SSブログ

メランコリーが効いてきて... [2010]

SISYPHE015.jpg
1010.gif
寒い、寒くない、寒い、寒くない、寒い、寒い...
春は訪れてくれるのか、くれないのかを占う。いや、桜が終わって、春に待たされるという、予想外の事態に、調子が狂う。で、調子が狂って、まさに風邪の前兆... こう焦らされると、いい加減にしてくれ!なんても言いたくなる。4月も下旬、それとも春に嫌われてしまったのだろうか?当たり前のように訪れていたものに、つれなくされて、何かこう、気分は重くなる。そんな4月に、ロシアのロマンティックなピアノを聴くのは、気鬱症を加速させるか?いや、こんな4月だからこそ、ロシアのメランコリーは、たまらないものがある。
フランスのピアニスト、ジョナタン・ベニシューが弾く、スクリャービン(SISYPHE/SISYPHE 015)... 3番、5番、10番のピアノ・ソナタに、練習曲を挿んで、神秘主義に魅入られる以前の、甘くメランコリックなサウンドと、神秘主義に彩られたサウンド、センス良く並べて、夢見るようなスクリャービン・ワールドを響かせる... そんな1枚を聴く。

まずは、久々に聴くスクリャービンに、クラクラ来てしまう(このアルバムに関しては、初めの内だけなのだが... )。
スクリャービンというと、どうしても「法悦の詩」といった神秘主義のイメージが強い。だが、彼のピアノ曲は、夢見るようにロマンティックでして... 何でも、かなりのうぬぼれ屋だったなんて話しを聞くと、納得のスクリャービン・ワールドだったりする。加減を知らない、甘くメランコリックな音楽... リアルな世界に生きていると、どうもこっ恥ずかしくなって、中てられもするのだが、かなりのうぬぼれ屋な分、作為を感じないロマンティックでもあって。同世代のラフマニノフのロマンティックとは一味違い、突き抜けて、浮世離れして、夢見るようにロマンティック。この夢見る感覚の先に、後の神秘主義はあるのかもしれない...
そんな音楽を、極めてクリアなベニシューのタッチが捉えれば、また独特。ロシア芸術が誇る(?)、ヘヴィーさ(例えば、この冬、最大の懸案事項だったラフマニノフの鐘とか?)から解放されて、無邪気に宙を舞うスクリャービンの音楽は、どこかフランスの音楽を聴いているよう。何より、甘くメランコリックなあたりが濃くならない。時折、あまりのムーディーさに、チープさすら漂うはずのスクリャービンのロマンティックは、ベニシューの手で、一度、解体されて、一音一音を印象派の絵画のように、点描で描き直されてゆく。すると、スクリャービンの無邪気さが捉えていた、一音一音の瑞々しい色彩が活きて、甘くメランコリックでありながらも、ロマンティックが、どこか抽象的な輝きを放ち始める。そんな表情が、ナチュラルに神秘主義を導き出し、見事にスクリャービンの2つの性格を結び付けてしまう、ベニシュー。彼は、ロマンティックと神秘主義、この異なる2つの性格を、コントラストで捉えない。そして、それを実現し得るセンス、バランス感覚に驚かされる。
しかし、上質なメランコリーだ。あまりに心地良く、何より美しい。その美しさに触れていると、やがてそのメランコリーが効いてきて、独特の酩酊感に包まれて... ベニシューのスクリャービンには、ちょっと麻薬的な魅力がある。そして、その先に、神秘の幻影を見る?いや、幻影というよりは夢見る感覚か?アルバムの後半、10番のソナタ(track.10)を過ぎたあたりから、目覚めることのない夢の中を彷徨うようで... 神秘主義は、ファンタジックな色合いを濃くして魅惑的。すっかり酔わせてくれる。で、風邪の前兆... そんな、ぼぉーっとした頭には、ベニシューのスクリャービンが、余計に効いてくる。

JONATHAN BENICHOU Alexandre Scriabine

スクリャービン : ピアノ・ソナタ 第3番 嬰ヘ短調 Op.23
スクリャービン : 練習曲 Op.42 より 第4番、第5番
スクリャービン : ピアノ・ソナタ 第5番 Op.53
スクリャービン : 練習曲 Op.8 より 第11番、第12番
スクリャービン : ピアノ・ソナタ 第10番 Op.70
スクリャービン : 練習曲 Op.65 より 第2番、第3番
スクリャービン : 詩曲 『炎に向かいて』 Op.72

ジョナタン・ベニシュー(ピアノ)

SISYPHE/SISYPHE 015




nice!(0)  コメント(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ:音楽

nice! 0

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

Facebook コメント

トラックバック 0

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。