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ブレイク。 [2010]

年末、煮詰まって来たところで、ブレイク!
近頃、クラシックのアーティストが、度々、ジャンルを越境する姿が目立つようでして... と、少し前に取り上げたのだけれど、そこでも触れたアルバムを2タイトル。弦楽四重奏というだけでない、驚くべきヴォーカルも披露してしまったエベーヌ四重奏団による映画をフィーチャーしたアルバム"FICTION"(Virgin CLASSICS/6286680)と、室内合唱という高機能性をフルに使って、ポップスを歌い上げてしまったレ・クリ・ドゥ・パリによるアルバム"ENCORES"(Alpha/Alpha 888)を聴く。
どちらも迷いなくボーダーを越えて見せて、その思いっきりの良さに感心させられる。21世紀、クラシックのアーティストも、やるよね... と、胸を張って言えるパフォーマンスを繰り広げる。何より楽しませてくれる!ということで、クラシックから離れて、気分転換...


弦楽四重奏で、パルプ・フィクション。

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パンプキンとハニー・バニーの衝動的な強盗で始まる『パルプ・フィクション』。その鮮烈なオープニング・タイトルで流れていた"Misirlou"で始まるエベーヌ四重奏団の最新盤、"FICTION"。あの、チープでカッコいいエレキ・サウンドを弦楽四重奏でやってしまおうというから、チャレンジング... で、やり切っているから圧巻!まるで、バルトークの弦楽四重奏曲のようなフォーヴさで、あまりのクールさにびっくり!
フランス印象主義(Virgin CLASSICS/5190452)、ブラームス(Virgin CLASSICS/2166222)と、好演を続けて来ての"FICTION"は、チャップリンに、ディズニーに、ミュージカル、アクション、独立系、社会派まで、幅広い映画、それぞれに個性的にシーンを彩った音楽を、弦楽四重奏という極めてクラシカルな形で取り上げつつ、映画のヴィヴィット感をまったく損なうことのない、驚くべきパフォーマンスを繰り広げる(ドラムス、ギターなども加えて、フレキシブルに仕上げてもいるのだけれど... )。そこに、ルス・カサル(ラテン)、ステイシー・ケント(ジャズ)、ナタリー・デセイ(ソプラノ)という、それぞれのジャンルで活躍する大物を招いて、映画を彩った名ナンバーを歌うとなれば、ゴージャス!で、極めつけは、トリュフォーのミューズ(クラシック的には、マリア・カラスを見事に演じた... )、ファニー・アルダンをヴォーカルとして引っ張り出すあたり。そのキャスティング、渋過ぎる!まったく、映画ヲタクは誰だ... しかし、本当に驚くべきは、エベーヌ四重奏団、そのもの。弦楽器を弾くだけでは飽き足らず、彼らも、歌います(時に、ギターまでも... )。で、上手いです。
『白雪姫』のあのドリーミンな名旋律、"Someday my prince will come"(track.13)を、弦楽四重奏で奏でる前に、見事、四重唱してしまう。で、本業はどっちですか?!という域... さらに、恐るべきは、ヴィオラ、マテュー・エルツォグのスプリングスティーン!アカデミー主題歌賞を受賞した名作、"Streets of Philadelphia"(track.16)を、仲間を伴奏に、堂々と歌い切る。かつ、十二分に聴かせてしまうという衝撃!一体、エベーヌって何者なんだ... 歌いたがりの映画ヲタクが4人集まった、奇跡の弦楽四重奏団?当然、弦楽四重奏としてもすばらしく。特製のイントロを付けての"Calling you"(track.6, 7)などは、どこか新ウィーン楽派ちっくで、スタイリッシュにロマンティックなあたりが印象深く。クラシックというフィールドで極めているからこそ生み出し得る、生半可ではないそれぞれの表現に、作品の音楽性がより引き立てられようなところもあって、改めて魅了されることに。
若い彼らなればこその、突き抜けた現代っ子感覚が、連綿と紡がれてきた弦楽四重奏の魅力を最大限に活かし切って、クラシックではないフィールドで、すばらしい音楽を紡ぎ出してしまったことに、21世紀を感じる。何者にも囚われず、クラシックとしての一級のクウォリティを誇る"FICTION"は、エベーヌ四重奏団のある意味、結晶のようなアルバムと言えるのかもしれない。

QUATUOR EBENE FICTION

Misirlou 〔『パルプ・フィクション』 から〕
Amado mio *
Nature Boy *
Come together *
Unrequited
Intro Calling you *
Calling you 〔『バクダッド・カフェ』 から〕 *
Corcovado *
Nothing Personal *
Footprints *
Lilac Wine *
Smile *
Someday my prince will come
Somewhere after Over the rainbow 〔『オズの魔法使い』 から〕 *
7-29-04 The Day Of 〔『オーシャンズ12』 から〕 *
Streets of Philadelphia 〔『フィラデルフィア』 から〕 *

エベーヌ四重奏団
ピエール・コロンベ(ヴァイオリン)
ガブリエル・ル・マガドゥール(ヴァイオリン)
マテュー・エルツォグ(ヴィオラ)
ラファエル・メルラン(チェロ)

ルス・カサル(ヴォーカル) *
ステイシー・ケント(ヴォーカル) *
ファニー・アルダン(ヴォーカル) *
ナタリー・デセイ(ヴォーカル) *
リシャール・エリ(ドラムス) *

Virgin CLASSICS/6286680




室内合唱で、ブリトニーに、カイリーに、マドンナ...

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フランク・ザッパの"Peaches en Regalia"で、鮮やかに始まる"ENCORES"。ジョフロワ・ジュールダン率いる、フランス、気鋭の室内合唱団、レ・クリ・ドゥ・パリの、Alphaデビューにして、すでにアンコールというあたりが、フランスならではのエスプリ?で、そのアンコールの数々なのだが... エベーヌ四重奏団が映画のカタログだったなら、レ・クリ・ドゥ・パリは、ポップスのカタログ。
ブリトニーに、カイリーに、マドンナ... なのである。いや、この名前が並んで、クラシックでいいのか?!と衝撃すら受けるのだけれど、エベーヌ同様に、やり切ってしまっているから凄い。で、さらに凄いのは、まさしくポップスのカタログであること。ジャック・ブレル(シャンソン)に、ペギー・リー(ジャズ)、ミーナ(カンツォーネ)といった往年のスター(このあたりのことは、世代的に、あまりよくわかっていないのだけれど... )に、ビートルズまで取り上げつつ、セルジュ・ゲンズブール、ビョークといった個性派を押さえて... 驚くべきは、アラブ世界のスター、フェイルーズまで... ワールドワイドかつ、ポップスの歩みすら網羅。この幅が尋常でないかも。で、室内合唱という高機能性を最大限に活かして、無伴奏で、ディティールに凝って形にしてゆくあたり(アレンジの妙... )、興味深く。それぞれの化学変化っぷりが、まったくおもしろい。
あの扇情的な"Womanizer"(track.2)は、お洒落にライトに仕上がっていて、ハードでスタイリッシュな"Can't Get Out of My Head"(track.11)は、妙にお色気路線に。一方で、クラシカルな方向に舵を切るナンバーもあって... ゲンズブールの"Manon"(track.5)は、フランス近代風?ビョークの"Hunter"(track.6)は、北欧の現代系?そうなり得る、オリジナルが内包する性質も、なかなか興味深かったり。そして、圧巻なのは"Hung Up"(track.9)!ABBAをベースにマドンナが創り上げたサウンドを、声のみで見事に再現していて。そのガンバリ具合が微笑ましくもあり。何より、あのビート感を見事に表現していて、ノらずにいられない!
それにしても、レ・クリ・ドゥ・パリ、器用... きちっとした技術に、応用力を備えて、クラシックというフィールドから出ても、十分に魅力的な音楽を繰り広げることが可能というあたり、まさしく21世紀の室内合唱。そして、聴き馴染みのあるナンバーが、こんな風に化学変化を遂げて、室内合唱という意外性で以って聴かせてくれれば、また新たな発見もあって刺激的。"ENCORES"には、音楽の楽しみが詰まっている。

ところで、隠しトラックなのか... 最後にひっそりと、もう1曲... まさにアンコール...
それから、このアルバム、丸くて薄い缶に入ってます。そのパッケージ、凝ってはいるのだけれど、店頭で探しづらく、家でも他のCDと一緒に保管しづらいのが難。かも。

ENCORES Les Cris de Paris Geoffroy Jourdain

Peaches en Regalia
Womanizer
Toi mon toit
Cherchez le garçon
Manon
Hunter
Nahna wil amar jiran
Brava
Hung Up
The Look of Love
Can't Get Out of My Head
Dugenou
A Day In the Life
The Folks Who Live On the Hill
Wild Is the Wind
Les Marquises
Cher
Il est cinq heures, Paris s'éveille

ジョフロワ・ジュールダン/レ・クリ・ドゥ・パリ

Alpha/Alpha 888




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