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最後から2番目の思想。 [2009]

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タローがサティ?
その組み合わせ、ちょっと意外?少し驚きつつ聴いてみる、アレクサンドル・タローの最新盤、『エリック・サティ、最後から2番目の思想』(harmonia mundi/HMC 902017)。"クラシック"にして、その領域からはみ出しかねない、やわらかな存在、サティと、どう対峙するのだろうか?しかし、一筋縄ではいかないピアニスト、タロー。御馴染のサティの音楽を、たっぷり2枚組で、凝ったつくりで、新たなイメージで響かせる。
その1枚目、"Solo"と題し、サティ作品には欠かせない、グノシェンヌやジムノペディを散りばめて、タローのピアノ・ソロで聴くサティ... そして2枚目は、"Duos"と題し、エリック・ル・サージュ(ピアノ)、イザベル・ファウスト(ヴァイオリン)ら、豪華アーティストを招き、普段、あまり聴くことの少ないデュオ作品、さらにシャンソンを取り上げて、その多彩さに遊ぶサティ... まったく、こだわりの人、タローならではの、絶妙な選曲、構成。求道者、タローが、サティのシンプルで深い音楽世界に挑む姿は、なかなか興味深く、期待以上!

ということで、まずは"Solo"。その1曲目、グノシェンヌの1番。輪郭のしっかりとしたタローのサティに、少し、硬い印象を受ける。が、どこか、確信に充ちた、揺るぎない音でもあって、この謎めく音楽のイメージは変わるよう。そんな、輪郭をきっちり捉えようとするタッチは、2曲目、舞踏への小序曲で、その「舞踏」なあたりを、何気なく引き立たせ、よりタローのスタンスが見えてくる。3曲目、ジムノペディの1番では、音量を巧みに抑えもし、この作品の持つ独特の雰囲気を醸すものの、音は、けして滲まない。
情緒に流されない、クリアな響き... さすが、タロー。現代作品に向き合うような、そんな姿勢を感じ、サティならでは?の、「アンニュイ」な気分は晴れて、また一味違うサティが響き出す。となると、冷たくなるかと思いきや、明るく、ポップに。かえってフランスっぽさがこぼれ出すから、おもしろい。ピカデリー(disc.1, track.12)や、いくぶん生き生きと(disc.1, track.31)のような、メロディックで小粋な作品では、まさに!軽やかに歌うピアノに、タローの新たな一面を見る思いも。
そして、"Duos"でのタローは、変幻自在... まず、ル・サージュを迎えての連弾。彼らの息のぴったりと合った演奏は、まるで、1人のよう?それでいて、いつものタローとは趣を変えて、しなやかにル・サージュの音楽性に添っても見せて、また少し、驚かされる。そうして生まれるサティの音楽は、鮮烈に響いて、さらに驚かされる。特に、『風変わりな美女』(disc.2, track.12-16)の大胆さは、圧巻。ラグタイムのノリを、キレと鮮烈さで、より盛り上げて... さらに、シネマ(disc.2, track.20)では、ミヨーにより4手に拡大されたヴァージョンであることも大きいかもしれないが、シュールで軽妙な... というこれまでのイメージを越えて、まるで2台ピアノ版の『春の祭典』を聴くような斬新さ。
もちろん、"Duos"には、ル・サージュだけでなく、イザベル・ファウスト(ヴァイオリン)、ダヴィッド・ゲリエ(トランペット)も迎えられ、小品の短い演奏(ゲリエは、特に... )ではあっても、それぞれに鮮やかな音を響かせる。また、ダフェネオ、『リュディオン』などの歌曲を歌う、ジャン・ドゥルスクルーズ(テノール)の歌が、最高。絶妙にチープな気分を漂わせ、その力加減がたまらなく、サティの音楽世界にぴったり... さすがは、タロー、すばらしいキャスティング。だが、さらにさらに、キャスティングの妙が光るのが、ジュ・トゥ・ヴ、エンパイア劇場の歌姫などを歌う、ジュリエット(!)。
まさにシャンソン!ただただシャンソン(フランスですら絶滅危惧?な、オールド・ファッション... )。下手に、ソプラノ歌手なんかを連れて来て、綺麗にまとめる... なんてことをしない、タローのセンスに、心意気に、感服。いや、大正解!ジュリエットの声の全て(擦れ、くぐもり... )に、パリの粋(エスプリ)が溢れ、酔わされる。いや、彼女の声がスピーカーから流れ出した瞬間、空気が変わるよう... の前に、彼女、ナニモノ?!一方、タローのピアノは、とにかく控え目で、そっと、ジュリエットに寄り添って。自分のアルバムであることを、声高に主張するなど、まったくしない。徹底して伴奏者。
一筋縄ではいかないピアニスト、タローが、"Solo"と"Duos"、それぞれ、柔軟に対応してみせて、とことんサティと向き合う... 「とことん」は、まさにタロー。だけれど、「柔軟」なあたりに、タローの違う一面を見つけ、サティのみならず、タロー自身にも新鮮な思いも。そうして、ナチュラルに、新しいサティを紡ぎ出すタローの姿勢に、感動すらあって。何より、ステレオタイプを脱ぎ捨てて、見事、サティを最大限に楽しむ!

ちなみに、このアルバム、いろいろ仕掛けがあるようで... 最後の最後で、コソコソ、秘密を囁いているのは、タロー自身?ボーナス・トラックは、サイトの中に?

Erik Satie Avant-dernières pensées

"Solo"

サティ : グノシェンヌ 第1番
サティ : 舞踏への小序曲
サティ : ジムノペディ 第1番
サティ : 本当にぶよぶよした前奏曲
サティ : グノシェンヌ 第2番
サティ : 嫌らしい気取り屋の3つのワルツ
サティ : グノシェンヌ 第3番
サティ : ピカデリー
サティ : 自動記述法
サティ : グノシェンヌ 第4番
サティ : 操り人形は踊っている
サティ : メドゥーサの罠 *
サティ : 冷たい小品
サティ : 最後から2番目の思想
サティ : いくぶん生き生きと 〔『エスキースとクロッキーの手帖』 より〕
サティ : 乾からびた胎児
サティ : グノシェンヌ 第5番
サティ : ワルツ―バレエ
サティ : 世紀ごとの時間と瞬間的な時間
サティ : ばら十字団の最初の思想
サティ : 金の粉
サティ : グノシェンヌ 第6番

"Duos"

サティ : 梨の形をした3つの小品 *
サティ : ジュ・トゥ・ヴ *
サティ : お医者さんのところで *
サティ : 僕には友達がいた *
サティ : エンパイア劇場の歌姫 *
サティ : 風変わりな美女 〔連弾版〕 *
サティ : 右や左に見えるもの *
サティ : シネマ 〔ミヨーによる連弾版〕 *
サティ : ダフェネオ *
サティ : 歌曲集 『リュディオン』 *
サティ : ブロンズ像 〔C管トランペットとピアノのための嬉遊曲〕 *
サティ : シテール島への船出 *
サティ : いいとも、ショショット *

アレクサンドル・タロー(ピアノ)
アレクサンドル・タロー(プリペアード・ピアノ) *
エリック・ル・サージュ(ピアノ) *
ジュリエット(ヴォーカル) *
イザベル・ファウスト(ヴァイオリン) *
ジャン・ドゥルスクルーズ(テノール) *
ダヴィッド・ゲリエ(トランペット) *

harmonia mundi/HMC 902017




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