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それは、わたしの恋人... ハープ。 [2009]

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ケルトから、ヴェルサイユへ... 渋めの世界から、華やかな世界へ、また気分を変えてみて...
"LE SALON DE MUSIQUE DE MARIE-ANTOINETTE"(ambroisie/AM 179)、それは、マリー・アントワネットの音楽サロン... オーストリアから、ヴェルサイユへと嫁いだマリー・アントワネット。ハープを好んで演奏していたとのこと。そんなマリー・アントワネットのサロンを再現するアルバム。フランスのハーピスト、サンドリーヌ・シャトロン(1799年、エラール社製、シングル・アクション・ハープを使用... )の新譜を聴いてみる。少し前(=数年前)、話題になった、マリー・アントワネットが作曲したという歌曲、「それは、わたしの恋人」も収録されて... 革命前の、ヴェルサイユのサロンにトリップ。

というと、優雅なイメージが、すぐに頭に浮かぶ。さらに、ハープともなれば... が、その1曲目を聴いてみると、ちょっとイメージは覆る?フランチェスコ・ペトローニ(1744-1819)の、スペインのフォリアによる12の変奏は、"フォリア"だけに、アグレッシヴで情熱的。ハープでフォリア?というのも意外で、新鮮。また、シャトロンのハープが、思いの外、力強く"フォリア"を捉えていて、ポロポロポロン... と、優雅なハープのイメージとは趣を異にするようで。モダンのハープとは違う、マリー・アントワネットの時代の、"ピリオド"のハープというあたりが、スパイスとなって、インパクトを生み、ちょっと驚かされる。
現代音楽のスペシャリスト集団、アンサンブル・アンテルコンタンポランにも参加していた、サンドリーヌ・シャトロン... そんなキャリアは、"ピリオド"のフィールドでも反映されるのか?音のひとつひとつが疎かにされることなく、雰囲気で作品を捉えるなんて、甘いことはしない。そうして生まれるクリアな響きは、ハープの安易なお淑やかさを断ち切るようで、印象的。ハープが、やわらかさを手に入れきれてはいない、18世紀末のハープという性格もあるかもしれないが、シャトロンの、まったく迷いの無い指先が放つ、力強い音は、ハープの撥弦楽器の性格をより際立たせ、刺激的。それは、モダンのハープの優美さを思い返せば、ちょっと硬質に感じなくもないが、粒立ちの良さは間違いなく。だからこそ、神経の生き届いた繊細さも生まれて。何より、ハープという楽器の存在感が増すよう。
だが、マリー・アントワネットの音楽サロン... 綴られる音楽は、しとやかで、上品で、優美で、「マリー・アントワネット」な夢を壊すことのない、お洒落なサウンドに満ち満ちている。それは、ヴェルサイユ。というより、プチ・トリアノン?親しい人たちだけで集う、気の置け無さが漂っていて...
シャトロンのハープだけではなく、ステファニー・ポウレのヴァイオリン、アメリ・ミシェルのフラウト・トラヴェルソも加わり... それぞれ、ハープとの相性良く、軽やかで、どこかほのぼのとした音を響かせて、魅力的なアンサンブルを聴かせてくれる。そして、このアルバム、もうひとつの主役とも言えそうな、歌だ... フランス、リリクの伝統、トラジェディエンヌ!なソプラノ、イザベル・プルナール。カストラートを嫌ったフランスならではの、オート・コントル的な声を響かせるテノール、ジャン・フランソワ・ロンバール。丁寧に歌われる、この2人の歌が、また素敵で。ロンバールによるフランス語版でのオルフェオのアリア(track.2)、プルナールによるクルムフォルツのエール(track.3)は、思いの外、ドラマティックで、鮮烈。グレトリのオペラ・バレからは、2重唱(track.20)が歌われ、シアトリカルな気分も盛り込まれ... 当時、人気のあったオペラを、気軽に、身近で楽しんでいたマリー・アントワネットの様子を垣間見るよう。そして、マリー・アントワネットの作品、「それは、わたしの恋人」(track.15)も... 控え目な作品の愛らしさを、素直に歌い、このアルバムのすばらしいアクセントとしたプルナール。歌うべき人が歌えば、王妃の趣味も、間違いなく活きてくる。
それにしても、見事にまとめられたアルバム!
ペトリーニ、カルドン、クルムフォルツと、当時のハープのヴィルトゥオーゾたちの作品が並び... 当時、パリで人気を集めていたオペラ・コミック作家、グレトリに、当時、国際的な人気を博していたナポリのオペラ作曲家、パイジェッロの作品も取り上げられて... ドーヴェルニュ、マルティーニと、ヴェルサイユの音楽部門の要職にあった作曲家たちの作品が並び... マリー・アントワネットと親しかったサン・ジョルジュ、ドゥシークの作品も並び... マリー・アントワネットの先生であり、そのコネクションからパリに進出し、大成功するグルックのアリアに... マリー・アントワネットにプロポーズしてしまったモーツァルトの作品...
ハープという楽器で、マリー・アントワネットの音楽生活に、驚くほど迫りつつ、そのスウィートな生活ぶりを、さり気なく、美しく再現して。さらに、マリー・アントワネットという視点を用いることで、音楽史の中で語られる教科書的な18世紀末の音楽ではなく、その当時の、活き活きとしたヨーロッパの音楽シーンを切り取って、興味深く。このアルバム、かなり侮れない。

LE SALON DE MUSIQUE DE MARIE-ANTOINETTE SANDRINE CHATRON

ペトリーニ : スペインのフォリアと12の変奏 Op.28
グルック : オペラ 『オルフェとユリディス』 から エール 「ユリディスを失って」 **
クルムフォルツ : エール・パロディエ 「傷ついた恋人」 *
クルムフォルツ : ロマンス 「深遠なる夜」 *
カルドン : ハープのためのソナタ 変ロ長調 Op.7-1
クルムフォルツ : メッゾ・キャラクテールな情景によるソナタ ヘ長調 Op.15-2 *
ドーヴェルニュ : 3つのシャンソン **
サン・ジョルジュ : フルートとハープのためのソナタ 変ロ長調 *
マリー・アントワネット : ロマンス 「それは、わたしの恋人」 *
モーツァルト : 鳥たちよ、毎年 K.307(284d)  *
デュセック : ハープのためのソナティネ 第5番
パイジェッロ : オペラ 『ヴェネツィアのテオドーロ王』 から 間奏曲
グレトリ : オペラ・バレ 『カイロの隊商』 から 2重唱 「むごい運命にも」 **
マルティーニ : 愛の喜び ****
モーツァルト : グラス・ハーモニカのためのアダージォ K.356(617a)

サンドリーヌ・シャトロン(ハープ : 1799年、エラール社製、シングル・アクション・ハープ)
イザベル・プルナール(ソプラノ) *
ジャン・フランソワ・ロンバール(テノール) *
ステファニー・ポウレ(ヴァイオリン) *
アメリ・ミシェル(フラウト・トラヴェルソ) *

ambroisie/AM 179

アルバムの最後、ハープで弾く、モーツァルトのグラス・ハーモニカのためのアダージォ(track.22)が、なんとも言えない。やさしく、美しいメロディは、まどろみの中、遠くで響くような、そんな音楽でもあって。どこか、浮世離れした感覚も... 楽しいサロンでの音楽の後で、子守歌のようでもあり、マリー・アントワネットのその後の人生を予兆するようでもあり... その切な気な表情が、忘れ難い。




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