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最後の3つと、始まる前と... [2010]

21世紀、現代の空気感ってのは、どうしてこうも息苦しいのだろう?世界にしろ、日本にしろ、わけのわからんことが多くて、近頃、ニュースを見るのがイヤになる。そうした中で、ノーベル賞の受賞や、落盤事故からの救出のニュースを聞けば、自身とはまったく違う場所で起きていることであっても、何だか、雲間から光が差しているのを見つけたような、そんな気分に... 世の中、どんよりと曇っているばかりではないのだなと... それにしても、ニュースは、マイナスのトピックの分、プラスのトピックも、同じ量、伝えるべきなのでは?21世紀、悪い部分ばかりがクローズアップされているようで、そんな情報にさらされていると、それこそ窒息しそうになる。
なんて、重い心地で聴くベートーヴェン... 悪戦苦闘して、音楽の中に閉塞感を打ち破るカタルシスを聴かせるのがベートーヴェン... そんな印象があるのだけれど。そんなベートーヴェンも、煮え切らない革命の後、反動化するウィーン体制の下、閉塞感の中に生きていたわけだ。そうして辿り着いた境地... というのか、ベートーヴェンの晩年の作品には、独特の光が差すような... そんな思いを強くする、ロナルド・ブラウティハムのベートーヴェンのピアノ独奏曲全集、最後の3つのピアノ・ソナタを収録したvol.8(BIS/BIS-SACD-1613)と、作品番号が振られていない初期のソナタを集めたvol.9(BIS/BIS-SACD-1672)を聴く。
悪戦苦闘の果てのサウンドと、まだ始まっていないピュアなサウンド... 続けて聴けば、ひとりの作曲家の歩んだ道程の重さを、噛み締める思いも。


最後の3つのソナタ、vol.8...

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フォルテピアノを用いて、丁寧に進められてきたロナルド・ブラウティハムのベートーヴェンのピアノ・ソナタの録音。派手にスポットが当たることは無かったかもしれないが、1枚1枚、その都度、新鮮な思いで向き合い、ますます深まりつつあるシリーズだけに、とうとう、最後の3つのソナタが登場... となると、感慨も一入。なのだけれど、その前に28番のソナタ(track.1-4)が取り上げられる。で、早速、魅了されることに...
あまりにさり気なく、朗らかで軽やかな音がこぼれ出し、シリーズに一区切りをつける。なんて気負いは一切感じられず、そのさり気なさが、とにかく好感触!それでいて、最後の3つのソナタへの、絶妙な序章に成り得ていて、アルバム1枚を有機的に結び付けるような、そんな役割を担っているのかもしれない。そこには、最後の3つのソナタをことさら強調することのない、ブラウティハムのスタンスもあるのか、28番をvol.8に持ってきた選曲が、なかなか興味深い。そして、30番、31番、32番のソナタになるわけだが...
これまでの、7枚のアルバムでベートーヴェンのピアノ・ソナタと真摯に向き合ってきたブラウティハムの境地なのか、いい具合に脱力したベートーヴェンが響く。また、それが、最後の3つのソナタの、独特の突き抜けた感覚と共鳴し、何とも言えないセンチメンタルな気分を漂わせる。ベートーヴェンのそれまでの歩みを、振り返るような... 暖かな日の光に包まれて、古いアルバムをめくり、昔へと還ってゆくような感覚?最後でありながら、どこか始まりの頃(モーツァルトに弟子入りを願っていた頃... )を思わせて、興味深い。また、そこには、シューベルト、シューマンなどの、その後の音楽の萌芽が何気なく織り込まれていて、過去と未来(ベートーヴェンが生きていた時点での... )とが、何ともやさしげに対話するようで、時間の流れが、多少、ゆっくりに感じられるような、不思議な感覚も。そんなサウンドに触れていると、ベートーヴェンであるとか、最後の3つのソナタであるとか、そういう仰々しさのようなものは、どこかに消え、ただただやわらかな音楽が広がる。
それにしても、ナチュラル!1819年製、コンラート・グラーフ(レプリカ)の、モダンのピアノが失ってしまった風合いを最大限に活かし、進化の過程であるピリオドのピアノの足りなさを見事に補って、無理のないタッチで紡ぎ出すブラウティハム。前作、vol.7(BIS/BIS-SACD-1612)での、「ハンマークラヴィーア」のシンフォニックさからは一転、こんな風に切り返して来るとは... ベートーヴェンに魔法を掛けるかのよう。

Beethoven ・ Complete Works for Solo Piano (8) ・ Brautigam

ベートーヴェン : ピアノ・ソナタ 第28番 イ長調 Op.101
ベートーヴェン : ピアノ・ソナタ 第30番 ホ長調 Op.109
ベートーヴェン : ピアノ・ソナタ 第31番 変イ長調 Op.110
ベートーヴェン : ピアノ・ソナタ 第32番 ハ短調 Op.111

ロナルド・ブラウティハム(ピアノ : 1819年製、コンラート・グラーフ、レプリカ)

BIS/BIS-SACD-1613




始まる前のソナタ、vol.9...

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全32曲、ピアノ・ソナタを弾き終えて、うっかり完結かと思っていたら、さらに、番号が振られていない初期の作品、「選帝侯ソナタ」や、ソナチネを取り上げるということで、興味津々の、ロナルド・ブラウティハムのベートーヴェンのピアノ独奏曲全集、最新盤。1番から32番までを追うのすら難儀なのに、番号が振られる以前の作品となると、まったく見当もつかないのが正直なところ。ということで、全て初めて聴く作品ばかり... それも、ベートーヴェン少年、13歳の作品もあったりして... ベートーヴェンのあの厳めしいポートレートを思い浮かべてしまうと、ベートーヴェンの少年時代を想像することは難しくなる。が、間違いなくベートーヴェンにも少年時代はあって、そうした部分に改めてスポットを当てることに、興味を掻き立てられる。
さて、神童、モーツァルト少年に倣って、ベートーヴェン少年も売り出そうとしたというベートーヴェンの父。そうして生まれたのが、vol.9の前半を占める、「選帝侯ソナタ」(track.1-9)とのこと... ま、神聖ローマ皇帝の宮廷と、ケルン選帝侯の宮廷では、多少、見劣りするところもあるのかもしれないけれど、ベートーヴェン少年も、神童として、華やかにデビューを果たしていたわけだ。で、その音楽、おもいっきりモーツァルトのピアノ・ソナタを思わせて、おもしろい... そういう時代であったことも、もちろんあるが、もうひとりの神童として、「モーツァルト」を巧みに倣って、立派なピアノ・ソナタに仕上げられているあたり、ちょっと驚かされる。それでいて、どことなく、後のベートーヴェンの片鱗も聴こえてくるから、刺激的でもあり。モーツァルトの快活さ、明朗さに、ベートーヴェンのゴツさがわずかに垣間見えて、おもしろい。
後半は、ベートーヴェン青年の作品が並ぶのだが、まだ髪の毛は綺麗に整えられている?そんな、どこか身綺麗なサウンドが印象的でもあり、物足りなくもあり... 下手すると、模倣に、若書きの荒削り感がスパイスとなった「選帝侯ソナタ」の方が、ずっと聴き応えがあるような。妙に生真面目な音楽に、ベートーヴェンのベートーヴェン以前の姿を見つけたようで、不思議な感覚になる。が、これこそが、ピアノ独奏曲全集の恐さであり、おもしろみ?全32曲、ピアノ・ソナタを弾き終えてのこれからが、ブラウティハムというピアニストの腕の見せ所なのかもしれない。しっかりと植え付けられている、あのポートレートのイメージからズレた音楽も含めて、ベートーヴェンの全ての姿を露わにする、ピアノ独奏曲全集。今後の展開が楽しみになる。

Beethoven ・ Complete Works for Solo Piano (9) ・ Brautigam

ベートーヴェン : 3つのソナタ 「選帝侯ソナタ」 WoO.47
ベートーヴェン : ソナチネの2つの楽章 WoO.50
ベートーヴェン : 2つのソナチネ Anh.5
ベートーヴェン : ピアノのための2つの作品 オルフィカ 〔やさしいソナタ WoO.51〕

ロナルド・ブラウティハム(ピアノ : 1788年製、アンドレアス・シュタイン、レプリカ)

BIS/BIS-SACD-1672




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