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冬の旅... ドイツからノルウェーへ。 [2009]

ここのところ、寒さが際立ってきて... ま、冬なのだから当たり前ではあるのだけれど... 寒いのには、参る。が、冷え切った冬の大気が持つ透明感というのは、突き抜けていて。「年の瀬」だなんだと忙しなくしていると、時折、見上げる空が、よりクリアに感じたり。夜の星の瞬きなどは、またさらに。冬至は過ぎたが、そんな「冬」が極まるこれから、静かに聴いてみたくなるリートのアルバム、2つ。マーク・パドモア(テノール)が歌う、シューベルト、『冬の旅』(harmonia mundi/HMU 907484)と、ヨハネス・ヴァイザー(バリトン)が歌う、グリーグの歌曲集(SIMAX/PSC 1310)を聴く。
今年を振り返ると、リートを聴くことが少なかったようにも感じ、このあたりで、ガッツリと...
まさに、冬の旅... ドイツからノルウェーへ。


ドイツ、パドモアの冬の旅は...

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イギリスのベテラン、"ピリオド"の世界を中心に活躍するテノール、マーク・パドモア。その、突き抜けた透明感を湛える歌声は、なかなか他には探せない。前作、ブリテンの歌曲集(harmonia mundi/HMU 907443)では、パーセルや、イギリスのトラッドをアレンジした作品を編み込んで、20世紀の作品でありながら、独特の瑞々しさを放つブリテン作品をクリアに響かせて、印象的だった。そして、最新盤は『冬の旅』。シューベルトのダーク・サイド... 湿り気を含んで、薄暗い、『冬の旅』の世界を、パドモアの透明感が捉えると、どんな風に響くのだろうか?
それは、まさに透明な『冬の旅』。そのクリアな世界に、体感温度はさらに下がるよう... しかし、暗くはない。キーンと冷えた冬の旅は、雪雲が重く垂れ込める下を歩くようなことはなく、湿度は下がって、かなりドライ。さらりとしていて、どこかフラットで、不思議な感触。で、さらりと聴けてしまう。その旅は、あっという間の出来事のようで、気が付けば終わっていた... というほど、さらりと過ぎてゆき... 漠然とある『冬の旅』のイメージからすると、それは、とてもライトな仕上がり。そのライトさに、肩透かしを喰らう。のだが、その透明な世界に耳が馴染んでくると、これまでとはまた違う旅を体験するようでもあり、興味深い。
今なお、若々しい、パドモア、独特のトーンだからこそ捉える、音楽に籠められた、ピュアで繊細な旅人の息遣い... というのか... ドイツ・ロマン主義の深い苦悩に沈溺し、深い雪の中を、一歩一歩、踏み締めながら歩むのがこれまでの『冬の旅』であったなら、パドモアの『冬の旅』は、ICE(ドイツの新幹線... )に乗りながらの冬の旅か?冬の空気感の中を疾走してゆくICE、流れてゆく冬の車窓を見つめ、何かを思いながらそっと溜息を吐くような、映画のワン・シーンのような感覚?そこに、目に見える大きなアクションは無くとも、そのワン・シーンから全てを語りつくしてしまうような瑞々しさが、1曲1曲から漂う。
連作歌曲に芝居掛かったドラマティシズムを見出すのではなく、旅人の一瞬一瞬を切り取って、ひとつひとつの何気なさの中に、背景に潜むドラマティシズムを透かして見せる、パドモア流の『冬の旅』。パドモアならではの透明感を駆使し、ただならない器用さがあってこそ生み出される冬の旅は、程好いセンチメンタルと、冬ならではの空気感と、その空気感の中で輝く、美しい冬のシーンを綴って、心地良くすらある。そして、21世紀的(安易に使いたくないのだけれど... )な『冬の旅』。現代人として、より共感できる感覚を、パドモアが生み出したライトさに見出せた気がする。

SCHUBERT Winterreise MARK PADMORE - PAUL LEWIS

シューベルト : 『冬の旅』 D.911 Op.89

マーク・パドモア(テノール)
ポール・ルイス(ピアノ)

harmonia mundi/HMU 907484




ノルウェーにて... ヴァイサーが歌う温もりのグリーグ。

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ヤーコプスによるモーツァルト、オペラ『ドン・ジョヴァンニ』(harmonia mundi/HMC 801964)で、タイトル・ロールに抜擢され、一躍、気になる存在に... 新たなスターとなるのか?ノルウェーの若きバリトン、ヨハネス・ヴァイサー(b.1980)。彼のソロ・デビューは、ノルウェーを代表する作曲家、グリーグの歌曲を歌うアルバム。のだが、グリーグの歌曲は、初めて聴くのかもしれない... で、「グリーグ」という名前は、重々存じ上げているわけだが、意外とその作品、全体像に関しては、知らなかったり... ピアノ協奏曲と、『ペール・ギュント』。それから、『ホルベア... 』や、抒情小曲集もあるか... と、改めて振り返ってみるのだけれど。歌曲はどんな感じなのだろうか?と、新鮮な思いで向き合うことになったヴァイサーのグリーグ歌曲集。透明な『冬の旅』の後だからか、どこか温かな印象を受ける。そして、メロディックなあたりがやさしげで... それは、「ソルヴェイグの歌」を思い出させるトーン。さらに、ヴァイサーの歌声が、また素敵で...
ドン・ジョヴァンニに抜擢されるだけに、その艶やかで魅惑的な声には、聴き惚れるばかり。また、同じノルウェーの作曲家による歌曲(デンマーク語、ノルウェー語、ドイツ語による... )ということもあってか、『ドン・ジョヴァンニ』以上にのっていて(ヴァイサーの歌を聴けるのは『ドン・ジョヴァンニ』ばかりではないが... )、軽やかで、水を得た魚のように、しなやかに歌い上げる。すると、ノルウェーの土に根差した、素朴で、温かなグリーグのメロディ、時に豪快なサウンドは、柔らかな輝きを放って、美しく。何より、人懐っこく、耳に纏わりついてくるような、気の置けない気分を漂わせ、聴く者を無条件にくつろがせる。ドイツ・リートにはない肌触り... この温もりを感じさせるサウンドは、今の季節にしっくりくるようで、魅了される。
そして、デンマーク出身のピアニスト、セーアン・ラストギの演奏も瑞々しく、印象に残る。ヴァイサーの後ろで、センチメンタルに翳りを見せたかと思えば、キラキラと輝くタッチで、花やかに彩りもし... 控え目ながらも、その豊かな表情は、このアルバムのもうひとつの魅力。さり気なくも存在感のある演奏を聴かせてくれる。また、そんなラストギのピアノだからこそ、ヴァイザーの魅力はより引き立ちもし、2人とコラヴォレーションは、まさに絶妙。この2人による、さらなるアルバムを聴きたくなってしまう。

VISITING GRIEG JOHANNES WEISSER, BARITONE SØREN RASTOGI, PIANO

グリーグ : 『心の歌』 Op.5
グリーグ : 9つの歌、ロマンスと歌 Op.18 より
   森の散歩/愛しいひとはとても色白で/詩人の最後の歌/詩
グリーグ : 5つの詩 Op.26 より
   ここちよい夏の夕べにさまよい/森の小道で
グリーグ : A.O.ヴィンニェの詩による12のメロディ Op.33
グリーグ : 6つの歌 Op.48 より
   いつの日か、わが思いは/青春時代に

ヨハネス・ヴァイサー(バリトン)
セーアン・ラストギ(ピアノ)

SIMAX/PSC 1310




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