ダフニスと、クロエと... シェエラザード...

再編集とはいえ、いきなり、ドビュッシーのアルバムを2枚リリース(NAXOS／8.570759, 8.570993)。昨冬、NAXOSにて、ドビュッシーの管弦楽作品のシリーズをスタートさせた、ジュン・メルクルと、彼が率いるリヨン国立管弦楽団。フランスにしてドイツ的？フランスではあっても、パリではなく、リヨン... そんな興味深いスタンスからのドビュッシー・サウンドが新鮮で、印象的だったのだけれど、今度はラヴェル(NAXOS／8.570992)。メルクル、ドイツでのホーム、ライプツィヒから、合唱団を招いてのバレエ『ダフニスとクロエ』。それと、歌曲ではなくて序曲の"シェエラザード"。クリアに響かせたドビュッシーが、なかなかおもしろかっただけに、メルクル+リヨン国立管のラヴェル、大いに期待して聴いてみる。

が、ドビュッシーとはまた違う感覚？独特の躍動感を以って捉えられるラヴェルの音楽世界は、そこに、体温を感じさせるような、艶めかしさが籠められているようで...
ロンゴスによる、古代ギリシアの牧歌的な風景の中で描かれる、若い恋人たちのピュアな恋愛物語。その、青春の輝きが、多くのアーティストにインスピレーションを与えてきたわけだが、メルクル+リヨン国立管の『ダフニスとクロエ』は、フレンチな気分を煮詰めて、グラマラスな香りを抽出し、幻惑するようなところがある。もちろん、ラヴェルの音楽自体が、芳醇なオーケストレーションで支えられ、すでにグラマラスではあるのだけれど、メルクルは、そんな音楽をより刺激して、科を作ってみせる？第1部、ダフニスとクロエの、恋の始まりでは、そうした雰囲気が強調されるよう。
続く、第2部... 間奏曲(track.10)で歌われる無伴奏のコーラスが印象的。ドビュッシーの夜想曲(NAXOS／8.570993)でもそうたったが、ライプツィヒMDR放送合唱団を、わざわざ呼ぶだけのことはある。オーケストラが繰り出す艶めかしい空気を、クリアなハーモニーが生み出す神秘性で変えてみせて、物語を引き締める。舞台裏で歌わされ、歌われるシーンはみなスキャット... 場合によっては省略可... そんな扱いの『ダフニスとクロエ』におけるコーラスだが、間奏曲のみならず、きっちりと存在感を示して、見事、オーケストラ・サウンドと相俟って。さすがはドイツのコーラス！
そして、第3部。その始まりの、「夜明け」(track.13)が見事で... メルクル+リヨン国立管が生み出すサウンドは、ラヴェルの色彩豊かなパレットすら超えてくるような、"総天然色"のヴィジョンを響かせる。夜明けのグラデーション、朝のヴィヴィットな空気感... 朝の匂いすら嗅げそうな、そんな感覚すらあって美しく。続く、「無言劇」(track.14)、フルートの素直な響きが忘れ難く。艶めかしく、匂い立つオーケストラの上を、ひらひらと、無垢な蝶が舞うような、そんな印象も。そうして、突入する、最後の、アグレッシヴな「全体の踊り」(track.15)。スポーティーですらあるこのフィナーレを、スタイリッシュに流さない、濃密な躍動感で描き上げるメルクル。それは、より"踊り"であることを強調するような感覚でもあって、ダンサー、ひとりひとりのアクションが見えてきそう。一味違う聴き応えがある。
N響定期のお馴染みの指揮者として、MDR交響楽団の首席指揮者として、そして、リヨン国立管弦楽団の音楽監督として、オーケストラでの活躍が著しいメルクルではあるが、コレペティトゥア、オペラハウスからの叩き上げ... バレエ『ダフニスとクロエ』には、劇場人としてのメルクルの性格が反映されているのか、シアトリカルで、よりダンサブルに感じられる。普段は、オーケストラのレパートリーとして聴く『ダフニスとクロエ』だが、メルクルによる『ダフニスとクロエ』は、オーケストラのレパートリーとしての、物語へのドライな向き合い方とは違う、一歩踏み込んだ感覚がおもしろい。

さて、最後に、歌曲ではなくて序曲の"シェエラザード"(track.16)だ。歌曲ならば聴くわけだが、序曲とは... その存在、初めて知ることに。けして多くはないラヴェルの管弦楽作品だが、まだ知らぬ作品があったことに、新鮮な思いをしてみる。その『シェエラザード』序曲、ラヴェルの最初の管弦楽作品になるのか？ブレイクする以前の作曲のよう。だが、ぼんやりとエキゾティックで、ラヴェルならではのエッセンスはすでに香り、"シェエラザード"が魅惑的に描かれる。

RAVEL: Daphnis et Chloé

■ ラヴェル : バレエ 『ダフニスとクロエ』　*
■ ラヴェル : 『シェエラザード』 序曲

ジュン・メルクル／リヨン国立管弦楽団
ライプツィヒMDR放送合唱団　*

NAXOS／8.570992

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