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いつリリースされたの? [2009]

輸入元、マーキュリーが扱うレーベルというのは、どれもセンスがいい。それでいて、いつも解説に丁寧な日本語訳を付けてくれる。他の輸入元とは、ちょっと違う... のだが、CDがいつリリースされるのか、よくわからないのに困った。レーベルのサイトでは、随分と前から紹介されているのに、国内に入ってくるのは、随分と後になって... ということも多々ある(結局、入って来ないものも?)。また、近頃は、輸入盤扱い(対訳無し... だが、安い!)でリリースされるのか、国内盤扱い(対訳あり... だが国内盤プライス... )でリリースされるのか、はっきりしないようなところもあって、楽しみにしている側としては、混乱させられるばかり。そんなこんなしている内に、いつの間にリリースされていたの?!と、驚かされることも...
ということで、最近、驚いた2タイトル。ロシアの新星、リュビツカヤが弾く、シュニトケの、ピアノと弦楽オーケストラのための協奏曲(FUGA LIBERA/FUG 532)と、モネ劇場のユース合唱団"ラ・コラリヌ"が歌う、フランク、ドリーブらの、フランスの合唱作品集(FUGA LIBERA/FUG 542)を聴く。それにしても、いつリリースされたの?


スリリングだけれど、ペシミスティックな映画館。

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一時期、シュニトケ(1934-98)は、物凄く取り上げられていたように思うのだけれど... 煮詰まってしまった"ゲンダイオンガク"に、多様式主義という風穴を開けて、現代音楽の救世主?のような、そんなポジションで... おかげで、極めて録音に恵まれた作曲家の1人。が、多様化が加速する"ゲンダイオンガク"において、いつのまにやら、シュニトケ熱も冷めて... そんな21世紀、久々に聴くシュニトケ。
ピアノの、瑞々しく美しい単音と、その流れを壊すように現れる不協和音... 出だしから印象的な、ピアノと弦楽オーケストラのための協奏曲は、アンビエントな美しさに、破壊的なサウンドが立ち現れて、独特のシュニトケ・ワールドに誘ってくれる。それは、久々だったからか、なんとも新鮮!映画音楽のようなヴィヴィットさと、エモーショナルなサウンドを追っていると、ヨーロッパ映画を見ているような、そんな感覚もあって、魅力的。様々な表情を見せるドラマは、なかなかスリリングで濃密。聴き入ってしまう。
映画音楽も多く手掛けたシュニトケだが、シュニトケにとっての映画音楽は、ソヴィエトから、前衛=反体制的のレッテルを貼られ、芸術音楽から締め出しを喰らったことで、生活を支えるための実用音楽であった。が、西欧追随の前衛に突き進まず、やがて独特の音楽世界に至る上で、そうした苦境が、糧にすらなっていることが興味深い。ショスタコーヴィチにも言えることだが、時として、ソヴィエトにおける不自由さは、20世紀音楽の特異なスパイスになり得たわけだ... もちろん、過去となった今だからこそ言えることだけれど...
そんなスパイスが、ふんだんに利いたピアノと弦楽オーケストラのための協奏曲を、リュビツカヤの澄んだピアノの音が捉えて印象的。その、どこか冷たく、硬質な印象も受けるタッチが、この協奏曲から聴こえてくるストーリーに、何とも言えない焦燥や、ペシミスティックな気分を際立たせる。一方、ゴレンシテイン率いるロシア国立響の演奏は、鮮烈な弦楽のサウンドを聴かせて、エモーショナル。映画音楽のイメージは、より濃くなるようで、この作品のおもしろさを、より引き出されるよう。
さて、興味深いのは、協奏曲の後で、多様式主義に至る以前の2作品、ひとつの和声上の変奏曲(track.2)、即興とフーガ(track.3)が演奏されること。まさに、西欧の「前衛」に刺激を受けて書かれたストイックなサウンド。ソヴィエトに目をつけられてしまうわけだ... ピアノと弦楽オーケストラのための協奏曲とのコントラストは、衝撃的ですらある。が、この作曲家の研ぎ澄まされた感性は、よりクリアに聴こえ。また、リュビツカヤのピアノが、そうした感性とよく共鳴し、20世紀、「前衛」の時代を、クールに響かせる。

Alfred Schnittke ― Victoria Lyubitskaya
Concerto for Piano - Variations on one Chord - Improvisation & Fugue


シュニトケ : ピアノと弦楽オーケストラのための協奏曲 Op.136 *
シュニトケ : ひとつの和声上の変奏曲 Op.39
シュニトケ : 即興とフーガ Op.38

ヴィクトリア・リュビツカヤ(ピアノ)
マルク・ゴレンシテイン/ロシア国立交響楽団 *

FUGA LIBERA/FUG 532




イノセンスで、アンティークな音楽室。

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フランク、ドリーブ、フォーレ、ピエルネの合唱作品を集めたアルバム"Nymphes & Fleurs(ニンフたちと花々)"。フランスの合唱作品というと、20世紀に入ってからの近代音楽のイメージが強い。が、ブリッュセル、モネ劇場のユース合唱団の女の子たち"ラ・コラリヌ"が歌うのは、その前の、19世紀、フランスのロマン主義の合唱作品(ピエルネは、どちらかと言うと「20世紀」のイメージが強いが... )。というあたり、気になって、手に取ってみたのだけれど、我ながら、妙なものを聴いている。という自覚は、さすがにあったり... 女の子たちの合唱... 何と言うか、いろいろな意味で、危ういアルバム。
"クラシック"とは、音楽における「ラグジュアリー」。であるならば、"ラ・コラリヌ"が歌う姿は、寄宿学校の女の子たちが、音楽室で歌っているような雰囲気で... それって、ユル過ぎない?とか思いつつ、なんとなく聴き入ってしまうのは、「ラグジュアリー」なサウンドにはない、優しげで、シンプルな輝き?複雑でないものを、何気なく、それとなしに歌うことの魅力?このアルバムは、そんなイノセンスな魅力がツボ。また、そんなイノセンスさが、フランス、プレ・モダンの巨匠たちの音楽に、いつもとは違う表情を見出して、ちらりと新鮮だったり。オルガンの前で厳めしいフランク... バレエにオペラに、劇場の中で華やかなドリーブ... ではない、音楽室の親密感。ニンフたちと花々... という、どこかチープなタイトルも、妙にはまってくるユルさ。
そこに、ギィ・パンソンが弾く、1892年製、エラール・ピアノの響き。上品でアンティークな匂いを漂わせ(まさに、寄宿学校なイメージ?)、魅力的なアクセントに。さらには、フランクの「人形の嘆き」(track.7)、「ゆるやかな舞曲」(track.9)、ドリーブのバレエからの編曲、ピツィカーティ(track.12)と、グラン・ヴァルス(track.15)という、ピアノ・ソロの小品も取り上げられ、これがアクセント以上に魅力的!ユース合唱団の伴奏ピアニストとはいえ、"ピリオド"の世界で活躍するパンソンをキャスティングしてくるあたり、実は、かなり凝ったアルバムなのかもしれない...
イノセンスで、アンティークな音楽室。間違いなく、他では聴くことのできない空気感に満ちているアルバムだ。それは、なんとも危うい空気感で... また、ジャケットの絵など、どこか象徴的で。誰の作品かはわからないようだが、どこか、ヘンリー・ダーガー?な雰囲気もあって... そんなジャケットが扉となれば、ルシール・アザリロヴィックの『エコール』なんて映画を思い出してしまう。しかし、そんな危うさに踏み込んだからこそ、このアルバムは成立している。ちょっと、稀有な1枚だ。

Nymphes & Fleurs ― Delibes, Franck, Fauré, Pierné

フランク : 6つの二重唱
フランク : 人形の嘆き *
フランク : 5月の最初のほほえみ
フランク : ゆるやかな舞曲 *
ドリーブ : 蜜蜂
ドリーブ : ノルウェイ女
ドリーブ : ピツィカーティ(スケルツェッティーノ) *
ドリーブ : 森のニンフ
ドリーブ : ピフェラリ
ドリーブ : グラン・ヴァルス 〔アダンのバレエ 『海賊』 のために、ドリーブによって補追された 「花の踊り」 にもとづく〕 *
フォーレ : 小川 *
ピエルネ : 飛んでゆく冬
ピエルネ : 小麦の中に *
ピエルネ : 妖精のロンド

ブノワ・ジョオ、フロランス・ユビー/ラ・モネ王立歌劇場ユース合唱団"ラ・コラリヌ"(女声)
ギィ・パンソン(1892年製、エラール・ピアノ) *
ロール・デルカンプ(ソプラノ) *

FUGA LIBERA/FUG 542




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