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現代音楽の博物誌。 [2007]

クラシックというジャンルは、やっぱりストイックだと思う。が、時代が下れば下るほど、そうでもなくなってくる。さらに、現代ともなれば、何でもあり。博物学的(?)な広がりを見せて、おもしろい!そんな現代音楽の姿には、クラシックというストイックな世界から音楽史を辿って来て、どれほど自身に許容力があるかを試されてもいるようで、ちょっと、妙な感覚にもさせられることがある。のだが...
そんな現代音楽の博物学的な有様を思い知らされる、2007年にリリースされた2タイトル。現代音楽という括りからもはみ出してしまう異才、ハイナー・ゲッベルスのオペラ『遠い親戚たちのいる風景』のサウンド・トラック(ECM NEW SERIES/476 5838)に。現代音楽界のアウトロー、HKグルーバーの『フランケンシュタイン!!』(CHANDOS/CHAN 10404)を聴き直す。


ハイナー・ゲベッルスの『遠い親戚たちのいる風景』。は、ナンナンデスカっ?!

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これは、ナンナンデスカっ?!と、慄いてしまう『遠い親戚たちのいる風景』。オペラとは謳っているものの、識別不能の作品... それがまた、サウンドトラック(ハイナー・ゲベッルスによる舞台作品の音楽部分を、強引にCDにしたものがこのアルバム?)ということになっているから混乱させられる。で、そこに綴られる音楽が、さらに一筋縄ではいかない... "Landschaft mit entfernten Verwandten(Landcape with distant relatives)"、人類、皆、親戚ということ?で、地球上の様々な人々が織り成している様子を、それぞれの音楽風景の中に浮かび上がらせてひとつに綴る... そんなイメージだろうか。な、ものだから、あらゆる音楽が次から次へと立ち現れ、まさにワールド・ミュージック。アラブ、インド、ヨーロッパ、アメリカ... イメージは錯綜し、眩暈を覚えるよう。また、飛び交う様々な言語... アンリ・ミショー、T.S.エリオット、レオナルド・ダ・ヴィンチ、ニコラ・プッサン等によるテキストが用いられ、鋭く差し挟まれる台詞の数々。この語りが音楽以上に雄弁だったり。圧倒的な存在感で、言葉を解さなくとも、強く、強く惹き込まれてしまう。
ハイナー・ゲッベルス(b.1952)、恐るべし... これは、ナンナンデスカっ?!久々に聴き直してみても、この一言に尽きる。驚きと戸惑いと、言葉と音楽による魔術的な引力に囚われて抜け出せなくなる。この人ならではのダークさが、世界をリアルに捉え、輝かしいグローバリズムの宣伝の裏で、恐ろしく大きな闇を抱える世界の真実へ、聴く者を引き摺り込むよう。何だかよくわからないけれど、よく見ようとすればするほど引き摺り込まれる、ブラックホールのような作品。そうして、ブラックホールでしっかり掻き回されて、そこからポンと放り出されるような瞬間が来る。何ともユルいカントリー・ミュージック(track.25)が流れ出した時の拍子抜け感ときたら、もう... いや、そういう瞬間が来て、緊張が解かれて、ただならず深く感動する。力強いフランス語の語りの後ろで静かに歌われるフレイト・トレイン(track.26)の、情けなくなるようなやさしげな表情に、心は鷲掴み... すると、ゴーンと鐘の音が響き、瞑想の世界へと落ちてゆく... 最後の最後まで、ヤラレっぱなし。
で、あらゆるものが混在するこの作品に、音として息吹を与えたパフォーマーたちが凄い!フランク・オルー指揮のアンサンブル・モデルンの、何でも来い!な、恐ろしく器用なあたりはただただ感服するばかり。それから、ダーフィト・ベンネントの圧巻の語り!彼が主演した『ブリキの太鼓』も引用(太鼓が叩かれるシーンは圧巻!)されたりと、この作品にとって大きな鍵となる存在なのだが、その声の持つ魔力というのか、ジェンダーを越境するようなトーンに、ただならず惹き込まれる。そして、ドイツ室内合唱団、ゲオルク・ニゲルのバリトンと、この作品のカオスを混然一体となって、ひとつの作品に仕上げ生まれる力強さ、そこからこみ上げて来る感動は、なかなか他では得難い体験で。結局、これは、ナンナンデスカっ?!と、インパクトはまったく褪せない。

HEINER GOEBBELS
LANDSCHAFT MIT ENTFERNTEN VERWANDTEN


ハイナー・ゲッベルス : オペラ 『遠い親戚たちのいる風景』

ダーフィト・ベンネント(語り)
ゲオルク・ニグル(バリトン)
ドイツ室内合唱団
フランク・オルー/アンサンブル・モデルン

ECM NEW SERIES/476 5838




HK グルーバーの『フランケンシュタイン!!』。は、しょうもない...

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本気なんだか、どうなんだか、よくわからない... HKグルーバー(b.1943)の音楽。だけれど、そのしょうもなさこそツボ。ということで、H.C.アルトマンによる、こどもたちのヘボ詩人にならって、シャンソニエと管弦楽のための伏魔殿『フランケンシュタイン!!』(track.1-19)。その副題からして、やりたい放題。で、音楽も、シャンソニエ(シャンソンの歌い手)を名乗るHKグルーバーが、オーケストラを伴奏に、やりたい放題のショウを繰り広げる。それは、オーケストラを伴奏に、やりたい放題をするために作曲したのでは?とも思える作品で。この作品を、上品なコンサート・ホールで、高尚なオーケストラが、クラシックのレパートリーとして取り上げるとしたら、何と言うことだろう?!みんな正装で、静まり返ったところで、しょうもないものをブチ上げるのだ。いや、ブチ上げることができたら、とてつもなくシテヤッタリという気分になるのだろう。それが、作曲家の本当のねらいなのでは?作品そのものよりも、これをやってしまうという、あり得無さ、向こう見ずが重要!そんな風にすら思えてくる。
一方で、シャンソニエ、HKグルーバーのパフォーマンスが並大抵ではなく... 本業はシャンソニエで行った方がいいのかも?というのも、HKグルーバーは、名バリトンでもある。アンサンブル・モデルンによるヴァイルの『三文オペラ』(RCA RED SEAL/74321 6464 2)では、指揮をしながらピーチャムを歌い、びっくりするほどキャラの立ったところを聴かせて、最高に楽しませてくれた。となると、伏魔殿『フランケンシュタイン!!』は、文字通りの独り芝居!縦横無尽に歌い切って、飽きさせる瞬間がない。やりたい放題をやり切った結果、隙なく楽しめる作品に仕上がっているから凄い。いや、作品として間違いなくおもしろい。意外なほど、魅力的なところが悔しい。しょうもないはずなのに。が、作曲家以外で、このシャンソニエを務めることのできる歌手がいるかが問題か。いや、結構、オペラの世界にも器用な人はいるはず...
さて、2曲目は、ヨハン・シュトラウス2世で遊ぶ!そもそも、ヨハン・シュトラウス2世が遊んでいるのだが... 終わりの無い作品(ということで、フェード・アウトしたり、終わらせ方は指揮者次第... )である無窮動(track.20)を終わらせずに、それをまたやりたい放題に拡大してゆくのがHKグルーバーのシャリヴァリ(track.21)。ヨハン・シュトラウスの2世の軽快な音楽は、じわりじわりと脱線を始め、ラヴェル?リヒャルト・シュトラウス?なんかも聴こえてくるような、こないような... 最後は、キンコンカンコンと鐘が鳴るという、もの凄い落ちが付く。そういう、しょうもなさの一方で、オーケストラを使いこなした充実のサウンドも楽しめるから、何気に凄い。というより、HKグルーバーの音楽というのは、だらしないところが少しも無い。きちっとできている。だからこそ、しょうもないことも成り立ち得るわけで、改めて感心させられる。そして、HKグルーバーの悪乗り(?)に、丁寧に応えたBBCフィルの演奏もかなかなでして。真面目に向き合えば向き合うほど、おかしいのだから、まったくしょうもない。

SIGNE BAKKE CRYSTALLINE

HK グルーバー : 『フランケンシュタイン!!』 *
ヨハン・シュトラウス2世 : 無窮動 Op.257
HK グルーバー : シャリヴァリ
HK グルーバー : ダンシング・イン・ザ・ダーク

HK グルーバー(シャンソニエ) *
HK グルーバー/BBCフィルハーモニック

CHANDOS/CHAN 10404


ところで、近頃、現代モノが多い...
特に意味は無いはずなのだけれど、何となーく、現代モノの方へと流される今日この頃の不思議。
さて、次回は、大きく舵を切って、時代を遡ります!




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