SSブログ

鼻。発見! [2009]

MAR0501.jpg09op.gif
1010.gif
21世紀、メジャー・レーベルが衰弱していく中で、次々にオーケストラの自主レーベルが立ち上げられて... そうした流れは、オペラハウスにも波及しつつあるのか?ゲルギエフ率いるマリインスキー劇場も、自主レーベルをスタート!さすがはゲルギエフ、意欲的... という一方で、ゲルギエフが、いるべき場所で、この人ならではの仕事を、コンスタントに録音してくれることがとても楽しみで... (一安心でもあったり?)
そんな、マリインスキー劇場の自主レーベル"MARIINSKY"。第1弾は、ショスタコーヴィチのオペラ『鼻』(MARIINSKY/MAR 0501)。もちろん、ヴァレリー・ゲルギエフ率いるマリインスキー劇場、ロシアの実力派のキャストを取り揃えて... チーム・マリインスキーによる若きショスタコーヴィチの、才気、漲る、オペラを聴く。

ショスタコーヴィチのオペラというと、昔(ポクロフスキーあたり、よく『鼻』を取り上げていた頃?1980年代?)は、『鼻』ばかりだったように思うのだが、いつの間にやら『ムツェンスク郡のマクベス夫人』に取って代わられたような... そんなイメージがある。で、自分は、ちょうど、取って代わられた後の世代?にあたるようで、『鼻』に触れる機会を逸してきた。そこに、ゲルギエフ+マリインスキー劇場による『鼻』のリリースは、なんとも新鮮!初めて聴くショスタコーヴィチ作品にワクワクさせられる。そして、期待を裏切らない!
社会主義レアリスムの傑作(ソヴィエトは、否定したわけだが... )、『ムツェンスク郡のマクベス夫人』(1934)は、間違いなくすばらしいオペラだが、『鼻』(1930)は、また違ったベクトルで、さらにすばらしいのかもしれない... その、とんがった音楽の、魅力的なこと!クルト・ヴァイルの世界に近付いていくような雰囲気があって、ダダイスティックな気分も響かせるサウンドもあって、まさしく、旧来のオペラに革命をもたらす、若きショスタコーヴィチの実験精神に満ち溢れた音楽は、21世紀の今なお、刺激的。
調子外れのブラスのアンサンブルで始まるプロローグは、どこかショスタコーヴィチの1番のピアノ協奏曲(1933)に通じるようなテイスト。それに続く1幕は、無調かと思えば、バラライカが色を添えて、フォークロワな臭いもし... 圧巻なのが、パーカッションによるインターリュード(disc.1, track.4)。ヒンデミットもどこかで、こんなことしていたような... その叩きっぷり、日本の祭囃子か?激しいビートを刻んで、カッコよくすらあって、何より、オペラでありながら、パーカッションだけ(!)というあたり、恐るべし... 一方、1幕、6場、カザン聖堂でのシーン(disc.1, track.7)では、聖堂に響く神秘的なコーラスが印象的。スクリャービン?いや、シマノフスキ?そんなヴィヴィットなサウンドに、ショスタコーヴィチがこういうサウンドも書いていたとは... と、驚かされる。かと思えば、ケチャ?なんても思えなくもない、エスニックさ?すら漂わせる、コーラスを巻き込んでのスラップスティックな3幕、7場(disc 2, track.1)の終わりの盛り上がり様!
すでに、ショスタコーヴィチならではのカラーに貫かれながらも、あらゆる要素が盛り込まれていて、おもちゃ箱のような音楽。また、そうした音楽が、どうしようもなくシュールな物語にぴったりで、最高!
1917年、革命が成ったロシア... 芸術表現においても革命の気分は広がり、1920年代、ロシアの芸術は、最も実験的で、挑戦的で、世界に衝撃を与えたわけだが、『鼻』は、そうした時代の集大成か。やがて、ロシア・アヴァンギャルドは、「社会主義リアリスム」という名の検閲によって、スターリンにより圧殺され、ショスタコーヴィチも、その生命すら脅かされることになるのだけれど... ロシア革命が、革命としての輝きを未だ持ち得ていた頃の、最後を飾ることになった『鼻』というオペラは、20世紀の音楽史において、重要な作品なのかもしれない。もっともっと省みられるべき作品なのかもしれない。何より、検閲下に置かれる以前の、活き活きと五線譜の上に才能をぶちまける、若きショスタコーヴィチの姿が、たまらなく魅力的。そして、その後のことを思い返せば、その屈託のないサウンドに、切なさが滲む。ゲルギエフに率いられたチーム・マリインスキーの渾身の演奏があれば、また、さらに。
その、ゲルギエフ+マリインスキー劇場、ロシアの歌手たち...
高いクウォリティを誇りながらも、若きショスタコーヴィチのシュールな世界にすっかり染まって、突き抜けた世界を創り出し、見事!ロシアの仄暗さから、シュールでチープな軽妙さまで、器用にこなしつつ、全てにおいて手を抜かない。そうして生まれるサウンドの、切れ味の鋭さ、マッドさは、このオペラの魅力を、さらにさらに押し広げているよう。そして、ゲルギエフだ。
どうも、このマエストロの、山師的なあたり、その演奏、信用しきれないところもあるのだけれど、この『鼻』では、マリインスキー劇場というホームでのセッション録音ということもあって、しっかりと腰の据わった仕事をぶりを聴かせてくれる。で、位置が定まれば、この人の才能は、滅法、活きて、ただならない。
ロシアのマエストロ(ゲルギエフは、正確にはオセット人... )が、ロシアのオーケストラ、劇場で、ロシアものを... なんて考え方は、グローバル化が進む21世紀において、時代遅れだろうけれど、ゲルギエフに限って言えば、この人の才能がきっちり活かされて輝く場所は、間違いなくあると思う。かつては、ゲルギエフがマリインスキー劇場を立て直したわけだが、今では、マリインスキー劇場が、ゲルギエフをただならず好サポートしているようにも感じられる。そんな、チーム・マリインスキーの底力を見せてくれる『鼻』... 物語、音楽、演奏、歌... 全てが絶妙!ロシア・アヴァンギャルド、フル・スロットル!

SHOSTAKOVICH THE NOSE
VALERY GERGIEV
MARIINSKY SOLOISTS, ORCHESTRA, AND CHORUS


ショスタコーヴィチ : オペラ 『鼻』 Op.15

コヴァリョーフ : ヴラジスラフ・スリムスキー(バリトン)
イワン・ヤコヴレヴィチ : アレクセイ・タノヴィツキ(バス)
警察分署長 : アンドレイ・ポポフ(テノール)
鼻 : セルゲイ・セミシュクル(テノール)
床屋の妻 : タチヤナ・クラフツォワ(ソプラノ)
医者 : ゲンナジー・ベズズベンコフ(バス)
イワン : セルゲイ・スコロホドフ(テノール)

ヴァレリー・ゲルギエフ/マリインスキー劇場管弦楽団、同合唱団

MARIINSKY/MAR 0501




nice!(0)  コメント(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ:音楽

nice! 0

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

Facebook コメント

トラックバック 0

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。