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シュタイアー・ワールド。シューベルト・タイム。 [2009]

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アンドレアス・シュタイアー、稀代の鍵盤楽器奏者...
"ピリオド"という、制約を受けるフィールドにいながらも、そのレパートリーは恐ろしく広く。チェンバロでバッハを弾いたかと思えば、フォルテピアノでモーツァルトを弾き、19世紀をもカヴァーし、勢い余って、現代作品まで... 近頃は、ますます縦横無尽で、リリースされるアルバムごとに、違う表情を見せてくれて、驚かされる。そんなシュタイアーが、久々に取り上げるシューベルト。1827年、コンラート・グラーフのレプリカで弾く、最新盤。18番のソナタと、D.935の4つの即興曲(harmonia mundi/HMC 902021)。早速、聴いてみることに。

16番のソナタと、最後の3つのソナタ(19、20、21番)を、90年代に録音しているシュタイアー。随分と時間が開いて、再びのシューベルトは、18番、「幻想」ソナタ。ということで、かつての録音を、久々に引っ張り出して聴いてみれば、繊細で、ナイーヴで。ガラス細工のような、儚げな音楽に、息を呑む。フォルテピアノだからこその、セピア色のセンチメンタルな気分が、まだまだ初々しいロマン派のサウンドをしっかりと捉えて、美しく... また、古典派の残り香が、ふわっと漂うようで、たまらなくノスタルジックでもあったり... そんなイメージから、最新盤の18番、「幻想」ソナタを聴くと、はっとさせられる。
久々に扉を開けたら、思いがけなく、広い草原が広がっているような、そんな感覚?そして、最初の一音から、ただならない... さすがは稀代の鍵盤楽器奏者!シュタイアーの新たなシューベルトを聴いていると、牧歌的な風景(ジャケットのフリードリヒの風景画が、また印象的... )が浮かぶのだけれど、牧歌的ではあっても、単に美しい風景が広がるのではなく、日差しや、風や、草の匂いまで感じられそうで。広がりばかりでない、広がりの中に、密度も感じられるヴィヴィットさ。ちょっと、ゾクっとくる。また、そんな風景の中を、一歩一歩(一音一音)、踏みしめて、前へ前へと歩んで行くアクティヴな感覚が、時を越えて、作曲家の歩みと息づかいに、シンクロしていくようでもあり。
「幻想」、そんなおぼろげなイメージではなく、もっと確かな存在感があって。シュタイアーのタッチは、そこはかとなしに力強く、そうしたあたりは、まさにロマン主義か。フォルテピアノだからといって、セピア色のトーン、センチメンタルな気分を強調するでもなく、けして儚げでもない、ステレオタイプに囚われず、自由に鳴り響かせてくるシュタイアーの大胆さに、改めて感服させられる。いや、ますますそういう方向性を強めている?"ピリオド"であることに、抗うかのような大胆さを見せつつも、そこには、作曲家の真実に迫るような迫力があって。また、大胆だからこそ、行間から滲み出す感情も漂い。作曲当時、28歳、そして、死の2年前... シューベルト、若き晩年の心象が、そこに響いているようでもあり、印象深い。
チェンバロ、フォルテピアノ... アンドレアス・シュタイアーという人物が鍵盤に触れると、そこに立ち現われるのは、"ピリオド"楽器を越えたスケール感と、「どこでもドア」的に、ダイレクトに作品が存在した時代、場所につながってしまうような、独特の聴き応え感。音が、存在感や、時に、生々しさまで孕み、作品を鑑賞する... というレベルを越えて、聴く者と共鳴していくような、ちょっと不思議な感覚がある。間違いなく、モダンのピアノでは、到達し得ない世界。
かつては、「古楽器」を如何に美しく鳴らすか... そして、美しく、繊細に鳴らしていたシュタイアーだったが、今は、その楽器を越えて、シュタイアーそのものを感じられるようになって、シューベルトの「ピリオド(時代)」に迫る。シュタイアーのシューベルトが流れている間は、まるで、シューベルトの時間の中で、ひと時を過ごすかのよう。古楽器ともなれば、楽器ひとつひとつで、そのイメージは変わるだろうし、そういう繊細な楽器だからこそ、録音によってもイメージは変わるのかもしれない... が、シュタイアーのかつてのシューベルトと、今のシューベルトは、そうしたレベルを越えて、大きく印象が変わる。

さて、ソナタの後で、D.935の4つの即興曲を聴くわけだが...
その「即興」性を喚起させる、流れるような1曲目(track.5)。ミニマル?なんても思わせるシューベルトのパルスが、とても、とても心地良く。2曲目(track.6)、そのヴァリエーションも、パルスの点描が描く、淡い表現が、たまらなく美しく。また、耳に馴染んだキャッチーなメロディ、3曲目(track.7)は、どこかキッチュにも響かせられ、「即興」性と相まったところで、ジャジーな可能性も、わずかに臭わせて、遊んでるようにすら感じるシュタイアーのタッチ。ヘヴィーさと軽妙さと、ダンサブルな魅力で爆ぜる4曲目(track.8)は、クール... やはり、自由自在で、縦横無尽!

FRANZ SCHUBERT Sonata no.18 – Impromptus ANDREAS STAIER

シューベルト : ピアノ・ソナタ 第18番 ト長調 D.894 Op.78 「幻想」
シューベルト : 4つの即興曲 D.935 Op.142

アンドレアス・シュタイアー(ピアノ)

harmonia mundi/HMC 902021




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