パワフル・ベルカント。

押しも押されぬ、新"クラシック"アイドル、アンナ・ネトレプコ。
そして、DGが売出し中、新たなメッゾ・ソプラノのスター、エリーナ・ガランチャ。
DGの新世代、二大看板による、ベッリーニのオペラ『カプレーティとモンテッキ』(Deutsche Grammophon／477 8031)がリリースされ、聴いてみることに... それにしても、フレッシュで、豪華な組み合わせ。真っ当なオペラ・ファンならば、この2人にこそ、目が奪われて、しかるべきなのだろうけど... そんな2人を支える、イタリア出身のマエストロ、ファビオ・ルイジの方が気になってしまって...

ヴェルディの没後100年のメモリアル、2001年。PHILIPSが、ヴェルディのオペラ全曲録音を完成させるために、ルイジを抜擢し、残されていた3演目、『イェルサレム』、『アルツィラ』、『アロルド』を、相次いでレコーディング。その並々ならぬテンションと、見事に整理されたサウンドと、ただならない密度で聴かせるドラマに、予想外に圧倒されて、鮮烈な記憶として残る。ものの。その後のルイジは、MDR響とのフランツ・シュミット、マーラーの交響曲、ドレスデン・シュターツカペレとのリヒャルト・シュトラウスの交響詩と、リリースは、独墺系、オーケストラものにシフト気味。だったが、このベッリーニのオペラ『カプレーティとモンテッキ』が登場。久々に聴く、ルイジのイタリア・オペラに、エキサイト！
まず、序曲から、これぞイタリア・オペラ！といった、「ちゃきちゃき」感。独墺系の作品では、雄大かつナチュラルな音楽を、丁寧に編んでくるルイジだが、イタリアの血は争えない？ベルカント・オペラというと、まず、その"ベルカント(美しい声)"が重視されるわけで、そうしたベルカントで歌われる聴かせ所、ガラス細工のようなコロラトゥーラばかりに、耳が向いてしまう。あるいは、そうしたプリマドンナたちの芸術に傾くばかり、ドラマとしての緩さを、どこかで感じてしまうのだが... ルイジの手に掛かれば、やっぱり一味違う。全2幕、テンションは高めで、"ロミオとジュリエット(シェイクスピアとは違うが... )"の悲恋のドラマは、物語が動けば動くほど求心力を得て、ベルカントはパワフルな表情を見せ、ベッリーニが、ヴェルディのように展開していく。このあたりが、ルイジ流か(1幕の、幕切れに向けての盛り上がりは、圧巻！)。
それでいて、勢い任せのアバウトなサウンド... なんてこと、あり得ないのがルイジのイタリア・オペラ。テンションを維持しつつ、常に全体像を捉えるそのバランス感覚は、見事。また、ルイジのヴィジョンを、きっちりサウンドにしてくるウィーン響(ルイジが首席指揮者を務める... )の演奏もなかなかで... 何気ないあたりでも、ふくよかさ、あるいは厚みをしっかり持たせて、「イタリア」ではない「オーストリア」な、丁寧な仕事ぶりが印象的。ルイジが繰り出す「ちゃきちゃき」感を、そこはかとなく独墺系のゴージャスな響きで支えていて、絶妙。そんな、しっかりとしたベースの上で、今をときめく、2人の歌手が歌うわけだ。が...
実は、ネトレプコの声が、なんとなく苦手...　いや、苦手と言うよりは、彼女にあったロールで、彼女を堪能したい... という思いが強いのか。もちろん、ジュリエッタでも、間違いなく、すばらしい歌を聴かせてくれている。のだが、どうも、少女の軽やかさや透明感とは異なり、その存在感は、立派過ぎてしまう。そして、ガランチャのロメオは力強く、ネトレプコのジュリエットに、まったく引けを取らない。のだが、その力強さに、恋に突っ走る青年の瑞々しさは薄い？もちろん、ネトレプコ同様にすばらしい歌を聴かせてくれて、2人が揃えば、圧巻ですらあるのだけれど。この録音が、ライヴ録音でなかったら、また印象も違ったのかも？
いや、まったく、贅沢な欲求で... ドラマティックなイタリア・オペラを望みつつ、繊細極めるベルカントの芸術も聴いてみたくなってしまう。

BELLINI: I CAPULETI E I MONTECCHI
NETREBKO | GARANČA | WIENER SYMPHONIKER | FABIO LUISI

■ ベッリーニ : オペラ 『カプレーティとモンテッキ』

ジュリエット : アンナ・ネトレプコ(ソプラノ)
ロメオ : エリーナ・ガランチャ(メッゾ・ソプラノ)
テバルド : ジョセフ・カレヤ(テノール)
カッペリオ : ロバート・グリアドウ(バス)
ロレンツォ : ティツィアーノ・ブラッチ(バス)

ウィーン・ジングアカデミー(コーラス)
ファビオ・ルイジ／ウィーン交響楽団

Deutsche Grammophon／477 8031

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