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ストラヴィンスキーの分水嶺。 [2010]

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マリインスキー劇場の自主レーベルが絶好調だ。ショスタコーヴィチの交響曲(MARIINSKY/MAR 0502)に、チャイコフスキーの管弦楽作品集(MARIINSKY/MAR 0503)、マツーエフをソロに迎えてラフマニノフのピアノ協奏曲(MARIINSKY/MAR 0505)... そして、本業たるオペラでは、ショスタコーヴィチの『鼻』(MARIINSKY/MAR 0501)に、シチェドリンの『魅せられた旅人』(MARIINSKY/MAR 0504)と、ロシア・オペラの家元ならではと言うべきか、マニアックなラインナップがたまらない。何より、レーベルがスタートして2年に満たないながら、すでに5タイトル... 今のクラシックの状況、レコード業界の荒涼とした風景を見渡せば、そのアグレッシヴさに舌を巻きつつ、嬉しくなってしまう!そして、彼らの6タイトル目、ストラヴィンスキーのバレエ『結婚』とオペラ・オラトリオ『エディプス王』(MARIINSKY/MAR 0506)を聴く。

ゲルギエフ+マリインスキー劇場によるストラヴィンスキーというと、『春の祭典』(PHILIPS/468 035-2)、『火の鳥』(PHILIPS/446 715-2)が忘れられない。それは、ロシアならではというのか、泥臭いサウンドで... ロシアのローカル性を、ポジティヴに炸裂させていて、驚かされた。世界中のオーケストラが個性を失い、均一化されている... なんて、危惧されているわけだけれど、彼らにはまったく当てはまらない。それどころか、ロシアの作曲家として、ストラヴィンスキーを再発見するような感覚すらあった。
もちろんストラヴィンスキーは紛れもなくロシアの作曲家だが、それ以上に、20世紀、近代音楽のアイコンだ。そんなモダンな感覚が強調されることで、ストラヴィンスキーという作曲家の「ロシア」という部分は、いつの間にやら、意識することは少なくなっていたかもしれない。そうして遭遇した、ゲルギエフ+マリインスキー劇場によるストラヴィンスキー... 改めて、この作曲家の音楽が持つ「ロシア」を感じ、そのモダンな感覚の根っこにある、ロシアの泥臭さみたいなものを再認識させられた。そして、彼らの久々のストラヴィンスキーのリリース、バレエ『結婚』(track.1-4)と、オペラ・オラトリオ『エディプス王』(track.5-10)。
ピアノ4台とパーカッション群による特殊編成が、ドライなサウンドを生み、リズムが際立ち、モダニスト、ストラヴィンスキーを強調するバレエ『結婚』。だが、その物語はロシアの田舎の結婚式のゴタゴタを描く、他愛もないもの。ゲルギエフは、モダンであるより、他愛のなさをを強調するのか、特殊編成が生むドライなサウンドに湿り気を与えて、ほんわかと田舎の結婚式を始める。が、その湿り気の中で、ドラマはやがて汗ばんで来て、新郎新婦、両家の小競り合いに... その熱気の生々しいこと!このあたりが、マリインスキー劇場ならではの感覚か。また、マリインスキー劇場の歌い手たちによる活きたロシア語が、作品の人間臭さを引き出して、ドラマに血を通わせて。特殊編成のエキセントリックさよりも、よりドラマを見せてくれたのが新鮮!
一方で、オペラ・オラトリオ『エディプス王』は、どうなのだろう?バレエ『結婚』からは一転、荘重な作品になるわけだけれど... ジェラール・ドパルデューを語りに招き、豪華ではあるが、マリインスキー劇場の歌い手たちにとって、ラテン語によるドラマ(そもそもラテン語によるオペラというのが、妙なのだけれど... )というのは不慣れ?ところどころぎこちない。また、差し挟まれるドパルデューによるフランス語のナレーションも、ギリシア悲劇にしては、何となくチープ。オーケストラはマイペースを貫いて、ロシア的で... それによって、オペラ・オラトリオは、よりオペラの性質を強め、ドラマティックなあたりは魅力的。何より、ストラヴィンスキーの擬古典主義を代表する作品、そのモダンなセンスに「ロシア」が滲むのがおもしろい。しかし、何か、行き先不明の演奏にも聴こえてしまう。
ロシアを題材としたバレエと、よりコスモポリタンなオペラ・オラトリオ... この2作品の間には、ストラヴィンスキーの、バーバリスティックな時代と、擬古典主義の時代の分水嶺があるわけだが、ゲルギエフ+マリインスキー劇場という個性際立つ面々による演奏は、良くも悪くも、その分水嶺を浮かび上がらせて、興味深い。

STRAVINSKY OEDIPUS REX - LES NOCES
VALERY GERGIEV
MARIINSKY SOLOISTS, ORCHESTRA AND CHORUS


ストラヴィンスキー : バレエ 『結婚』 *
ストラヴィンスキー : オペラ・オラトリオ 『エディプス王』 *

ムラーダ・フドレイ(ソプラノ) *
オルガ・サヴォワ(メッゾ・ソプラノ) *
アレクサンドル・ティムチェンコ(テノール) *
アンドレイ・セロフ(バス) *
アレクサンドル・モギレフスキー(ピアノ)、スヴェトラーナ・スモリナ(ピアノ)、
ユリア・ザイチキナ(ピアノ)、マクシム・モギレフスキー(ピアノ) *

エディプス王 : セルゲイ・セミシクル(テノール) *
イオカステ : エカテリーナ・セメンチュク(メッゾ・ソプラノ) *
クレオン/使者 : エフゲニー・ニキーチン(バス・バリトン) *
ティレシアス : ミハーリ・ペトレンコ(バス) *
羊飼い : アレクサンドル・ティムチェンコ(テノール) *
語り : ジェラール・ドパルデュー *

ヴァレリー・ゲルギエフ/マリインスキー劇場管弦楽団、同合唱団

MARIINSKY/MAR 0506




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