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ドナウのこだま、 [2009]

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ウィーン出身のガンバ奏者、クリスティアン・ツィンケを中心に創設されたピリオド・アンサンブル、エコー・デュ・ダニューブが、フロリアン・ドイター(ヴァイオリン)らを招いて、規模を少し大きくして... アレクサンダー・ヴァイマン(チェンバロ、フォルテピアノ)の指揮で、ウィーン古典派、黎明期の巨匠、ヴァーゲンザイルの協奏曲を集めたアルバム(ACCENT/ACC 24186)をリリース。おぼろげに認識しているヴァーゲンザイルを知るにはいい機会?と、聴いてみれば、びっくり。モーツァルトも親しんだというその音楽の、なんと魅力的なこと!近頃、ちょっとエキセントリック(?)なアルバムばかりが続いていたから、余計に感じてしまう?

ゲオルク・クリストフ・ヴァーゲンザイル(1715-77)。
ウィーン生まれで、ウィーンのバロックの大家、フックス(1660-1741)について学び、1739年、ウィーンの宮廷作曲家に。以後、その死まで、ウィーンで活躍した生粋のウィーンの作曲家。一方で、国際的にも広く知られる存在だった。とのこと... で、その音楽だが、なかなか興味深い。
大バッハの次男、カール・フィリップ・エマヌエル(1714-88)、ウィーンのオペラ・シーンで活躍していたグルック(1714-87)の1歳年下。神童、モーツァルト少年の父にして先生、レオポルト(1719-87)の4歳年上。そんな世代にあたるヴァーゲンザイル... "バッハの息子"、"モーツァルトの父親"世代となれば、これぞ過渡期!なサウンド(ある種の煮え切らなさ?)を想像するが、バロックは脱し、その先に、はっきりとモーツァルトを感じるサウンドに、ちょっと新鮮な思いもする。疾風怒濤なグルックとも、多感主義なカール・フィリップ・エマヌエルとも、フランス趣味なギャラントさともまた違う、ウィーン古典派の流麗さが、ふわっと広がる。もちろん、残り香としての「過渡期」も、無くはないのだけれど...
1曲目、オーボエ、ファゴット、管弦楽と通奏低音のための協奏曲の1楽章の、颯爽と始まり、快活なあたりは、カール・フィリップ・エマヌエルを思い起こし、2曲目、ハープ協奏曲の2楽章(track.5)の、ハープによるセンチメンタルな表情は、イタリア・バロックの気分が滲む。が、そうした部分、過去に引きずられるようなイメージはなく(カール・フィリップ・エマヌエルは同世代なので、「過去」としてしまうのは問題だけれど... )、絶妙なアクセントとして巧みに取り込まれる。「過渡期」の一瞬を、美しくフリーズして、ウィーン古典派の色で淡く彩色を試みて、かえって印象的に響いたり。それにしても、なんと優雅な!上品さと、やわらかさと、清々しさ... これが、ウィーンの古典派なのかと、その源流を知ることで、やっと納得できたような。それは、まさに、モーツァルトのあのサウンドを育んだ"ウィーン"。
そんなウィーンの響きに、大きな共感を寄せてなのか、ウィーン出身のツィンケ、そして、ドナウのこだま=エコー・デュ・ダニューブの演奏がすばらしく。これまでのバロックから時代を下って、古典派のレパートリーに挑む彼らの響きが、ヴァーゲンザイルの音楽に思いのほかフィット、さらに魅力は増すよう。ピリオド・オーケストラといえば、エッジを利かせまくって、鋭過ぎるノン・ヴィブラートで、スリリングな演奏を繰り出すイメージがあるわけだけれど、そんな"ピリオド"感を、いい具合に緩めて、その緩み具合に、ヴァーゲンザイルのサウンドが驚くほどはまって、エクセレント!この加減、ラインとは違う、ドナウのDNA?けして"ピリオド"ならではの魅力が損なわれるわけでもなく、その絶妙なバランスは、見事。で、そんなアンサンブルの一員でもあるソリストもすばらしく...
エコー・デュ・ダニューブの中核メンバー、ヨハンナ・ザイツのハープは、特に印象的。ハープ協奏曲(track.4-6)での、その愛らしい響きは、何とも言えない。モダンのハープのようなゴージャスさとは違う、アンティークな雰囲気と、軽やかさが生み出す表情は、よりポエティックで、ファンタジックで、ウィーンのやわらかさがより際立つよう。そして、フロリアン・ドイターのヴァイオリン!いつもながら、本当にナチュラルで、オーガニックですらあって... 肩の力が抜けた先にある彼の"ピリオド"は、エコー・デュ・ダニューブ、ヴァーゲンザイルの音楽と絶妙の相性を響かせて、そのやさしげな表情には聴き入るばかり。また、フォルテピアノ、ヴァイオリンと弦楽のための協奏曲(track.7-9)で、ドイターのヴァイオリンに、そっと寄り添いながら、やわらかな掛け合いを聴かせるアレクサンダー・ヴァイマンのフォルテピアノが、さらにやさしげな音を奏で... ソロを弾きながらも、控えめですらあるヴァイマンなのだが、その存在は、けして霞むことがない。一音一音、丁寧に、アンサンブルの全ての音に配慮しての打鍵は、さらにナチュラルな表情を生み、何とも言えない心地良さで全体を包むよう。
いや、本当に心地良い。ヴァーゲンザイルの音楽、エコー・デュ・ダニューブの演奏が、こういう風に心地良く共鳴し、輝き出すとは!もっともっと、聴きたくなってしまう... ヴァーケンザイルから、ウィーン古典派の流れを下って、モーツァルトあたりも...
ということで、エコー・デュ・ダニューブの次のアルバムは、やはりウィーン古典派の黎明期を担った作曲家、ゲオルク・ロイター(1708-72)の作品を取り上げるとのこと。彼らの今後は、ウィーンの古典派の歩みをたどることになるのか?ハイドン、モーツァルトだけでない、"ウィーン"のサウンドを、さらに期待してしまう。

Wagenseil ・ Concerts Choisis ・ Echo du Danube

ヴァーゲンザイル : オーボエ、ファゴット、管弦楽と通奏低音のための協奏曲 変ホ長調 WWV 345 *
ヴァーゲンザイル : ハープと弦楽のための協奏曲 ヘ長調 WWV 281 *
ヴァーゲンザイル : ピアノ、ヴァイオリンと弦楽のための協奏曲 イ長調 WWV 325 *
ヴァーゲンザイル : フルート、弦楽と通奏低音のための協奏曲 ニ長調 WWV 342 *

スザンヌ・ルジェル(オーボエ)、ライナー・ヨハンセン(ファゴット) *
ヨハンナ・ザイツ(ハープ) *
フロリアン・ドイター(ヴァイオリン)、アレクサンダー・ヴァイマン(フォルテピアノ) *
マルティン・サンドホフ(フラウト・トラヴェルソ) *
アレクサンダー・ヴァイマン/エコー・デュ・ダニューブ

ACCENT/ACC 24186




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