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ヤーコプス・マジック。 [2009]

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1999年(だよね?)、衝撃のリリース、『コジ・ファン・トゥッテ』(harmonia mundi FRANCE/HMC 901663)に始まる、ヤーコプスのモーツァルトのオペラ... ダ・ポンテ3部作では、絶妙な息づかいで、ドキドキしてしまうようなドラマに仕立て、驚かされ... 3年前のモーツァルト、生誕250年のメモリアルでは、ブッファだけでなく、『ティートの慈悲』(harmonia mundi FRANCE/HMC 901923)を取り上げて、ヤーコプスによるモーツァルトのオペラの、さらなる展開を期待し... 『コジ... 』から10年、やっと、5作目となる最新盤が登場!若きモーツァルトの意欲作、オペラ『イドメネオ』(harmonia mundi/HMC 902036)。
クロフト(テノール)のタイトルロール、イドメネオに、フィンク(メッゾ・ソプラノ)のイダマンテ、スンヘ・イム(ソプラノ)のイリア、ペンダチャンスカ(ソプラノ)のエレットラと、ピリオド系の実力者がきっちりキャスティングされ... 要所要所でドラマを盛り上げるコーラスには、RIAS室内合唱団... そして、ヤーコプスとの仕事では、化学変化(?)を起こすピリオド・オーケストラ、フライブルク・バロック管弦楽団と、期待せずにはいられない強力なチームによる、オペラ『イドメネオ』を聴く!

ブッファでの、体温すら感じてしまいそうな生々しいドラマの一方で、セリア、『ティートの慈悲』(ヤーコプスによるモーツァルトのオペラ、3作目... )は、ヤーコプスにして、どこかもうひとつ殻を破れなかった印象もあって... セリアよりブッファ向きの人なのか?と、頭のどこかで過りながら聴き出すヤーコプスのセリア、『イドメネオ』。そんな先入観からか、どうも序曲が重いように感じてしまう。ヤーコプスならではの躍動感に欠けるようで、硬いような... フライブルク・バロック管のエンジンの掛かり方は、いつもより遅い?
が、そんな気分を吹き飛ばしてくれるスンヘ・イムが歌うイリア、最初のシーン(disc.1, track.2-4)!まったくもって、幕開けから、なんとドラマティックな!それでいて、美しく可憐なイムの声... キャスリーン・バトルを思わせるようなクリーミーさとキュートさがとても印象的で、彼女の見方が変わるよう。これまで、小さな役から、着実にピリオドの世界でポジションを得てきたわけだが、イリアで、こんなにもインパクトを与えてくれるとは!まさに、トロイのプリンセス(=イリア)にまで登りつめた!というような、そんな自信と、その自信から発せられる、迷える王女のドラマを、見事、最初のレチタティーヴォ、アリアで、見せきってしまう。ウーン、唸るしかない。かつ、そんなドラマティックな音楽に、早くも陶酔態勢...
そんな、イム=イリアの熱演に応えてか、フライブルク・バロック管も、エンジンがしっかり掛かって、後は、白熱の音楽ドラマ... 疾風怒濤の余韻が残るオペラならではの、音楽ジェット・コースターだ。ブッファに比べ、セリアはつまらない... なんて、よく言われることだけれど、スリリングな演奏があれば、これほど刺激的で引き込まれるドラマはない。ヤーコプス+フライブルク・バロック管により、息つく暇なく描かれる、トロイ戦争後に降り掛かる、クレタ王室の苦悩。その全3幕(3枚組)は、あっという間だ。この時間の感覚こそ、ヤーコプス・マジック!"クラシック"として、あるいはセリアとして、下手に取り繕うことなく、生身の、等身大の人間像を彫り出すことに長けたマエストロが創り出す、高いテンション。歌手たちは、そんなマエストロに巧みに乗せられ、導かれ、ひとりひとり、活き活きと苦しみ、悶え、怒り...
タイトルロール、イドメネオを歌う、クロフト。その、輝かしく、クリアな声に、この王の真面目さ見つつ、息子思いの優しい父の、ソフトな表情に、魅了されずにはいられない。が、そこから繰り出されるコロラトゥーラは、まさに舌を巻くテクニック。その様は、圧巻でありながら、まったく嫌味なく、無理なく、不思議なほどナチュラル... そんな風に、余裕綽々で、困難なコロラトゥーラを歌いのめしてくれるあたりは、痛快ですらある。その父、王に対して、フィンクの歌う、王子、イダマンテは、多少、貫禄があり過ぎる気もするが、さすがはピリオド界のベテラン、熟成されたイダマンテのドラマを聴かせてくれる。
そして、『イドメネオ』、最大の聴かせ所といえば、やはり、最終幕、エレットラのアリア(disc.3, track.10)。独り、苦悩の中に取り残される、怒れるミケーネの王女。その怒りの激しさが、そのまま音楽となったアリアは、それまでのドラマの全てを、さらってしまうほど... で、そのエレットラを歌うペンダチャンスカ... さらってくれます!そのマッドさは、圧巻!繊細さと激情の振幅の大きさに、クラクラくる、美しき激烈。また、マッドなプリンセスの、危ない精神状態を、見事にフライブルク・バロック管も描いて、ペンダチャンスカに憑き添い、スリリングにドラマを煽って。ハッピーなフィナーレを目前に、息を呑む。まさに、渾然一体だ。
とにかく、手に汗握るドラマを紡ぎ出すヤーコプス。ブッファとはまた違う緊張感で圧倒してくる。その緊張感から解放されてのフィナーレは、芯からハッピーで... そんなポジティヴなパワーをたっぷりと含んだサウンドの力強さは、目一杯、輝いて。最後のバレエ・シーン(disc.3, track.15-18)もカットせず、コーラスによるフィナーレと、見事、一体化させて、輝きは倍に!そんなフィナーレの姿に、唸らされる。下手をすれば、2度、フィナーレを迎えるような構造... 場合によっては、蛇足になりかねないバレエ・シーンを、コーラスからまったく違和感なく、勢いもそのままにつないで... そうか、モーツァルトは、これを狙っていたのか... などと、妙に納得も、させられたり。
さすがは、ヤーコプス!柔軟性に富んだ、この希有なマエストロの音楽性によって、腑に落ちる結果をもたらしてくれる『イドメネオ』。「古色蒼然」なんて言葉で、一切、誤魔化すことのない体当たりのセリアは、迫真のドラマを、ただそれそのもので、聴く者を虜に。そうして、浮き上がってくる、若きモーツァルトの野心的なあたり、その魅力。やっぱり、この作曲家は、ただならない。

W. A. MOZART IDOMENEO René Jacobs

モーツァルト : オペラ 『イドメネオ』 K.366

イドメネオ : リチャード・クロフト(テノール)
イダマンテ : ベルナルダ・フィンク(メッゾ・ソプラノ)
イリア : スンヘ・イム(ソプラノ)
エレットラ : アレクサンドラ・ペンダチャンスカ(ソプラノ)
アルバーチェ : ケニス・ターヴァー(テノール)
大祭司 : ニコラ・リヴァンク(バリトン)
海神の声 : ルカ・ティットート(バス)

RIAS室内合唱団
ルネ・ヤーコプス/フライブルク・バロック管弦楽団

harmonia mundi/HMC 902036




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