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ピアノ・エ・フォルテ。 [2011]

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ピアノは、あまりに、当たり前のように、クラシックの真ん中に存在していて、ピアノそのものについて考えることは、あまり無いような気がする。特に、その始まりとか... ピリオドの世界をふらふらしていると、時折、ピアノの発明者として、クリストフォリという名前が、視界に入ってくる。けれど、作曲家ではなく、楽器製作者という存在は、やはり、意識が向き難い。というところに、興味深いアルバム...
かつてはharmonia mundiからリリースされていた、バーゼル音楽院の古楽、ピリオド部門、スコラ・カントルム・バジリエンシスによる学術的なシリーズ、GLOSSAに移り、新装なっての"GLOSSA Schola Cantorum Basiliensis"から、ピアノが生まれたフィレンツェの宮廷の音楽(1730年頃、クリストフォリのピアノによるメディチ家の宮廷における音楽)を再現するアルバム、"Piano e forte"(GLOSSA/GCD 922504)を聴く。のだけれど、学術的とはいえ、そこは音楽!エドアルド・トルビアネッリのピアノ(1726年製、クリストフォリのレプリカ)を中心に、ピリオド界で活躍する豪華な面々が、すばらしい演奏を繰り広げ... 何より、ピアノの黎明期の音楽の充実ぶりに驚かされ... そして、どこか物憂げなフィレンツェの宮廷の気分にも魅了される1枚。

なんとなーく、だけれど、近頃、ロドヴィコ・ジュスティーニ(1685-1743)が注目されている?世界で最初にピアノのための作品を書いた作曲家、ジュスティーニ... その世界初のピアノのための作品、12のソナタ(1732)が、チラホラと録音されて、ポツリポツリとリリースが続いている?ような。で、ジュスティーニのソナタが大いに気になっていたのだが... "Piano e forte"、その1曲目が、ジュスティーニの1番のソナタ。で、驚いた!すでに、ピアノによるソナタとして、様になっている!バロック期、最終章、チェンバロ全盛の時代... となれば、チェンバロのための作品をピアノために借りてくる、そんなイメージを持ってしまうのだが、「ピアノ・エ・フォルテ」というピアノの機能をきちっと呑み込んで、ピアノでなくては奏でられない音楽を、ジュスティーニがすでに見出していることに、感心してしまう。そして、なんと魅力的な!その音楽、すでに多感主義も通り越して、まさに古典派のピアノ・ソナタ!モーツァルトのソナタがそこにあるよう... 音の強(フォルテ)弱(ピアノ)がナチュラルに連ねられ、モーツァルト流のセンチメンタルな表情が、至極、当たり前のように流れ出す。モーツァルトがピアノ・ソナタを書き出すのは、半世紀(弱)も先だと言うのに... いや、楽器が音楽に大きな進化を促したことに、目を見張る。
が、続く、アレッサンドロ・スカルラッティのアリエッタ(track.6-8)は、ぐっとアルカイック。古楽界のベテラン、キール(ソプラノ)の歌声も古色蒼然とした色を強めるようで、バッハ、ヘンデルの親世代となるナポリ楽派の巨匠の音楽は、前期バロックの匂い漂わせる。のだが、そこにピアノがそっと寄り添い伴奏するのがとても不思議な感触を生み... 次の、ビッティのフルートのソナタ(track.9-12)は、上質なバロックの音楽を堪能させてくれる。のだが、おもしろいのが、通奏低音を、ピアノ(これから音楽の主役となってゆく新しい楽器)とリュート(まもなく役割を終えようとしている古い楽器)が受け持ち、この2つの楽器の響きが重なり生まれるサウンドがまた不思議で。他の作品でも、新旧の楽器で通奏低音が組まれ(さらに、ヴィオラ・ダ・ガンバが加わり... )、独特の落ち着きを聴かせて、これが素敵。このアルバムの絶妙なエッセンスに。爛熟するバロックの中の、次の時代の萌芽としてのピアノという存在が、音楽史のうつろいの中に、儚げな幻影を浮かび上がらせるようで、淡く、美しく、印象的。
楽器も、スタイルも、新旧が入り混じり、豊かな広がりを見せる1730年頃のクリストフォリのピアノによるメディチ家の宮廷における音楽。その多様さを興味深く感じながらも、まもなく終焉を迎えようとするメディチ家の斜陽が、どの作品にも表れているようで... もちろん、トルビアネッリ(ピアノ)の選曲の妙もあるだろうが、オペラの大ブームを巻き起こしたヴェネツィア、音楽の最新モードの発信地、ナポリの華やかさとは違う、物憂げなトーンが何とも言えない。そして、その物憂げなトーンをしっとりと奏でるピリオド界で活躍する豪華な面々... キアラ・バンキーニのヴァイオリン、マルク・アンタイのトラヴェルソのソロに、トルビアネッリのピアノとともに通奏低音を担う、レベッカ・ルソーのヴィオラ・ダ・ガンバ、ダニエレ・カニミティのアーチリュートと、味わい深い演奏が、フィレンツェの宮廷の親密な気分を鮮やかに蘇らせ。また、ソロに、伴奏にと、"Piano e forte"の軸となるトルビアネッリのピアノがすばらしく。ソロでの雄弁さ、伴奏での控え目さ、「ピアノ」と「フォルテ」を見事に表現し、魅了されるばかり。
発見があり、新旧の楽器が並び、バロックから古典派へ... 盛りだくさんでありながら、しっとりとまとめてくるそのセンスの良さ!"Piano e forte"は、希有な1枚。

Piano e forte Kiehr ・ Torbianelli ・ Banchini ・ Hantaï ・ Rusò ・ Caminiti

ジュスティーニ : ソナタ 第1番 ト短調 〔チェンバロ・ディ・ピアノ・エ・フォルテのための〕
アレッサンドロ・スカルラッティ : アリエッタ 第25番 "Sono unite"
アレッサンドロ・スカルラッティ : アリエッタ 第3番 "Datti pace"
アレッサンドロ・スカルラッティ : アリエッタ 第19番 "Con la forza"
ビッティ : ソナタ 第7番 ニ短調 〔トラヴェルソと通奏低音のための〕
アレッサンドロ・スカルラッティ : アリエッタ 第13番 "Sì, sì, già ritorna"
アレッサンドロ・スカルラッティ : アリエッタ 第9番 "Se non more"
アレッサンドロ・スカルラッティ : アリエッタ 第33番 "Apri le luci amanti"
アレッサンドロ・スカルラッティ : アリエッタ 第12番 "Forse, o cieli"
バルサンティ : ソナタ 第4番 ホ短調 〔トラヴェルソと通奏低音のための〕
ヴェラチーニ : ソナタ 第4番 ハ短調 〔ヴァイオリンと通奏低音のための〕
マルチェッロ : カンタータ 「セレナータ・アド・イレーネ」
マルチェッロ : アダージョ ホ短調 〔ヴァイオリンと通奏低音のための ソナタ 第8番 より〕
マルチェッロ : カンタータ 「リポーゾ・ディ・クローリ」
ジュスティーニ : アンダンテ、マ・ノン・プレスト ヘ長調 〔チェンバロ・ディ・ピアノ・エ・フォルテのための ソナタ 第3番 より〕

マリア・クリスティーナ・キール(ソプラノ)
エドアルド・トルビアネッリ(ピアノフォルテ)
キアラ・バンキーニ(ヴァイオリン)
マルク・アンタイ(トラヴェルソ)
レベッカ・ルソー(ヴィオラ・ダ・ガンバ)
ダニエレ・カミニティ(アーチリュート)

GLOSSA/GCD 922504




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