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死へのやさしげな眼差し、カンプラのレクイエム。 [2011]

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フランス・バロックを彩る2大レクイエム... ジルのレクイエムと、カンプラのレクイエム。
美しい作品として知られる2つのレクイエムの内、ジルは聴いているのだけれど、カンプラを聴けておらず、ずっと気になっていて... カンプラと言うと、間違いなくマイナーな存在ではあるが、けして録音が無いわけではない、そのレクイエム。最近では、ヤンセンス+ラウダンテス・コンソートによる"a history of the requiem"(オケゲムからデュルフレまで、3つのアルバムで、レクイエムの歴史を追う好企画... )で取り上げられていたり。で、そのアルバム(cypres/CYP 1651)も気になりつつ、手に取るまでは至らず。そこに、フランス・バロックのエキスパート、オリヴィエ・シュネーベリ率いる、ヴェルサイユ・バロック音楽センター付きコーラス、レ・パージュ・エ・レ・シャントルによる、新たなアルバム(K617/K617224)が登場。とうとう、カンプラのレクイエムを聴いてしまった。

アンドレ・カンプラ(1660-1744)。
その生まれた年を見て、あ、そうか、去年、生誕400年のメモリアルだったのか... と、ちょっと、腑に落ちる。まもなく、ニケ+ル・コンセール・スピリチュエルによるカンプラのオペラ・バレ『ヴェニスの謝肉祭』(GLOSSA/GCD 921622)がリリースされるのだけれど、リュリとラモーの狭間に埋もれがちなカンプラのリリースが続くのも、メモリアルの成果なのか... おかげで、フランス・バロックの欠けたピースが埋まって、フランスのバロックの全体像がよりくっきりと見えて来るのか。
フランス・バロックを築き、大きく花開かせたリュリ(1632-87)と、フランス・バロックの爛熟期、次の時代へとうつろう中、音楽にロココを香らせたラモー(1683-1764)をつなぐ存在として、カンプラは位置づけられる。何より、ラモーのロココ趣味を象徴するオペラ・バレを始めたのがカンプラであって。バロック版レヴュー・ショウとも言えるオペラ・バレの性格と、そこから生み出されるユルめなポップ感に、フランスのバロックの個性を見出すのだけれど、その感覚は、また、レクイエムでも...
ジルのレクイエムもそうだったけれど、死への視点が何ともナチュラル!下手な悲愴感に捉われるのではなく、魂の肉体からの解放とでも言うような、よろこ(慶?悦?)びすら感じられて。とは言え、肉体を失い、どこか心許無いような、儚げなあたりも美しく。そんなトーンで始まる入祭唱... 安らぎと、心許無さが織り成す冒頭の美しいハーモニーからして、フランス・バロックの2大レクイエムということに、深く納得させられる。が、すぐに力強く前向きなメロディが現れて、「死」を越えてゆくような展開に、また惹き込まれる。もちろん、悲しみも音楽に乗せられるのだけれど、悲劇としての「死」は描かれない。劇的には「死」は訪れない。そうしたあたりに、フォーレのレクイエムが思い出され。いや、フォーレのあの感覚の源流は、ジルやカンプラにあるのか?で、これがフランスならではのセンスなのだなと、とても興味深いものを感じる。「バロック」というと、どれも同じようなものと捉えられがちだけれど、フランスのバロックと、イタリア、ドイツのバロックは、間違いなく性格を異にする。また、お互いに影響し合い、フランス風、イタリア流というのもあって。だからこそ、違いというものも浮かび上がる。が、そういう部分を丁寧に見つめようとする機会は恵まれていない。そうしたところで触れるカンプラのレクイエムというのは、フランスのバロックに、しっかり焦点を合わせ、くっきりとその性格を捉えるようで、興味深い。
さて、ジル(1668-1705)は、カンプラの年下ではあるのだけれど、レクイエムに関しては、カンプラのものが後に来る。で、その分、カンプラのレクイエムには新しい音楽を見出すようで、おもしろい。リュリやシャルパンティエのようなフランス・バロックならではの荘重さを見せつつ、その全体はロココの淡くやさしげなトーンに包まれていて。その中で、時折、古典派の時代の教会音楽を感じさせるような感覚が過り、新鮮な思いもする。リュリからラモーへ... 過渡期の音楽なればこそかもしれないが、過渡期なればこその古さと新しさが混在する盛りだくさんさが、思い掛けなく魅力的に感じてしまう。
そして、シュネーベリ+レ・パージュ・エ・レ・シャントルの歌声なのだが... シュネーベリならではの、少年合唱(レ・パージェ)の起用が、独特のやわらかさを生み出していて。特に印象的なのが、アニュス・デイ(track.13)の冒頭のソロ。無垢な歌声のほのぼのとした表情の一方で、妙に艶っぽいような声にも聴こえ、浮世離れした気分をカンプラのレクイエムに与えるよう。ほのぼのさと、艶っぽさ... シュネーベリが紡ぐフランス・バロックは、レ・パージェ&レ・シャントレのやわらかな歌声と、オルケストル・デ・ムジーク・アンシエンヌ・エタヴニールの的確な演奏で、その個性を際立たせる。フランス・バロックの他とは違う感覚を意識させられ、その他とは違う美しさに酔う。死へのやさしげな眼差しが、21世紀の厳しい現実を前にすれば、癒しにもなるのかも。
ところで、パージュ(page)って何だろう?と、仏和辞典を開いてみたら、小姓だって!ヴェルサイユ宮じゃ、小姓たちが少年合唱を兼ねていたのか?

André Campra Messe de Requiem

カンプラ : レクイエム
カンプラ : 主がシオンの繁栄を回復されたとき
カンプラ : アニュス・デイ

ロバート・ゲッチェル(オート・コントル)
ジャン・フランソワ・ノヴェッリ(ターユ)
マルク・ラボネット(バス・ターユ)
レ・パージュ・エ・ レ・シャントル(コーラス)
オリヴィエ・シュネーベリ/オルケストル・デ・ムジーク・アンシエンヌ・エタヴニール

K617/K617224




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