SSブログ

21世紀、チェロ仙人。 [2009]

HMC901973.jpg
1010.gif
ヤーコプスの『イドメネオ』、シャタイアーのシューベルトに続いて、ケラスの最新盤を聴くのだけれど。harmonia mundiのアルバムが続く... で、すでに、今年、6タイトル目だったり...
"ピリオド"に強いレーベルのようでいて、そればかりでなく、現代音楽だって、さらりとカヴァーしてしまうあたり、なかなか他にはないセンス。すでに、「老舗」なレーベルだけれど、既存の"クラシック"観からすれば、まだまだ異端児な存在感が、クール!けれど、harmonia mundiが異端児でなく、このままのセンスで、ごく普通レーベル... な状況が生まれれば、"クラシック"自体がクールになるのかもしれない... なんて、つぶやいてもみたくなる。そんな21世紀、harmonia mundiのチェロの看板息子、ジャンギアン・ケラスによる、21世紀のチェロ協奏曲集(harmonia mundi/HMC 901973)を手に取ってみる。

老舗、現代音楽専門集団、アンサンブル・アンテルコンタンポラン出身、気鋭のチェリスト、ケラス。だが、近頃は、クラシカルなレパートリーにシフト気味?タロー(ピアノ)とのドビュッシー、プーランク(harmonia mundi/HMC 902012)、ルサージュ(ピアノ)とのシューマン(Alpha/Alpha 121)... そして、前作は、自身が率いるカルテット、アルカント四重奏団とのブラームス(harmonia mundi/HMC 902000)。で、振り返ってみれば、ケラス名義で、現代モノのアルバムを、未だリリースしていなかった?そこに登場した最新盤、21世紀のチェロ協奏曲集への期待は、大きい...
ブルーノ・マントヴァーニ(b.1974)、フィリップ・シェーラー(b.1958)、ジルベール・アミ(b.1936)という、フランスの現代の作曲家たちによる、チェロ協奏曲、3作品。それぞれ、2000年(アミ)、2003年(マントヴァーニ)、2005年(シェーラー)に、ケラスによって初演された作品(アミ作品は、サントリーホールの委嘱、初演... )を収録。まさに21世紀(2000年は、20世紀だったりするのだけれど... )、ジャスト"ゲンダイオンガク"なサウンド。「入門編」なんていう甘さを断ち切った、硬派なサウンドを集めて、現代モノのスペシャリスト、ケラスの音楽性が、如何なく発揮される。
一方で、3人の作曲家の世代が、綺麗に分かれていて。現代っ子、マントヴァーニ... 第二次世界大戦後生まれのシェーラー、戦前生まれのアミと、世代を遡って行くにつれ、そのサウンドは、モダンの残り香を濃くし、どれも、21世紀、最初の5年までに書かれた作品ではあるのだけれど、近代から現代へのグラデーションを描くようでもあり、なかなか興味深い。それでいて、このアルバムに収められた3人、ドビュッシーの子孫たちであることを感じさせるフランスのトーン?ヴェーベルンのこどもたちとは一味違う繊細さが、"ゲンダイオンガク"にして、美しい表情を垣間見せ、印象的。
スペクトル楽派のイディオムを咀嚼して、よりポエティックに編まれるシェーラーの風の目(track.2-5)。その、ユニヴァーサルな響きが織り成す世界(IRCAM的ポエジー溢れる音響の海... なんて... いや、この感覚、好き... )に、ケラスのチェロが漂い、ヴィヴィットでありながら、全体のイメージは「静」という、不思議な感触が印象的。そして、武満徹にオマージュの捧げられたアミのチェロとオーケストラのための協奏曲(track.6-12)では、ほのかに日本のイメージ(track.11)が漂い、雅楽のようなセンスと、もちろん、美しい晩年の武満風もそこにあって、おもしろく。それでいて、アミの、メシアンの下で学んだというあたりを感じさせてくれる、非西洋的な感覚がスパイスにもなり、ケラスのチェロも、どことなしにアジアンに艶めかしく、魅惑的。また、若いマントヴァーニ、シェーラーに比べ、より輪郭のはっきりとした音楽(このあたり、「現代」よりも「近代」のイメージ... )が、「聴き応え」にもつながって、このアルバムをしっかり締めてくれる。
そうした3作品を、手際よく弾きこなすケラス... テクニックのすばらしさは今さらながらだけれど、そこから繰り出される響きというのは、チェロという楽器を超えてくるイメージすらあって、クラシカルな作品では味わえない鋭さ、スリリングさ、先の読めない様々な表情が、たまらない。そのルックスは、なんとも「好青年」で、ひょろっとした、ナイーヴなイメージのケラスだけれど、この人から繰り出される音楽というのは、あまりに揺るぎなく、確固とした、圧倒的な存在感があって、どこか人間を超越してしまったイメージすらある。また、そういうケラス像を前面に出してくる3作品でもあり、21世紀のチェロ協奏曲集でありながら、ただならぬケラス(まるで、チェロ仙人?)の、ポートレートになっているこのアルバムは、なかなか刺激的。
なのだが、気になるのは、マントヴァーニ作品でのオーケストラ... どうも、この作曲家、特有の、鋭敏な感覚を、捉えきれていないような... シェーラー、アミ作品ではフランスのオーケストラが起用されているのだけれど、フランスの作品には、フランスのオーケストラが合うのか?他の2作品とは、何か違う感覚があって、もどかしく感じる。のは、マルッキ+アンサンブル・アンテルコンタンポランによるマントヴァーニ作品の記憶が強く残り過ぎているからか?

MANTOVANI - SCHOELLER - AMY Concertos du XXIe siècle J.-G QUEYRAS

マントヴァーニ : チェロとオーケストラのための協奏曲 *
シェーラー : 風の目 〔チェロとオーケストラのための協奏曲〕 *
アミ : チェロとオーケストラのための協奏曲 *

ジャンギアン・ケラス(チェロ)
ギュンター・ヘルビヒ/ザールブリュッケン放送交響楽団 *
アレクサンダー・ブリジェ/フランス国立放送フィル *
ジルベール・アミ/パリ管弦楽団 *

harmonia mundi/HMC 901973




nice!(0)  コメント(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ:音楽

nice! 0

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

Facebook コメント

トラックバック 0

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。