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世紀末、戦前、大戦間の、ピアノ、諸相。 [2007]

ピアノの黎明の頃を聴いたので、ピアノの進化後を聴く...
なんて、ちょっと勿体ぶりつつ、実際は、時代を遡った音楽が続いたので、そろそろ下ってみたくなったり。ということで、19世紀末から20世紀前半へ、ピアノにおける「近代」の様々な姿を見つめる3タイトル。
世紀末の頃のピアノで、世紀末の頃の作品を聴く、ヨス・ファン・インマゼールとクレール・シュヴァリエのコンビによる、ラフマニノフの2台のピアノのための組曲(Zig-Zag Territoires/ZZT 061105)。第一次世界大戦直前の頃、音楽の諸相をピアノで綴る、ヤン・ファンデ・ウェーヘの"L'Avant-guerre 1911-1914"(FUGA LIBERA/FUG 701)。2つの大戦の狭間の頃、様々な作曲家によるプレイヤー・ピアノのための作品を集めた、MDGのプレイヤー・ピアノのシリーズ、第4弾、"Original Compositions of the 1920s"(MDG/645 1404-2)。2007年にリリースされた、3つのアルバムを聴き直す。


世紀末、から、未来を窺う、ラフマニノフ...

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ヨス・ファン・インマゼールと、クレール・シュヴァリエ、1897年製と、1905年製のエラールのピアノで聴く、ラフマニノフの2つの2台のピアノのための組曲と、ピアノ連弾のための6つの小品。その選曲、渋くもあり。が、ピリオドのピアノで、となると、刺激的でもある。インマゼールならではのアルバム。それにしても、ラフマニノフをピリオドの範疇で捉えるとは... インマゼールの仕事を追っていれば、いちいち驚いている必要もないのだけれど、このアルバムがリリースされた時は、驚かされた。しかし、衒いには終わらないのがインマゼールで... やるからには、聴き知った作曲家の新たな姿を提示とて、さらに驚かされることに...
まず、1曲目、1番の2台のピアノのための組曲(track.1-4)から、何とも言えずメランコリックな響きがこぼれ出す。エラールのピアノの、渋くも、薫るような響きが、「世紀末」の気分を引き出して、翳を帯びながら夢見心地。特に印象的なのが3楽章、涙(track.3)。ミニマル・ミュージックを先取りするかのような、グラスの映画音楽を聴くような、そんな雰囲気があって。ワーグナーの延長線上にあるロマンティシズムが、ロシアの翳を帯びた気分と結び付き、ミニマル・ミュージックを思わせるさざ波のような反復で、聴く者を酩酊へと誘う。インマゼール+シュヴァリエの、重心を低めに取り、下手に作品を盛り上げようとしない実直さが、よりそうした性格を際立たせ、世紀末、自信喪失以前のラフマニノフの青年期の作品の興味深い姿を浮き上がらせる。そして、20世紀、自信喪失から回復しての作品、2番の2台ピアノのための組曲(track.5-8)では、明るさが印象的で。おもしろいのは、どこかラグタイムのような気分が漂うあたり。2楽章のワルツ(track.6)の間断無く続く打鍵の陽気さは、どこかヨーロッパを離れていて、後に移り住むアメリカの気分を予兆するかのよう。
もちろん、おもいっきりメロドラマちっくに、スウィートなあたりも素敵だが、そうありながらも、どこかで同時代を見据えて、独自に熟成された感覚には、その先にある感覚がどこかで種を結んでもいて。インマゼール+シュヴァリエによるラフマニノフは、ステレオタイプの奥に潜むもうひとりのラフマニノフ像を掬い上げる。

Rachmaninoff SUITES POUR PIANOS ― IMMERSEEL ・ CHEVALLIER

ラフマニノフ : 2台のピアノのための組曲 第1番 「絵画的幻想曲」 Op.5
ラフマニノフ : 2台のピアノのための組曲 第2番 Op.17
ラフマニノフ : ピアノ連弾のための6つの小品 Op.11

ジョス・ファン・インマゼール(ピアノ : 1897年製、エラール)
クレール・シュヴァリエ(ピアノ : 1905年製、エラール)

Zig-Zag Territoires/ZZT 061105




第1次世界大戦前、漂う倦怠の中に、5人5様の音楽...

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ラフマニノフ、シェーンベルク、ラヴェル、プロコフィエフ、フォーレの、1911年から1914年に作曲されたピアノ作品を、1枚のアルバムに納めた、ヤン・ファンデ・ウェーヘの意欲作、"L'Avant-guerre(戦前) 1911-1914"。第1次世界大戦(1914-18)の直前の4年間にスポットを当てる、興味深い1枚。それにしても、それぞれにスタイルを持つ5人が並ぶわけで、1枚のアルバムとして、脈絡無く感じてしまうのだけれど、その脈絡の無さに、第1次世界大戦の直前の、音楽の多様性を思い知らされる。
ヴィヴィットで、何気にアグレッシヴでもあるラフマニノフの『音の絵』 Op.33(track.1-8)の後、シェーンベルクの無調の作品、6つのピアノの小品(track.9-14)を聴けば、そのギャップに驚かされる。本当に同時代の作品なのかと。で、これが"L'Avant-guerre 1911-1914"の醍醐味!そうしたギャップが、それぞれの作品の個性を際立たせるようで、刺激的。シェーンベルクの無調の後では、ラヴェルの高雅で感傷的なワルツ(track.15-22)の、エスプリの効いた気だるさが、何ともデカダンで。続く、プロコフィエフのサルカズム(track.23-27)では、元気よくロシア・アヴァンギャルトが弾けて。最後はしっとりと、フォーレの11番の夜想曲(track.28)。まったく以って5人5様... "L'Avant-guerre 1911-1914"は、伝統と革新が入り乱れて、音楽史が最も滾っていた頃のスナップ。そんなイメージが、聴き直した今もまた新鮮で、おもしろい。
しかし、そのスナップには、5人5様の音楽を包んでいた、時代の気分も捉えているようで。「世紀末」を引きずりつつ、止めることのできない旧体制の崩壊を目前に、妙な倦怠が漂う。このアルバムを初めて聴いた時は、そのあたりに馴染めなかったのだが、それぞれの作品を独特のトーンで結んで見せる、ファンデ・ウェーヘの音楽性に、改めて興味深いものを感じる。5人5様の一筋縄ではいかない作品を弾きこなすことが、すでに容易ならざるもののはずが、そうした難しさはおくびにも出さず、5人5様を無理なくつなげて、ひとつの時代を語ってしまう。やがて崩壊を導く、ひとつ目の世界大戦へと突き進む時代、戦前の、不穏な中の遣る瀬無さが滲み出る"L'Avant-guerre 1911-1914"、その静かな迫力に、改めて聴き入ってしまう。

L'Avant-guerre (1911-1914) ― Jan Vande Weghe

ラフマニノフ : 練習曲集 『音の絵』 Op.33 から 第1、2、5、6、3、7、8、9番
シェーンベルク : 6つのピアノの小品 Op.19
ラヴェル : 高雅で感傷的なワルツ
プロコフィエフ : サルカズム Op.17
フォーレ : 夜想曲 第11番 嬰へ短調 Op.104-1

ヤン・ファンデ・ウェーヘ(ピアノ)

FUGA LIBERA/FUG 701




モダン・エイジの到来!無邪気な作曲家たちのおもちゃとして、プレイヤー・ピアノ...

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ナンカロウのプレイヤー・ピアノのためのスタディをメインに展開している、MDGのプレイヤー・ピアノのシリーズ。だが、ナンカロウばかりでないのが、このシリーズのお楽しみな部分。その第4弾は、"Original Compositions of the 1920s"のタイトル通り、20世紀の2つの世界大戦に挟まれた1920年代、ヴァラエティに富む作曲家たちによるプレイヤー・ピアノのための作品が並ぶ。のだが、もう、弾けていて、恐るべし、1920年代!
第1次世界大戦が終結し、旧体制は崩壊し、新たな時代が始まる!因習からの解放と、マシーン・エイジの到来、「近代」をまったく疑わない無邪気さが、"Original Compositions of the 1920s"には満ち溢れている。ストラヴィンスキーによるピアノラのための練習曲の、あっけらかんとした音楽に始まり、ヒンデミット、カゼッラ、マリピエロなど、モダニストたちのやりたい放題が爽快ですらあって。人間の両の手を離れたピアノによる音楽の、自由な飛翔と、それを支えるメカニカルの、メカニカルならではの硬質でパワフルな性格が、輝かしくすらあり。一方で、そのシャカリキ具合がユーモラスでもあって。名立たる作曲家たちが、プレイヤー・ピアノをおもちゃにして遊んでいるようでもあり。そうした作曲家の中で、大いに気になるのがデュシャン!『泉』で伝説を作った希代の前衛アーティストも、プレイヤー・ピアノで遊んでいたとは!で、そのタイトル「彼女の独身者たちによって裸にされた花嫁さえも、音楽的誤植」(track.22)と、まさにデュシャン... そして、その飄々と調子外れな音楽は、音によるダダ?デュシャンが音楽で自らを表現すると?こうなりますか... と、実に興味深い。
そして、圧巻なのが、アンタイルのバレエ・メカニーク(track.30)。今となっては、お馴染みのキテレツ作品なわけだが、きちっとプレイヤー・ピアノを用いての演奏は珍しいかもしれない(最初の構想では16台のプレイヤー・ピアノが用いられるはずだった... )。で、ここで取り上げられるのは、ユルゲン・ホッカーによる2台のプレイヤー・ピアノによるヴァージョンなのだが。それは、まさにメカニック!音楽ではなく、メカニックの駆動音の集積のような異様な姿が、もの凄い... これぞモダン・エイジ!のあり様に恐れ入りつつ、そうした近代礼賛の果ての、第2次世界大戦による悲劇へと至る猟奇的な姿は、ちょっと薄気味悪さも感じたり。

Player Piano 4: Original Compositions

ストラヴィンスキー : ピアノラのための練習曲
ヒンデミット : トッカータ
ハース : フーガ ハ長調
ハース : インテルメッツォ
トッホ : スタディ IV 「ジョングルール」
トッホ : スタディ I
トッホ : スタディ II
トッホ : スタディ III
ミュンヒ : 6つのポリフォニックな練習曲
ロパトニコフ : スケルツォ
カゼッラ : ピアノラのための3つの小品
マリピエロ : ピアノラのための3つの即興曲
デュシャン : 彼女の独身者たちによって裸にされた花嫁さえも、音楽的誤植
アンタイル : メカニック No.1
アンタイル : バレエ・メカニーク 〔ユルゲン・ホッカー編曲、2台のプレイヤー・ピアノによる〕

アンピコ・プレイヤー・ピアノ・メカニズムによる、ベーゼンドルファー・グランド・ピアノ

MDG/645 1404-2




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