グレゴリオ聖歌に盛り付けて... [2010]
「多重録音」なんてものは、クラシックとは無縁である。はずだったが... 用いてみれば、おもしろいものができるのかもしれない。そんなアルバムが、"DRUMS 'N' CAHNT"(Deutsche Grammophon/477 8797)。老舗、グラモフォンが、初めて契約したパーカッショニスト... という、注目の存在、マルティン・グルビンガー(b.1983)。彼がまだ生まれる前、1981年に録音されたベネディクト派ミュンスターシュヴァルツァハ修道院聖歌隊によるグレゴリオ聖歌に乗っかって、自由に演奏を繰り広げてしまうという大胆な試み。それは、コラヴォレーション?ということになるのか... アレンジ?と言うべきか... リメイク?となるのか... グレゴリオ聖歌をベースに、まったく型にはまらない音楽を展開してしまったグルビンガー。その、グラモフォン、デビュー・アルバムを聴く。
そもそも、グレゴリオ聖歌とパーカッションという組合せにびっくりである。というより、合うのか?と、大いに疑問を感じてしまう。グレゴリオ聖歌のあのストイックな朗唱と、リズムこそ命なパーカッション。あまりにかけ離れた感覚を持つ2つの音楽だけに、ドラムス・オン・チャントをどうやって成立させるのだろうか?と、興味を掻き立てられるわけだが。驚いた!ストイックに、パーカッションとグレゴリオ聖歌を向き合わせるのではなく、とにかくフレキシブルに、あらゆる可能性を探って、まったく新しいものを生み出す。クラシックという枠組みなどは度外視して、様々なジャンルのエッセンスを持ち込み、パーカッションにこだわることなく幅広く楽器を求めて、アンサンブルに彩りを持たせ、想像以上に豊かなサウンドを繰り出して来る。
ミステリアスなマリンバの音が絶妙にグレゴリオ聖歌に絡み付き、印象的な1曲目、イントロイトゥス「見よ、王なる主が来たまえり」。音源は何も変わらないのに、明らかにグレゴリオ聖歌に化学変化をもたらしていて。静謐で、良くも悪くもフラットなグレゴリオ聖歌に、表情が浮かび上がって新鮮!2曲目、イントロイトゥス「主、我に言いたまえり」(track.2)では、エレクトリックな楽器を用いて、上質なフュージョンに仕立て直し... 3曲目、コンムニオ「聖なるものの輝きの中で」(track.3)では、中東の縦笛、ネイに、トルコのトラッドの歌手まで加わって、グレゴリオ聖歌という西洋音楽の礎を、見事にイスラムミックに、エキゾティックに仕上げてしまう。で、それが様になってしまうから、唸るしかない。続く、キリエ XIV(track.4)では、アフリカンなパーカッションで、陽気に、リズミックにノってしまえば、その陽気さが、かえってグレゴリオ聖歌の荘重さを引き出して。さらに、アニュス・デイ XIV(track.6)では、お馴染み、ベルリン・フィルの首席オーボエ奏者、アルブレヒト・マイヤーが、伸びやかにオーボエを歌わせて、その垢抜けたサウンドに、グレゴリオ聖歌も引き上げられて、独特の高揚感を見せてしまう。
至極真面目な修道士たちによるグレゴリオ聖歌が、グルビンガーによる新たなサウンドを重ねることで、単色だった世界が劇的に色彩を得てしまうマジック。フュージョン、コンテンポラリー、ワールド・ミュージック、ジャズ... そのグレゴリオ聖歌の変貌ぶりに驚くばかり。何より、それを発想したグルビンガーのセンスに感心させられ。それを成し遂げる、あらゆるスタイルに縦横無尽に対応できてしまうグルビンガーの音楽性に脱帽させられる。いや、タダモノではないのかも... そして、グレゴリオ聖歌も恐るべし!これほど柔軟に変容できる可能性を秘めていたとは... というより、現代における音楽の源泉、音楽の母としてのグレゴリオ聖歌の懐の深さを思い知らされると言うか。とにかく、驚かされ、おもしろく、かつ可能性を見出す、興味深い1枚。かも。
DRUMS 'N' CAHNT ・ MARTIN GRUBINGER
MONKS OF THE BENEDICTINE ABBEY MÜNSTERSCHWARZACH
■ イントロイトゥス 「見よ、王なる主が来たまえり」
■ イントロイトゥス 「主、我に言いたまえり」
■ コンムニオ 「聖なるものの輝きの中で」
■ キリエ XIV
■ サンクトゥス XIV
■ アニュス・デイ XIV
■ アンティフォナ 「我ら御身の十字架を礼拝し」
■ セクエンツァ 「復活の生け贄に」
■ コンムニオ 「我らが過越の小羊、キリストは生け贄となりたまえり」
■ オッフェルトリウム 「神は天に昇りたまえり」
■ コンムニオ 「主に向かいて歌え」
■ セクエンツァ 「聖霊よ、来りたまえ」
マルティン・グルビンガー(パーカッション)
ゴーデハルト・ヨッピヒ神父/ベネディクト派ミュンスターシュヴァルツァハ修道院聖歌隊
アルプレヒト・マイヤー(オーボエ)
ヨーゼフ・ブルハルツ(フリューゲルホルン/トランペット)、他...
Deutsche Grammophon/477 8797
MONKS OF THE BENEDICTINE ABBEY MÜNSTERSCHWARZACH
■ イントロイトゥス 「見よ、王なる主が来たまえり」
■ イントロイトゥス 「主、我に言いたまえり」
■ コンムニオ 「聖なるものの輝きの中で」
■ キリエ XIV
■ サンクトゥス XIV
■ アニュス・デイ XIV
■ アンティフォナ 「我ら御身の十字架を礼拝し」
■ セクエンツァ 「復活の生け贄に」
■ コンムニオ 「我らが過越の小羊、キリストは生け贄となりたまえり」
■ オッフェルトリウム 「神は天に昇りたまえり」
■ コンムニオ 「主に向かいて歌え」
■ セクエンツァ 「聖霊よ、来りたまえ」
マルティン・グルビンガー(パーカッション)
ゴーデハルト・ヨッピヒ神父/ベネディクト派ミュンスターシュヴァルツァハ修道院聖歌隊
アルプレヒト・マイヤー(オーボエ)
ヨーゼフ・ブルハルツ(フリューゲルホルン/トランペット)、他...
Deutsche Grammophon/477 8797
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