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21世紀の深き淵から... [2010]

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ヴァイオリンの鬼才、ギドン・クレーメル... その存在は、クラシックの権威主義的なあたりに抗うような感覚を孕んでいて、時に、パンキッシュにすら感じることもあった。けれど、今はまた、ちょっと違う印象を受ける。自らが創設したアンサンブル、クレメラータ・バルティカという場所を得て、いい具合にクラシックとスタンスを取るようなところがあって... スタンスと言っても、クラシックの内にはあるのだけれど、カッチリとしたクラシックからはすでに解脱しているような、よりナチュラルに、クラシックと喧嘩することなく、やりたい音楽を素直に展開する。その肩に力の入らない姿に、クラシックのひとつの理想を見るような気がする。
さて、クレーメル+クレメラータ・バルティカの最新盤、"De Profundis(深き淵より)"(NONESUCH/7559.79969)。クラシックに囚われることなく、幅広く、フレキシブルに並べられた作品の数々... そして、アルバムの放つ絶妙なトーン... まさに、クレーメル流オムニバス。そんな1枚を聴く。

シベリウスの美しく、静謐な、鶴のいる情景で始まる"De Profundis(深き淵より)"。シューベルト、シューマンから、アンビエントなペルトに、ナイマンの映画音楽、しっとりとしたピアソラのタンゴ... ショスタコーヴィチの沈鬱なメロディに、シュニトケの沈痛なサウンド... さらにアウエルバッハといった若い世代の現代の作曲家まで、とにかく、幅が広い!が、ひとつのアルバムとして、独特のトーンを紡ぎ出すから、クレーメルのセンスには感服させられる。クラシックは、その濃度を薄めて、現代音楽は、ちょっと懐古的な気分を見せて、ただただ絶妙に、それぞれの作品が、それぞれの作品に寄り添い、まるでひとつの映画のサウンドトラックのような、まとまり様。で、"De Profundis"/『深き淵より』という、何やらヘヴィーなタイトルが示す通り、アルバムからは、そこはかとなく、メッセージ性が滲み出し、聴けば聴くほど、迫ってくる。
グローバルだ何だと言っても、世界にはワケのわからん国が多い... 体裁こそ近代的に見繕っていても、その実は、時代錯誤な言論統制で体制を取り繕う... 21世紀、世界を見渡せば、意外とそういう国は多い。そして、そうした国々で、真実に目を向けようと声を上げ、声を上げたがために囚われている人たちに捧げられたのが"De Profundis"とのこと。どこかセンチメンタルで、メランコリックに綴られる"De Profundis"なのだけれど、ところどころ、楔を打ち込むように鋭い音楽が挿まれて、深き淵からの叫びのようなサウンドで、聴く者の心を捉えてくる。アルバムのタイトルになっている、シャルクシュニーテの深き淵より(track.3)、アルバムの最後を締め括るシュニトケのフラグメント(track.12)などは、特に印象的で... 私利私欲がぶつかるばかりの21世紀、そうした時代の歪みを炙り出すような響きに、何か、心を掻き乱される感覚も... で、聴き終えれば、何とも言えない心地に... それこそが、クレーメルの狙いなのだろうけれど...
まるで、映画音楽。のような、聴き易さを感じながらも、21世紀の真実と向き合わされる1枚。そこには、クレーメルという個性と、彼の許に集うバルトの演奏家たちの、向かうべき方向性をきっちり見据えたアンサンブルがあって。彼らならではの、老舗オーケストラでは味わえない、フレッシュさ、ヴィヴィットさに、改めて魅了される。また、アウエルバッハのスターバト・マーテルについての対話(track.9)、ペレーツィスの花開くジャスミン(track.11)で聴かせる、アンドレイ・プシュカレフのヴィブラフォンが印象的で... エッジの効いたクレメラータ・バルティカに、一味違う色を乗せて、魅惑的なアクセントに。
それにしても、クレーメルのセンスが光る!で、こういうオムニバス、もっとあってもいいように思うのだけれど... 四角四面のクラシックを、定番ばかりでなく、幅広く拾い集め、再構成してみて、また違った表情を引き出すような、そんなオムニバス。

De Profundis GIDON KREMER KREMERATA BALTICA

シベリウス : 鶴のいる情景 Op.44-2
ペルト : パッサカリア
シャルクシュニーテ : 深き淵より
シューマン : フーガ 第6番 〔バッハの名前による6つのフーガ Op.60 より〕
ナイマン : Trysting Fields 〔映画 『数に溺れて』 より〕
シューベルト : メヌエット 第3番 ニ短調 D.89
ティックマイエル : これは裂かないで
ショスタコーヴィチ : アダージョ 〔オペラ 『ムツェンスク郡のマクベス夫人』 より〕
アウエルバッハ : スターバト・マーテルについての対話
ピアソラ :イ短調のメロディ (10月の歌)
ペレーツィス : 花開くジャスミン
シュニトケ : フラグメント 〔未完のカンタータ より〕

ギドン・クレーメル(ヴァイオリン)
クレメラータ・バルティカ

NONESUCH/7559.79969




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