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ギヨーム・テル! [2011]

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とにかく、序曲が有名な"ウィリアム・テル"... だけれど、その後は?
と、ずーっと思って参りました。もはや序曲は、クラシックというジャンルを越えて、誰もが知るわけだが、本編たるその後について知ることは、クラシック・ファンであっても、なかなか無かったり。録音も少な目だったり。ロッシーニ最後の大作(その上演時間はワーグナー級!)の、その規模に二の足が踏まれてしまうのか?イタリアならではの軽快なブッファではなく、仰々しくも感じてしまう、フランス流、グランド・オペラというあたりが、ロッシーニっぽくなかったか?ある意味、一筋縄ではいかないオペラなのかも... だからこそ、本編を聴いてみたい!
という欲求を満たしてくれたのが、アントニオ・パッパーノ。彼が率いるサンタ・チェチーリア国立音楽院管弦楽団の演奏、ジェラルド・フィンリー(バリトン)のタイトル・ロールで、オリジナル、フランス語版による、オペラ『ギヨーム・テル』(EMI/0 28826 2)を聴く。

まずは、序曲!あのスイス軍の行進を聴くと元気出てしまう。というのは、単純な人間の証拠か?でもいい... 理屈抜きで、やっぱりテンション上がってしまう!また、パッパーノ+サンタ・チェチーリア管が、チャキチャキの演奏を繰り広げていて、カラっと、かつジューシーに仕上がったそのサウンドを聴いていると、もうそれだけで十分。なんても思えてしまう(本編を聴くことこそが、今回の最大の目的ではあるのだけれど... )。やっぱり、ロッシーニの粋なところ、活きのいいところは、クラシック広しと言えど、並ぶものが無い。また、ライヴ録音ということもあって、ノリもいいのかも... もちろん、ただノリがいいのではない、パッパーノのコントロールがしっかり効いて、イタリアのオーケストラの伊達っぷりが際立ち。そこに、イタリアが生んだベルカントへの巨匠への誇りと自信がそこはかとなく現れていて、序曲からすでに魅了されてしまう。
が、"ウィリアム・テル"で知られるこのオペラは、音楽の都、パリを制覇したロッシーニが、フランス語で書いたグランド・オペラ。タイトルも"ギヨーム・テル"とフランス語読み(イタリア語上演となると"グリエルモ・テル"、シラーの原作は舞台となるスイスのドイツ語圏に倣い"ヴィルヘルム・テル"... )となり。フランスの流儀(多くの幕に、バレエも踊られて、盛りだくさん!)に則ったそのスタイルは、それまでのロッシーニの作品とは一味違う。一味違うが、堂々たるドラマを展開していて、軽妙な人気作、ブッファの数々からすると、その飛躍に驚かされてしまう。初めて体験した『ギョーム・テル』本編に、ロッシーニのイメージは大きく変わる!
お馴染みのロッシーニのオペラというのは、ナポリ楽派、最後の巨匠、パイジェッロからは、そう大きく前進していないように感じる。今となってはパイジェッロの存在がすっかり忘れさられ、なおかつナポリ楽派が18世紀にあって常にひとつ先の時代を行っていた史実が見えていないことが、ロッシーニの存在を際立たせているように感じる。そして、『ギヨーム・テル』(1829)以降、オペラの作曲をやめたロッシーニ。もはや、パイジェッロの、18世紀の延長線上にいては、新しい時代には対応しきれない... ロッシーニという作曲家の限界がそこにあったと思って来た。が、『ギヨーム・テル』本編で聴く音楽は、まさに19世紀のオペラで... ヴェルディに引けを取らない。また、そういうオペラが、ヴェルディ(1813-1901)も、ワーグナー(1813-83)も、16歳だった頃に初演されているのだから、『ギヨーム・テル』でロッシーニは次の時代を切り拓いた?少なくとも、次の時代への準備ができていたように感じる。合唱を多用し、ナンバー・オペラからは距離を置くような構成を見せ、充実したオーケストラ・サウンドに乗せて、雄弁なドラマを展開する。良い意味で、ベルカントをふっ切っているのかもしれない。何より、その魅力的な本編に触れて、なぜ『ギヨーム・テル』で第一線を退いてしまったのかと... この路線であと何作か作曲していたら、ヴェルディの存在は今ほど特別なものではなくなり、もしかすると、ワーグナー的な世界へとワーグナーより先に踏み込んだのでは?とすら感じる。というのも、フィナーレ... その壮大な音楽の端々から聴こえて来る音に、ワーグナーそのものが聴こえて来るような... 一瞬、ワーグナーに似ている!なんて思ってしまったのだが、もちろんロッシーニが先。ワーグナーはここから自身の音楽の種を拾い上げたのでは?いや、そんな思いに至ることが刺激的で。まったく、ロッシーニという作曲家は器用かつ底知れない。
そんなロッシーニを聴かせてくれた、的確にキャスティングされたキャストたち!ギョーム・テルを歌うフィンリー(バリトン)を筆頭に、グランド・オペラの壮大さ、フランス語ならではの流麗さ、ロマンス劇の瑞々しさをきっちりと響かせ、密度の濃いドラマを繰り広げる。そうした中で、印象に残るのは、ギョームの妻、エドヴィージェを歌うルミュー(メッゾ・ソプラノ)。その深い艶やかな歌声は、ロッシーニでも存在感を見せ、ただならず魅了される。それから、威厳を湛えたクラッシーさを聴かせるビストレム(ソプラノ)のハプスブルク家のマティルデ姫。難役で知られる、その恋人、アルノールを軽やかに歌い切ったオズボーン(テノール)。ゴージャスなスターたちが結集したとは言えないかもしれないが、間違いのない充実したキャスティングが生み出すアンサンブルは見事で、よりパッパーノの意思が隅々まで行き渡り、一体感がより魅力的な音楽を生み出すに至っている。そこに、表情豊かなサンタ・チェチーリア国立音楽院合唱団が加わって、要所要所でドラマを熱く盛り上げる!
いや、こんなにも凄い作品だとは思っていなかった... 作品のみならず、作曲家そのものに関しても、だ。馬鹿っ調子いい序曲に始まって、そこからは想像も付かなかったワーグナーのようなフィナーレへと至る『ギヨーム・テル』。本当に驚かせてくれる。

ROSSINI: GUILLAUME TELL
ANTONIO PAPPANO


ロッシーニ : オペラ 『ギヨーム・テル』

ギョーム・テル : ジェラルド・フィンリー(バリトン)
エドヴィージュ : マリー・ニコル・ルミュー(メッゾ・ソプラノ)
ジェミ : エレナ・クサントウダキス(ソプラノ)
マティルデ : マリン・ビストレム(ソプラノ)
アルノール・メルクタール : ジョン・オズボーン(テノール)
メルクタール : フレデリク・カトン(バス)
ヴァルター・フルスト : マシュー・ローズ(バス)
ジェスレル : カルロ・チーニ(バス)
ロドルフ : カルロ・ボーシ(テノール)
リュオディ : チェルソ・アルベーロ(テノール)
ルートルド : ダーヴィト・キンバーグ(バリトン)
狩人 : ダヴィデ・マルヴェスティオ(バス)

アントニオ・パッパーノ/サンタ・チェチーリア国立音楽院管弦楽団、同合唱団

EMI/0 28826 2




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小笠

はじめまして(前に勝手にTBさせてもらった事がありますが)。ロッシーニやバロックオペラが好きな小笠という者です。
「おなじみのロッシーニのオペラ」といえば、「セビリャの理髪師」や「チェネレントラ」「タンクレーディ」あたりでしょうが、確かにその辺りの1810年代半ばの作品と「ギョーム・テル」ではその音楽性の違いにあまりに戸惑いを感じる人は多いかもしれませんね。

ロッシーニの作品も「イタリアオペラ」「ベルカント」の色眼鏡を外して見ると随分従来のイメージとは違って見えるものです。この「ギョーム・テル」も原語上演でちゃんと上演されればまるでベルリオーズの「トロイアの人々」のような濃厚なロマンとゴージャスさを先取りした革新的傑作と分かるはずです。

それにしてもこんな傑作が技術的・経済的な上演の難しさのせいで日本では全然知られてないのは悲しい限りですね。
オペラ引退後のピアノ曲の数々もそうですが、「セビリャの理髪師」の一面的イメージで知られていない曲が多いのは残念です。
by 小笠 (2011-08-21 23:11) 

genepro6109

小笠さん、はじめまして、

いや、ホント、傑作でした。『ギヨーム・テル』!
ひとつ前の『オリー伯爵』からしても、かなり飛躍があるように感じ、驚かされました。
しかし、改めてロッシーニの年譜なんかを見つめると、日常的に聴いているレパートリーというのが、1810年代の作品ばかりなのだなと思い知らされるようで... (小笠さんにコメントをいただくまで、まったくそういう視点を持ち合わせておりませんでした... ちょっと、目から鱗です。)

それにしても、ロッシーニ・ルネサンスなんて言われて久しいわけですが、日本での状況に関しては... 本当に残念です。


そうそう、TBですが、大歓迎です!
(ちなみに、どの記事でした?って、実は、あんまり把握できていなくて... スミマセン... )
by genepro6109 (2011-08-22 18:36) 

小笠

小笠です。以前ヴェロニク・ジャンスの「tragediennes2」の記事にTBさせてもらいました。一応クラシック音楽を扱っているとはいえほとんど更新してない糞ブログですが、どうぞよろしく。

このブログは「はた迷惑な微罪」の頃から見てますが凄いですね。おそらく業界に近い方なんでしょうが古楽から現代まで守備範囲が広くて本当に感心します。クラシックの新譜情報が本当に役に立って面白いのはここぐらいなので、この調子で更新頑張ってください。
by 小笠 (2011-08-23 18:42) 

genepro6109

"tragediennes 2"でしたか。で、早速、おじゃまさせていただきました。小笠さんのblog。
で、こちらこそ、改めまして、どうぞよろしく。です。

それにしても、『はた迷惑な微罪』以来とは...
つたない当blogにお付き合いいただいて、何だか、申し訳ない気分でもあり(本当に役立ってます?)。一方で、単純なものですから、素直に嬉しい!励みになってしまいます。ありがとうございます。
けど、この調子でいつまで続けられるのやら... ちょっとキツいところもあって... 続けるってのは、やっぱり大変ですね。
ちなみに、業界とは縁の無い人です。縁があれば、また何かおもしろそうなことができるのかもしれないですけど。ま、前向きに。

ということで、今後とも、音のタイル張り舗道。よろしくお願いします。
by genepro6109 (2011-08-24 18:12) 

サンフランシスコ人

サンフランシスコ歌劇場で上演となりましたが、観ることが出来ませんでした...

http://archive.sfopera.com/reports/rptOpera-id412.pdf
by サンフランシスコ人 (2016-01-24 06:54) 

carrelage_phonique

残念でした。

日本では、なかなか見ることのできない演目です。
by carrelage_phonique (2016-01-27 02:05) 

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