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バッハ、そしてゼレンカ。ザクセン選帝侯国にて... [2009]

鈴木雅明率いるバッハ・コレギウム・ジャパンの最新盤、バッハのカンタータのシリーズ、vol.42(BIS/BIS-SACD-1711)と、チェコ、気鋭のピリオド・アンサンブル、ヴァーツラフ・ルクス率いるコレギウム1704の、ゼレンカのミサ(Zig-zag Territoires/ZZT 080801)を聴いてみる。のだが、バッハのカンタータと、ゼレンカのミサを聴く... それは、なかなか興味深いことで...
ヨハン・セヴァスティアン・バッハ(1685-1750)と、ヤン・ディスマス・ゼレンカ(1679-1745)。ザクセン選帝侯国内の商業都市、ライプツィヒ(バッハ)と、宮廷のあったドレスデン(ゼレンカ)の音楽。プロテスタントの教会音楽(バッハ)と、カトリックの教会音楽(ゼレンカ)。バロックの爛熟期、1726年のカンタータ(バッハ)と、1739年のミサ(ゼレンカ)。距離、年代も近くて、けど対照的な2つ音楽... 並べてみれば、バロック期、ドイツ東部の音楽シーンが見えてくる?


1726年、ライプツィヒ。

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バッハ・コレギウム・ジャパン(以後、BCJと略... )の、カンタータのシリーズ... とうとう1725年のカンタータが終わり(いや、まだある?)、ソロ・カンタータ集を挟んでのvol.42は、1726年のカンタータの始まり。1726年の新年顕現節のために用意された4つのカンタータ(72、32、13、16番)が取り上げられる。
のだけれど、どうもクリスチャンでないと、「新年顕現節」というのがよくわからない... で、クリスマスにイエスが降誕し、年が明けて、東方三博士がお祝いに来た(日が、顕現祭=1月6日とのこと... )ことにちなむお祭り?のよう。ということで、すでに3月ではあるのだけれど、ハッピー・ニューイヤー!な、明るいサウンドを期待して、手に取ってみたら。ハッピーとはちょっと違うものの、1曲目、72番のカンタータ、その冒頭の、力強いサウンドに、早速、魅了されてしまう。
毎度のこととはわかっていながら、新鮮な思いをせずにはいられない、BCJのカンタータのシリーズ。バッハにとってのカンタータの作曲は、毎週やって来る、日曜の、礼拝のためのルーティン・ワーク。どれほどの思いを持って書いたのかはわからないが、21世紀、それを丁寧に拾い上げるBCJの演奏を耳にすると、間違いなく、一つ一つ違った表情を見せてくれて、何気なくも、はっとさせられる瞬間がやって来る。そうして、あまりに確固としたイメージのあるバッハの音楽の多様さを知り、時に意外性に驚かされたりもし...
大バッハというと、音楽史の偉大な肖像の一方で、そのローカル性や、だからこそなのか、同時代の作品と並べると、時代遅れな印象もあったり?なのだが、ゼレンカと並べれば、意外にそうでもなく、バッハのカンタータに、フレッシュなものを感じてしまう。必要最小限の規模から繰り出される、端正かつ伸びやかな音楽は、ほんの少し、ロココも滲むのか... 16番の3曲目(track.21)、コーラスに導かれてバスが歌うアリアの、コーラスが歌う、キャッチーで明るく、ノリよく、気の置けないメロディ(実は、72番でも、ちらりと聴こえてきたり?)は、まさにハッピー・ニューイヤー!な、ハッピーなサウンド(1726年、1月1日用のカンタータだけある... )で、期待通りでもあったり。
それにしても、BCJの、やさしくオーガニックなサウンドは、たまらなく心地よく。印象的なのは、ボーイ・ソプラノのようなあどけなさも漂わせる、レイチェル・ニコルズのソプラノ... ピュアで、ナチュラルで、けど不思議な感触は何なのだろう?なかなか、稀有な声。気になる。

J.S. Bach ・ Cantatas ・ BCJ / Suzuki

バッハ : カンタータ 第72番 『すべてはただ神の御心のままに』 BWV 72
バッハ : カンタータ 第32番 『いと尊きイエス、わが憧れよ』 BWV 32
バッハ : カンタータ 第13番 『わがため息、わが涙は』 BWV 13
バッハ : カンタータ 第16番 『主なる神よ、汝をわれらは讃えまつらん』 BWV 16

レイチェル・ニコルズ(ソプラノ)
ロビン・ブレイズ(カウンターテナー)
ゲルト・テュルク(テノール)
ペーター・コーイ(バス)
鈴木雅明/バッハ・コレギウム・ジャパン

BIS/BIS-SACD-1711




1739年、ドレスデン。

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BCJによる、やさしくオーガニックなバッハのカンタータの後で聴く、ゼレンカのミサは、何だか、凄い... まず、躍動的なキリエに、そのテンションに、驚かされる。のだが、ゼレンカが大病をして、その快気祝い、いや感謝として、神に捧げたミサとのこと... まさに。納得。
ドレスデンの教会音楽のトップを務めたゼレンカ。大規模な編成が可能だった音楽都市の、力量、技量を、最大限に活かしたのだろう、バッハのカンタータにはないゴージャスなサウンドが、物凄い推進力で突き進む。そんな、滾々と湧き上がる音楽には、生きる喜びが、はち切れんばかり!270年も前の音楽が放つ生命力に、ちょっと中てられてしまうようなところも... そして、それほどまでのパワフルなバロックのミサに、ゼレンカという存在を、改めて興味深く感じる。
チェコ出身のゼレンカ... 後のチェコ出身の作曲家にある鮮烈な感性が、このバロックの作曲家の中にも、すでにあるようで、時折、バロックという枠組みに収まりきらなくなるヴィヴィット感は、癖になりそう。また、音楽都市、ドレスデンの国際性を感じさせるイタリアン・テイスト... ヴィヴァルディのコンチェルトを思わせるアップ・テンポぶり。ヘンデルのイタリア時代を思わせるようなアグレッシヴさに、心躍らずにはいられない。一方で、かちっと"バロック"してそうなのだけれど、モーツァルトとの距離感をそう感じないミサでもあって(いや、モーツァルトが実は古臭かった?とも言えるのかも... )、なかなか、おもしろい。
そんな音楽を、刺激的に鳴らしてくるヴァーツラフ・ルクス率いるコレギウム1704が、すばらしく。息つく暇なく、バロックを、マキシマムに展開して、圧倒!ことのほかポジティヴなサウンドと、それらをしっかりと支える確かな音楽性は、コーラス、オーケストラともに間違いなく。ソリストも粒揃い。西欧にまったく引けを取らない、チェコの"ピリオド"を、強く印象付ける。そして、さらなるゼレンカ作品の録音を、期待してしまう...

Zelenka Missa Votiva Collegium 1704 | Václav Luks

ゼレンカ : ミサ・ヴォティヴァ ZWV 18

ハナ・ヴラツィコヴァ(ソプラノ)
スタニスラヴァ・ミハルコヴァ(ソプラノ)
マルケタ・チュカロヴァ(アルト)
トマシュ・コルジーネク(テノール)
トマシュ・クラル(バス)
リサンドロ・アバディ(バス)
コーラス : コレギウム・ヴォカーレ 1704
ヴァーツラフ・ルクス/コレギウム 1704

Zig-zag Territoires/ZZT 080801

さて、ゼレンカのミサを聴いて、ふと思う。バッハのロ短調ミサと比べたならば... バッハの不器用さ(古いスタイルを用いながら、必死で新しいスタイルとも悪戦苦闘する姿... )を感じるようで、ドレスデンでのポストを狙いながらも、結局、ライプツィヒから離れることのできなかった、リアルなバッハを想像してしまう。そして、また、ゼレンカも、ドレスデンの全ての音楽のトップにはなれなかったわけで...




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サンフランシスコ人

11/9 鈴木雅明がセントルイス交響楽団を指揮します....

http://shop.slso.org/single/EventDetail.aspx?p=6175

HAYDN Symphony No. 48, "Maria Theresia"
MOZART Mass in C Minor, K. 427
by サンフランシスコ人 (2019-02-12 07:31) 

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