょっと違う、安易にポスト・モダンなんても言って欲しくない、その不思議な懐古趣味は、音楽がずっとたおやかであった時代を、まどろみの中で聴くような、独特の世界観がある。何より、癒し系... クラシックを癒し系だとするのには、大いに抵抗感があるものの、シルヴェストロフに関しては、抗し難く癒し系である。で、癒される。
そんな、シルヴェストロフのエッセンスが詰まった1枚、"Bagatellen und Serenaden"。前半は、シルヴェストロフ自身のピアノで聴く、バガテル(track.1-14)。それは、まさに"バガテル"。何気ない小品の数々が、きらきらと光りながら並んでいるのだけれど。そのひとつひとつの光が、もう、ただただ美しく。どこかで聴いたようなメロディが、耳のあたりにまとわりついて、こそばゆくもあり、それがたまらなく気持ちよくもあり。そんなサウンドに触れていると、その一瞬、自分を取り巻いていた煩わしい諸々を忘れさせてくれるよう... 後半は、ポッペン+ミュンヒェン室内管による"セレナーデ"。やさしいピアノの後で聴く弦楽のサウンドは、衝撃的なくらいに鮮やかで、エレジー(track.15)の、氷のような透明感と鋭さ、静謐さには、ゾクっと来る。のだけれど、続く「静かな音楽」(track.16-18)、「別れのセレナーデ」(track.19, 20)では、弦だからこその温もりが広がり、「使者」(track.21)では、その弦に、やさしいピアノが浮かび、再び、まどろみの中へと落ちてゆく...
あー、シルヴェストロフ。こんなにも淡いサウンドを響かせながら、現代音楽というカテゴリーにおいて、その異質さで存在感を際立たせる。そして、ここまで美しくあっても、現代音楽... いや、現代は、今、この美しさを欲している。はず。ならば、これこそが現代音楽。かも。

VALENTIN SILVESTROV
BAGATELLEN UND SERENADEN


シルヴェストロフ : バガテル I - XIII *
シルヴェストロフ : エレジー 〔弦楽オーケストラのための〕 *
シルヴェストロフ : 静かな音楽 〔弦楽オーケストラのための〕 *
シルヴェストロフ : 別れのセレナーデ 〔弦楽オーケストラのための〕
シルヴェストロフ : 使者 〔弦楽とピアノのための〕 **
シルヴェストロフ : 2つの対話とあとがき 〔弦楽オーケストラとピアノのための〕 **

ヴァレンティン・シルヴェストロフ(ピアノ) *
アレクセイ・リュビモフ(ピアノ) *
クリストフ・ポッペン/ミュンヘン室内管弦楽団 *

ECM NEW SERIES/476 6178




サイケデリック... クラシカル... グラスのあの頃と今。

MDG61314282.jpg
1010.gif
何か、こう、煮詰まってしまった時に、グラスの... それも、バリバリにミニマル・ミュージックを極めていた頃のサウンドを聴くと、元気になれる。そんな1枚。近現代音楽史を丁寧に追う個性派ピアニスト、シュテッファン・シュライエルマッハーが弾く、グラスの鍵盤楽器のための作品集、"Dance & Sonata"。
交響曲だ、協奏曲だ、オペラだと、変にクラシックっぽく、勿体ぶったスタイルで作品を書いたとしても、結局のところ、グラスはミニマル・ミュージックの作曲家だ。だからこそ、シンプルな鍵盤楽器のための作品あたりが、一番、おもしろい。改めて、このアルバムを聴き直すと、ひたすらにそう感じる。その1曲目、1979年の作品、2番のダンス。電子オルガンによるめくるめく繰り返しに触れると、電気が走る思いがする。あまりいろいろ考えることなく、ただただシンプルに、カラフルでポジティヴなパルスが、全身を心地良く打つような... 音楽は聴くもの、という当たり前な感覚を超越したその音楽は、早朝、シャワーを浴びるような感覚かもしれない。音による刺激が身体全体を包み、目が覚める。そして、テンションが上がる!
いや、まったく突き抜けている... グラスなればこその次元に、改めて感動を覚えてしまう。また、電子オルガンによる「一昔前」といった趣きが何気にいい味を出していて。そのサイケデリックさが、何とも言えずクール。電気が発するパワーというのもあるなと... アコースティックが当たり前のクラシックにあれば、余計にそんなことを思ったり...
続くトリロジー・ソナタ(track.2-4)は、グラスの舞台作品からの音楽をピアノ用にアレンジしたもの。で、ピアノのクラシカルな響きが、舞台作品のドラマ性と相俟って、もしかするとオリジナルよりいいかも?しっとりと素敵に響く。ミニマル・ミュージックを極めた後の、現在に至るグラスの良さは、映画音楽などで聴く、瑞々しさのように感じるのだけれど... そのあたりのツボを押さえたトリロジー・ソナタは、圧倒的なダンスの後で、絶妙なコントラストを描き出す。そして、最後は、再び、電子オルガンで、テンションを上げて... 4番のダンス(track.5)。
この、サイケデリックにクラシカルが挟まれた構成が、絶妙!

Glass: Dance & Sonata ・ Schleiermacher

グラス : ダンス 第2番 *
グラス : トリロジー・ソナタ *
グラス : ダンス 第4番 *

シュテッフェン・シュライエルマッハー(電子オルガン */ピアノ *)

MDG/MDG 613 1428-2




nice!(0)  コメント(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ:音楽

nice! 0

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

Facebook コメント

トラックバック 0

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。