SSブログ

怪奇劇場。 [selection]

そろそろ、夏も終わりのはずですが、暑いです。暑いので怪談で涼む... って、涼めるのか?なんて、いつも思ってしまう。恐い話しには、背筋を凍らせるより、何だかワクワクしてしまう性質でして... 怪談のおもしろさは、恐い、恐い... ではなく、その不条理さにあるような気がする。道理に合わない、日常を逸脱する展開に、想像力を刺激されて、恐い、恐い... というよりも、そのあり得なさに、クリエイティヴィティを見出し、感心させられてしまう?なんてのは、あまり一般的なリアクションではないのだろうけれど、怪談の刺激的なあたりが大好き!ということで、8月13日の金曜日に続いての、怪奇セレクション。前回は避けた、オペラを探ってみる。
今や時代そのものがシュールで、生きている魑魅魍魎が跋扈する21世紀、怪奇なオペラこそ真実を映す?そんな視点も持ちつつ、ただ恐いだけじゃない、不条理劇としての怪奇なオペラいろいろ... 音のタイル張り舗道。的、怪奇オペラ十八番... どうでしょう?

オペラ座の怪人が、棲み付くくらいだから、オペラハウスというのは、どこか妖しげな空気が漂う?いや、オペラそのものに、日常と切り離されたマジカルなものを感じてしまう。そもそも、我々が、日常、交わす言葉を、全て音楽に乗せてしまおうというのだから、尋常ではない。しかし、その尋常でないあたりこそが、オペラの魅力で、その尋常でないものに身を任せ、ひと時、酔い痴れるなんてのは、ちょっと悪魔的な楽しみのようにも思えてくる。17世紀末、ローマでは、教皇によってオペラの上演が禁止されたわけだが、何となくわかるような気がする。バロック期のオペラハウスの風紀紊乱云々ももちろんあったろうが、オペラそのものが放つ、非日常の妖しげなオーラを、教皇は嫌ったのかもしれない。「オペラ」というものを改めて振り返れば、今に限らず、いつの時代においても、トリッキーな形式であることは間違いない。そんなオペラから、さらに妖しげな作品を探る...

1010.gif
1010.gif5455212.jpg1010.gif
幽霊が出てくるオペラは、珍しくはない。が、霊というものを、真正面から描いたオペラはほとんどない。そうした中で、ブリテンの『ねじの回転』は異彩を放つ。さすが、スピリチュアリズムの母国、イギリスのオペラ。幽霊の描き方がリアル... というと、何だか妙な感じもするが、ブリテンならではの瑞々しい音楽が、オペラティックな仰々しさではない、日常と隣り合わせの非日常を炙り出し、ゾクっとさせてくれる。という『ねじの回転』を、ハーディング+マーラー室内管による全曲盤(Virgin CLASSICS/5 45521 2)で... 大時代的なオペラとは一線を画す作品に、若いセンスがきらめく!ボストリッジのカラリとした歌声による地縛霊(?)が、解り易いおどろおどろしさとは違う恐さを派生させる。
1010.gif
1010.gif4460782.jpg1010.gif
プロコフィエフの奇作、『炎の天使』。要所要所でラップ音が響く(って、もちろんオーケストラによるものね... )オペラは、かなり本格的?というのはほんのエッセンス。何よりおもしろいのは、主人公の不思議ちゃん、レナータの的を射ない言動で掻き乱される真実。彼女は本当に天使と出会ったのか?それとも妄想なのか?という以前に、出会ったのは本当に天使なのか?実は悪魔だったのではないのか?そして、衝撃の結末... 修道女たちに悪魔が憑く、阿鼻叫喚の女子修道院。オペラでホラーなんてことはあり得ないように思うのだけれど、『炎の天使』は間違いなくホラーだ。そんな作品を余すことなく描き切るゲルギゲエフ+マリインスキー劇場によるライヴ盤(PHILIPS/446 0782)。迫真にして、鮮烈!
1010.gif
1010.gif4781087.jpg1010.gif
ベッリーニのラヴ・ロマンス、『夢遊病の女』。この作品を怪奇オペラと言ってしまうのは、大いに問題がある。が、冷静に振り返ると、不可解な物語に思えて来る。美しい音楽の一方で、物語が破綻している... なんてことがオペラには往々にしてあるけれど、このオペラもそんなパターン。で、そこにこのオペラの恐さがあるような... 『となりのトトロ』の都市伝説ではないけれど、ヒロインは途中で死んでいるのでは?幽霊に間違われる夢遊病の女ではなく、幽霊そのもの?なんて解釈すると、ゾクっとさせられる。で、ふとそんなことを思ってしまったバルトリによる全曲盤(L'OISEAU-LYRE/478 1087)。あちらこちらでウィンド・チャイムが鳴り、いつもとは一味違う、浮世離れした雰囲気を醸し出す。
1010.gif
1010.gif5568232.jpg1010.gif
圧倒的にして、鮮烈なコーラスで幕を開けるシマノフスキの『ロゲル王』。のっけから、こりゃタダモノではない... を思い知らされるのだけれど、物語もまた、タダモノではない。シマノフスキの、解放区としての南への渇望が見せた悪夢?中世のシチリアを舞台に、日常に、突如、現れた、非日常、謎の羊飼い... そして、ハーメルンの笛吹き男の話しに似て、非日常へと誘われてしまう人々... 一方で、日常に残されたロゲル王の孤独... 日常と非日常の狭間で揺れる物語を、ヴィヴィットなサウンドで捉えれば、妙なリアリティが漂う。そんなオペラを世に知らしめた... というより、シマノフスキ・ルネサンスを引き起こした?ラトル+バーミンガム市響による録音(EMI/5 56823 2)が、鮮烈な色彩を放ち、圧巻!
1010.gif
1010.gif0012542KAI.jpg1010.gif
鬼才、デイヴィッド・リンチの映画『ロスト・ハイウェイ』、謎の男、ミステリーマンと接触したことで、パラレル・ワールドへと迷い込んでしまうような恐怖を味わう物語... これをオペラ化してしまった気鋭の作曲家、オルガ・ノイヴィルト(b.1968)。ムジークテアター『ロスト・ハイウェイ』は、IRCAM仕込みのテクノロジーと、ジャズに、ロックに、様々な手法を用いて、見事にリンチ・ワールドを創り出してしまう。いや、リンチ作品、特有の世界観が、生きている!という作品を、カリツケの指揮、クラングフォルム・ウィーンの演奏(KAIROS/0012542KAI)で聴くのだけれど、個々のポテンシャルの高さを遺憾無く発揮して、ますます刺激的に恐い世界を描き出す。




タグ:オペラ
nice!(1)  コメント(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ:音楽

nice! 1

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

Facebook コメント

トラックバック 0

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。