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マニアック、フランス探訪。 [2010]

12月に入り、2010年も残すところ... という状況になりまして、書きそびれに、聴きそびれが気になりだし... ということで、取り上げるアルバムは、2010年を遡ることが増えることに... で、早速、今年の初めのリリースとなるアルバムを2タイトル取り上げる。まず、ピリオド界の鬼才、エルヴェ・ニケが、モダンのオーケストラ、ブリュッセル・フィルハーモニックと、フラマン放送合唱団とともに、ドビュッシーの若き日々を探る興味深い2枚組、"Music for the Prix de Rome"(GLOSSA/GCD 922206)。そして、古楽界の鬼才、ジョルディ・サヴァールが、エスペリオンXXIを率いて、謎めく中世、カタリ派の世界へと没入する『忘れ去られた王国・カタリ派の悲劇・アルビジョワ十字軍』(Alia Vox/AVSA 9873)。フランスの音楽を巡るマニアックな2タイトル...
そのマニアックさに中てられて書きそびれていた?


ローマ賞と、ドビュッシー。

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"Music for the Prix de Rome(ローマ賞のための音楽)"。で、フランスの音楽史に触れる時、必ず顔を出すキーワード、ローマ賞。1664年、ルイ16世が創設した賞で、文字通りローマへの留学という特典の付いた、若手芸術家(音楽のみならず、絵画、彫刻、建築などの部門もあった... )の登竜門。ベルリオーズ(1830)、グノー(1839)、ビゼー(1857)、マスネ(1863)... 名立たるフランスの作曲家たちが、受賞者に名を連ねている。一方で、歴史と権威を誇る賞だけに、受賞を巡っての悲喜交々も... 何度もトライした末に、ラヴェルが受賞を逃した時は、スキャンダルになったり... そしてまた、ドビュッシーも受賞者にして、ローマ賞を巡って、いろいろとあったようなのだが... というあたりをまとめたのが"Music for the Prix de Rome"。
1883年に、2等となったカンタータ『剣闘士』(disc.1, track.1-7)。翌年、受賞となったカンタータ『放蕩息子』(disc.2, track.5-12)。留学中(1885-87)の課題として、ローマで作曲された交響組曲『春』(disc.2, track.1-2)。課題として作曲しつつも、受理されなかったカンタータ『春』(disc.2, track.3)。ローマが合わず、パリに戻って完成させた課題、カンタータ『選ばれし乙女』(disc.1, track.9)など、若きドビュッシーの奮闘ぶりを伝える作品ばかり。権威におもねることなく、どこか天の邪鬼で、そんなあたりにダンディズムを漂わせる、後のドビュッシー作品... なわけだが、ローマ賞を巡る作品には、ローマ賞と言う権威を前に、一生懸命さが滲んでいて、それがまた新鮮だったリ。『剣闘士』の熱っぽさなんて、かわいいくらいだ。一方で、間違いなく、「牧神の午後... 』や、『海』に至る、ドビュッシーのオリジナリティの萌芽がすでに聴き取れて。例えば『剣闘士』(disc.1, track.1-7)の、ナンバー・オペラ的なスタイル(もちろん、カンタータとオペラは別物だけれど... )からは脱して、有機的に情景を描いてゆくあたり、『ペレアス... 』への準備はすでにできている... といった感覚もあり、興味深い。
ニケがモダンのオーケストラを振る(ま、ちょこちょこ、振ってはいるのだけれど... )、それもドビュッシー?!ということで気になったアルバムだったのだけれど、才気、溢れる、青年ドビュッシーによる作品は、思いの外、魅力的!そして、20世紀、近代音楽に道筋を付けた大家の全体像を捉える上で、間違いなく貴重な2枚組。演奏としては... 久々に聴く、ジャン・フランソワ・エッセールのピアノがすばらしかった!交響組曲『春』(disc.2, track.1-2)、『選ばれし乙女』(disc.1, track.9)が、ピアノ伴奏(交響組曲『春』は、ジュデとの連弾... )によるもので、エッセールのピアノは、オーケストラ版よりも瑞々しく、粋に響いて、聴き入ってしまう。さすがは、フランスのベテラン!

Claude Debussy Music for the Prix de Rome Hervé Niquet

ドビュッシー : カンタータ 『剣闘士』
ドビュッシー : 祈り
ドビュッシー : カンタータ 『選ばれし乙女』
ドビュッシー : 交響組曲 『春』
ドビュッシー : カンタータ 『春』
ドビュッシー : 春のあいさつ
ドビュッシー : カンタータ 『放蕩息子』 〔初稿版〕

ギレーヌ・ジラール(ソプラノ)
ソフィー・マリレー(メッゾ・ソプラノ)
ベルナール・リヒター(テノール)
アラン・ビュエ(バリトン)
マリー・ジョゼフ・ジュデ(ピアノ)
ジャン・フランソワ・エッセール(ピアノ)
フラマン放送合唱団
エルヴェ・ニケ/ブリュッセル・フィルハーモニック

GLOSSA/GCD 922206




カタリ派と、アルビジョワ十字軍と、サヴァールの思い...

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『忘れ去られた王国・カタリ派の悲劇・アルビジョワ十字軍』。で、カタリ派って何?アルビジョワ十字軍って何?となるわけでして... 世界史の授業で聞いたかも?なキーワードに、多少、面喰うというか、何と言うか... ところで、そのカタリ派なのだが、中世、フランス南部で派生した、キリスト教の異端の一派。信者の多かった都市のひとつ、アルビに因み、アルビ派とも呼ばれ。異端、殲滅のために派遣されたのが、アルビジョワ十字軍となる。といったあたりが、世界史の教科書で得られる情報。ジャンヌ・ダルクが活躍した英仏百年戦争や、カノッサの屈辱の叙任権闘争みたいに、大きくは取り上げられないトピックかもしれない。しかし、これを機会に、ちょこっと調べてみれば、カタリ派の思想がなかなかおもしろく、考えさせられたり、アルビジョワ十字軍の侵攻が、中世、フランスにおいて、大きな転換点になっていたりと、思いの外、興味深いもので... 音楽そっちのけで、はまりそう。というあたりはともかく、本題の音楽なのだが...
いつもながら、サヴァールによるブック型のアルバムは、とにかく凝っている。カタリ派、アルビジョワ十字軍というテーマをチョイスした段階で、相当に凝っているとは思うのだけれど、その中身こそが、尋常でない。バスクからジパングへ、様々な文化圏を音楽で渡り、壮大な旅を綴った"ザビエル"(Alia Vox/AVSA 9856)... ユダヤ、キリスト、イスラムという異なる宗教はもちろん、聖地へと集う各地の文化、何より悠久の時間を呑み込んだ"イェルサレム"(Alia Vox/AVSA 9863)ですら2枚組だったのに、中世、フランス南部を舞台に3枚組... となれば、徹底的に丁寧に、カタリ派、アルビジョワ十字軍の歴史と向き合うことに... カタリ派に影響を与えたという、バルカン半島のボゴミル派に因む音楽から始めて、その東方カタリ派の終焉まで聴かせてしまう、サヴァールの執念に感服させられる。が、3枚組という量が、音楽の楽しみを削ぐようなところがあって、これまでのブック型のアルバムに比べると、学究的な色合いが強い?いや、そうした堅苦しさを噛み砕こうと砕身して、説明的に成り過ぎてしまった?もちろん、トルバドゥール文化の発信地であった、中世、フランス南部だけに、魅力的な音楽が詰まっているのは間違いない。エスペリオンXXIの演奏も、ラ・カペッラ・レイアル・デ・カタルーニャの合唱も、ソリストたちも、これまで通り、中世の魅力的なサウンドを、情感を籠めて、聴かせてくれているのだけれど、徹底的に丁寧なあたり、サヴァールについていくのが、結構、キツイ。かもしれない。

LE ROYAUME OUBLIÉ ・ THE FORGOTTEN KINGDOM
La Tragédie Cathare ・ The Albigensian Crusade
HESPÈRION XXI ・ LA CAPELLA REIAL DE CATALUNYA ・ JORDI SAVALL


I. カタリ派の起源 : 東方キリスト教世界と西欧(950-1099年)
II. 南仏オクシタニアの隆盛(1100-1159年)
III. カタリ派の伸張(1160-1204年)
IV. 衝突に向けて(1204-1208年)
V. アルビジョワ十字軍(1209-1229年)
VI. 異端審問所 : カタリ派信徒への迫害とカタリ派の消滅(1203-1300年)
VII. カタルーニャへの離散と東方カタリ派の終焉(1309-1453年)

ラ・カペッラ・レイアル・デ・カタルーニャ
ジョルディ・サヴァール/エスペリオン XXI、他...

Alia Vox/AVSA 9873




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