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シュフの夢は、夜、啓く。 [2009]

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異彩を放つピアニスト、ヘルベルト・シュフ... ラッヘンマンとシューベルトを、ひとつのアルバムに収めてしまう。という離れ業を成し遂げた前作に続いての、彼の最新盤は、やはり一味違っていて... 夜に因む作品を集めたアルバム"NACHTSTÜCKE(小さな夜曲の数々... という訳でいいのか?)"(OEHMS CLASSICS/OC 733)。
シューマン、ホリガー、スクリャービン、ラヴェル、モーツァルト!
18世紀から現代に至るまで、ロマン主義、神秘主義、印象主義... ロシアからフランスまで、あまりに幅広く作品が並べられて、前作のストイックさに比べれば、盛り込み過ぎ?なんて印象も受けるのだけれど。あのシュフがチョイスしたとあらば、前作同様、ただならないアルバムに仕上がっているはず!そんな期待を籠めて、聴いてみる、シュフの小さな夜曲の数々。

まずは、シューマンの"NACHTSTÜCKE"(track.1-4)。どこか刹那的な気分が立ち込めて、ロマン派の、メランコリックなシューマン... というよりは、現代に通じる感覚を探って、「夜」を表現してくるシュフのピアノが印象的。そして、このアルバムの最も大胆な選曲、ホリガーの"NACHTSTÜCKE"、エリス(track.5-7)。まさに"ゲンダイオンガク"な、厳しい表情を見せるその音楽。けれど、シュフのピアノは、その行間に、わずかに甘やかな余韻を残すようで、孤高の作曲家(オーボエ奏者としては、言わずと知れた大巨匠だが... )、ホリガー(b.1939)の音楽世界を、シューマンから巧く引き継ぎ、また、その甘やかな余韻に、次のスクリャービンへの、ファンタジーの予感めいたものを漂わせる。
クラシカルな夜と、前衛の夜。ひとつの夜の違うシーンとして、それらをつないでいくような感覚がこのアルバムにはあって、ぶつかり合うのではなく、次のシーンへの鍵となっていくような展開に、シュフのセンスが光る。そうして、圧巻のファンタジーが展開されていくのが、スクリャービンのピアノ・ソナタ、「黒ミサ」、ラヴェルの「夜のガスパール」が並べられた、アルバムの後半!ともに難曲でありながら、軽々と、手中に収められいて。作品が、完全にシュフの制御下に置かれていることを感じ、そのあたりが、たまらなくクール!そうして、十分な余裕を以って奏でられる夜の表情には、聴き入るばかり。
ファンタジックで、どこか煌びやかですらあるシュフの「黒ミサ」(track.8)。暗闇の中に、キラキラとしたイルミネーションを追うような感覚が、「黒ミサ」というおどろおどろしいイメージを超えて、夜へのドキドキとした期待感を掻き立ててくるよう。一方、「夜のガスパール」(track.9-11)では、夜のヴィヴィットな表情で充たして、夜の匂いすら感じられてしまいそうな、繊細さがありつつ... そんな夜の中を、スリリングに遊ぶような、魅惑的なタッチで、聴く者を心地よく酔わすようでもあり...
シュフの"NACHTSTÜCKE"は、まるで夜の遊園地。大上段に構えて、ことさら「夜」について語るのではなく、夜に浮かぶ、ちょっとキッチュな光を拾い集めて、楽しんでみる。暗闇に、ぼんやりと浮かぶ光の数々... 明滅し、時にグルグルと回ったり、高速で流れて行ったり。そんな、暗闇の中に現れる、現実からそう遠くないファンタジーに、さらりとポエジーを重ねて。このあたりが、リアルな夜のスナップにも思え、シュフの現代的な感覚に、共感せずにはいられない。が、シュフとしては、文学や絵画にインスパイアされた作品を、凝り気味(?)に並べてみて、「夜想」を響かせたかったようだけれど。
何はともあれ、シュフの、夜は、独特の気分を孕んでいて、スタイリッシュなサウンドと、ファンタジックなトーンのバランスが絶妙... それは、他のピアニストでは味わえない、希有な感覚で。特に、最後の最後で、モーツァルトのアダージォ(track.12)を奏でてくるあたり、一筋縄ではいかない。意外にも、このモーツァルトこそが、ダークだったり?

Nachtstücke
Herbert Schuch, piano


シューマン : 4つの小さな夜曲 Op.23
ホリガー : エリス 〔3つの小さな夜曲〕
スクリャービン : ピアノ・ソナタ 第9番 Op.68 「黒ミサ」
ラヴェル : 夜のガスパール
モーツァルト : アダージォ ロ短調 K.540

ヘルベルト・シュフ(ピアノ)

OEHMS CLASSICS/OC 733




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